6

昼休みの屋上は男女の組み合わせのカップルや何人かのグループが固まって、おもいおもいに陣取っていた。木兎と赤葦はその中の、同じバレー部のレギュラーメンバーに声をかけられる。

「木兎と赤葦じゃねーか!」
「おーぅ、」
「チワす」
「お前ら屋上にいるの珍しいな」

木葉、小見、猿杙だった。赤葦は一礼し、木兎は愉快そうに3人の座っている場所に落ち着いた。

「今日は教室で食べる空気じゃなかったんだよな〜」
「そうですね」

3年生はお弁当を食べながら、だんだんと雑談に拍車がかかってきた。赤葦は携帯を取り出して、LINEを開く。

"ヨーグルトと冷えピタありがとう。お礼がしたいから、時間あるとき一緒に購買に行けないかな?"

鈴木さんから連絡がきていた。お礼の品をもらうのは気がひけるが、これは二人きりになれるチャンスでもある。3年生の教室で、木兎さんが不在のときにしか二人でいられたことがない。迷ったが、承諾することにした。

"明日のお昼休みはどうですか?"

返事はすぐにきた。可愛らしいキャラクターがOKの二文字を強調しているスタンプだ。

"明日はお昼休みになったらすぐ2年生の教室に行くね。何組?"

鈴木さんが2年生の教室に、と想像して考える。普段から女子とは一定の距離をとっているため、悪目立ちしそうなのだ。携帯の画面を睨みつけて固まっていると、3年生組が不意に覗き込んできた。気付いて画面を消すが、少し遅かった。

「なに、赤葦、彼女できたのかー?」
「ちがいます」
「じゃー、好きな子?」
「何のことですか?」
「とぼけんなって〜難しい顔で女子とLINEしてたろ」
「今なら先輩達が相談に乗ってあげよう!」
「遠慮します」

楽しそうに肩でも組みそうな勢いで仲良く悪ノリする先輩3人を前にし、気付かれない程度に浅く溜息をついた。鈴木さんが2年生の教室に来るのはダメだ。先輩達のようにクラスメイトの気が狂ってしまうかもしれない。

どうして、こんなときに過ぎるのだろう。「どうして、そんなに優しいの?」と自分に問いかける苦しそうな彼女の顔が。今は、まだ、彼女に自分の気持ちを伝えられそうにない。言ってしまえば、困らせるかふられてしまう予感がした。



。。。。




3年生の教室に続く階段の傍で、鈴木さんを待っている。購買は1階にあるため、今日は彼女の方から来てくれる。いつもとは逆のパターンに、それだけで特別なことに思える。

「赤葦くん」

携帯をいじって待っていると、顔を覗き込まれながら呼ばれた。身長差があるため、そんなに近くはないが心臓の動きと連動するように身体がわずかに反応してしまう。鈴木さんは昨日の苦しそうな顔が嘘のように、今日は向日葵のごとく明るい笑顔だった。

「何みてたの?」
「バレーの試合の映像です」
「好きだねぇ」
「…まあ、長くやってますから」

眩しささえ覚える、この笑顔をずっと見ていたくなるが、ふとこれが偽物であったらと心配になった。

「昨日の、抜歯の痛みは治ったんですか?」
「あー、あれ?歯医者さんから痛み止めのお薬たくさん貰ったから、もう平気」
「何ともないんですか?」
「うん!でも、まだ親不知あって抜歯をもう1回しなきゃいけないの!嫌だな〜」

笑いながら眉を八の字にして歯医者さんの話をする鈴木さんも可愛くて、彼女を眺めながら歩いていると購買まではあっという間だった。昼休みの購買は混雑している。クラスメイトやバレー部員などもいるが、みな我先にと目当ての商品を求めており、周囲が見えていないようだ。

「うーん、オニギリ買えるかな」
「俺タッパあるんで、先導します」
「ありがとう」

混雑の中に二人で入る。ややもすると、後ろへ流されてしまう鈴木さんの肩に思い切って腕を伸ばした。こうすれば人混みに流される事を予防できる。女性らしい華奢な肩を掴む手が汗ばむ。肩を腕で抱き寄せていると、彼女の小さな身体のほとんどが自分に預けられていると錯覚してしまう。されるがままの彼女を引き寄せながら先導した。買い物を終えて、混雑から抜け出す。彼女の頬は桜色に色づいていたが、それが混雑のためか自分と密着したためかは分からなかった。

戻る