手をそっと梵天の頬に当てる。小指は輪郭の線をなぞり顎の骨に触れる。梵天の目は閉じられて、長いまつ毛が目蓋の下に影を作っていた。暗い部屋で見るのは違って、明るい場所だと黄緑色の長い髪はより美しく映えていた(その分、顔色はひどく悪いけれど)。
「冷たい、ね」
「何分俺は人のような姿をしているけど君と同じ人間という訳ではないからね。心臓は一定の間隔で正常に生きているという鐘を鳴らしてくれるし。それなりに五感だってある」
耳は些細な音を聴き漏らさず、鼻腔は何かしらの匂いを嗅ぐことができ、皮膚は熱さ冷たさを感じ、視界は人なり妖なりを捉えることができ、舌は口に含んだものの味を感じることができ甘い酸っぱい辛いことが分かる。ちゃんと血液も流れている。妖とは人間に一番近い存在であり、神と同じで遠い存在。
「それだけ人間に近いから、人間だったらいいな、って思わないの?」
「――考えたことがないね。眼を開けて自分の姿を捉えて初めて自分が妖なんだって気付き妖として生きることの定めを知る」
「そういうものなんだ」
「そういうものだよ」
目を閉じたまま梵天は少しだけ控えめに笑う。
「梵天は冷たいね」
「それは悪かったね」
「性格は確かにそうだけど、そういう意味じゃなくて。体温がって意味」
ああそっちの意味かい、と梵天は小声で言う。
「水でも被って寒空の下でそのままいたの?って言われともおかしくないよね。水も滴るなんたらって感じかな」
「――六合はたまに面白いことをいう。馬鹿ではないけど」
「失礼だなあ」
冷たい頬から手を離そうとすると梵天は離すな、と怒っているわけではないけどはっきりとした口調でいい放った。
「…あれ珍しいね。いつもは不愉快だとか言うのにどういう風の吹き回しだよ」
「君の手の体温は、たまにずっと触れていたくなる。さっきも言ったけど俺は妖で、けれど五感もあって血液も流れていて、そんなのはあまり必要ない。だからたまに人の体温に触れていたくなる。人間なんて近くにいないから白紙の者――六合が、君の体温が」
薄っすらと目を開いて梵天が放った言葉。
「言ってくれたらいつでも触ってあげるよ。俺も梵天の冷たい頬は好きだよ」


2010xxx

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -