綺麗な星が見たいです

白竜は病室のベッドの上で牙山にそう言った。
牙山は窶れて細くなってしまった白竜から目を逸らしてしまった。

「でも俺まだ歩けないし…だから教官、俺の代わりに見てきてくれませんか?」
「…分かった、今晩にでも」
「ほら、今日はなんとか流星群が見えるって」


白竜がもう長くないと医者から告げられたのは最近の事だった。
まだ若い白竜には酷な事で、本人には告げないと牙山は決めたのだった。
"大丈夫だ、また元気にサッカー出来るようになる"
白竜は牙山の嘘を信じて「早くサッカーがしたい」と毎日サッカーボールを触るのだった。

「流れ星って写真に写るんですかね」
「いいカメラで尚且つ技術がないと無理だろう」

そうだよなと白竜は少し肩を落としてしょんぼりした。
牙山の胸が痛む。

「…じゃあ俺の代わりに願い事言ってきて下さいね」
「お前の事だ、どうせサッカーだろう」
「いや…教官が長生き出来ますように!って」

牙山は体内の血液が逆流するような感覚に襲われた。
返す言葉が見当たらない。

「俺こんなだし、元気になって選手になって稼げるようになるまで時間かかるだろうし」

もう長くない
医者の言葉が喉元まで押し寄せて来ていた。
自分のついた嘘が白竜の希望になってしまっているのだ。
その罪の意識から逃げたい思いだった。
愛しそうにサッカーボールを触る白竜の姿。
牙山はこれ以上どうしていいのか分からなかった。

「だから、俺が活躍するまで教官には生きてて貰わないと!」
「…白竜…、お前は…」

「俺には教官しか居ませんから」


その晩、牙山は近辺で一番星が綺麗に見えるであろう場所まで足を運んだ。
だが空は曇っていて、星どころか月すら隠れてしまっていた。
天気が崩れる事は予報で分かっていたが、白竜には言えずにこの場所まで来てしまったのだ。
漠然とした曇り空を見上げるも、そこには何も見えない。
それでもただじっと曇り空を見上げた。
晴れるかもしれない
有りもしない可能性を信じて、ただ見上げた。

静まり返った闇に、牙山の携帯が鳴り響いた。
病院からだった。
口から全てが飛び出そうなほど、心臓がドクンと脈を打つ。
牙山は電話には出ずそのまま病院へと走った。


病室のドアを開けると、体にコードが繋がれた白竜が目に入った。
昼間は元気そうだったのに…と呟く。

「…星見えましたか…?」

白竜が消えそうな掠れた声を発した。

「…ああ見えた…綺麗だったぞ、流れ星…」
「……願い事してきてくれましたか…?」
「してきた…お前が将来活躍出来るようにとな」

きつく握った牙山の手は僅かに震えていた。
これ以上話したら崩れ落ちそうだった。
最後の会話になるかもしれないと。

「俺が頼んだ…のは…?」
「してきたぞ!だから白竜!しっかりしろ…っ」

白竜はふっと頬を緩ませ、そのまま目を閉じた。
機械音だけが病室に響く。


「白竜!白竜!しっかりしろ!サッカーするん……」



牙山の叫びをかき消すように、終わりを告げる音が鳴った。








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