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ありがとうございました! 拍手ありがとうございます!012発売おめでとう記念、ZC+ZAのACと012ごちゃまぜ。 何故か無性に、捧げたいと思ったんだ。 平和な日が続いているなと、最近エッジの街中を歩いていて思う。 確かにセフィロスが残した厄災の爪痕だとかスラムに暮らす孤児だとか神羅の後片付けの要領の悪さだとか小さな問題はまだまだ、まだまだあるんだろうけれど、それでも確実に平和になってきていると思う。その証拠に此処に暮らす人達の笑顔は前より断然増えたと思うし、人が暮らす為の建物もボロボロだったものが立派になってきた。 そしてたまに――――街中の片隅に咲く、小さな花壇に植えられた花達。白と黄色が淡く輝くその花は、エッジの外れに存在するエアリスの教会で育てられたものだ。その花達がエッジのそこここに存在するようになった。それが堪らなく、俺は嬉しい。 以前、花はミッドガルでは高級品だった。元々ミッドガルの大地は腐っていて、花が育ち難い土の質だったと記憶している。それが今では、こうして街中の至る所で見かけられるようになった。彼女が今生きていたら、どんな風に思うだろう。きっと、あの花達のように輝いて、笑っているのだろうけれど。 「おう、ザックスじゃないか」 「あ、おやっさん…」 「買い物か?」 声をかけてきたのは、俺が日中働いてる建築現場先の職人で、うちの常連客でもある大柄な男だった。気さくな人で、バーセブンスヘブンを開いた時からの馴染みの客だ。お互い細かいことは気にしない性質だからか、すぐに意気投合して昼間も雇ってもらっている。このご時世、有り難いことだ。 俺は手にしていた紙袋を抱え直しながら、頷く。 「そ、うちの美人なマスターに頼まれてね」 「うちの仕事が休みでも、色男は毎日が大変だな」 「言うねぇ、おやっさんだって可愛い一人娘が居る癖にさ〜」 うりうり、と紙袋を抱えていない方の肘でおやっさんの厚い胸板をつついてやると、豪快に笑いながらおやっさんは俺の背中をばんばん叩く。 「そういやお前んとこのクラウドは元気か?最近見かけねぇが」 「ああ、あいつは今長期配達出張中。しばらくは戻ってこれないんだ」 つい2日ほど前から、クラウドは遥か西の方へ配達に行っている。電話での問い合わせだとか、こうして街中ですれ違う人間にクラウドのことを聞かれる。それだけあいつが、世の人間に認められ慕われている。こういったことを聞かれるのも、俺の最近の楽しみの一つ。自分の恋人が世界を救ったなんて、何かかっこいいだろ? 「そうか。じゃあ店の中が少し寂しくなるな」 おやっさんは、俺とクラウドの関係を直感で勘付いている(俺から誰かにカミングアウトしたってことは今までない)。それゆえの気遣いの言葉だと思うと、胸の奥がじんわり暖まるのを感じながら、苦笑を浮かべたおやっさんの胸をまたとん、と叩いて俺は笑う。 「ま、仕事だしな。このご時世有難いことじゃないの。お互い仕事、頑張ろうぜ?」 にっ、と笑ってやれば、おやっさんも太い声と腕でおう、と応える。適当に分かれて、俺は自分の家へと戻るために歩き始める。そうして歩きながらふと思う。これだけ花がそこここに咲いていても、やはり店の種類に花屋というのはない。他の土地に行けば花屋も存在するのだろうが、花が育ち難い土なのはこの辺りは相変わらずで、だからエアリスの教会の花はほんとうに貴重だ。それだけ厄災の爪痕は色濃く残っているこの地では特に、花は心の傷を癒してくれるようにも思えた。 「たーだいま〜」 間の抜けた声でバーの扉をくぐると、マリンとデンゼルがティファの手伝いをしていたようで、クルミの殻を一生懸命割っていた。 「おかえり。休みの日なのに悪いわね」 「いんや。ちょうど手持ち無沙汰だったしな、ほい、頼まれたモン」 カウンターに頼まれた紙袋を置くと、ティファは子供たち二人に所定の場所にしまうように言う。素直に言うことを聞く子供たち。彼女の教育の賜物だなと思いながら、それを見守るように俺もカウンターの席へと腰掛ける。 「何作ってるんだ?」 「クルミとレーズンをラム酒につけて、ドライフルーツにして後でパウンドケーキでも焼こうと思って。あ、何か飲む?」 「へー、美味そうだな。じゃあ、グレープフルーツジュース」 「ちょっと待っててね」 時計を見れば、午後の14時。昼飯も買い物の前にティファお手製のサンドウィッチを作ってもらって食ってるし、昼寝でもしたら丁度良い時間だ。普段なら現場で木材運んだり組み立てたりしてるけど、今日はその仕事が休みだから何だかほんとうにやることがなくて無気力だ。まして愛しい恋人は今はせっせと仕事の最中な訳で。 「ほんと、暇だなー…」 ぼそ、と呟いた言葉は空気にとけて消えていく。少し薄暗いバーの室内の照明がやけに眠気を誘う気がして、俺はティファから受け取ったグレープフルーツジュースの酸っぱさに思わず眉間に皺を寄せた。 * * * * (此処は、何処だ…?) 目を閉じても判るほどの、そこは白い空間なんだと思った。ひどく心地よい光と温かみに、目を開けたくなくて。喩えるなら、ぬるま湯に浸かっているような、そんな心地よさが俺の身体を包んでいる。 『 』 誰かが、俺の名を呼んだ。聞き覚えのある声だった。その声に、思わず目の奥がじんわりと滲みそうになる。鼻の先が微かにツンとした。 その名を口にしてはいけない。でも、口にせずにはいられない。 (エアリス…?) 声は、出なかった。でも確かに、はっきりと。この口は彼女の名を紡いだ。 姿は見えない。でもきっと、この近くに彼女は居る。だって、彼女の匂いが、花の香りが、したんだ。彼女の大好きな花の香りは、嗅げばたちまち身体中が癒されるような、そんな香りを纏っていたから。 俺の身体は動かない。動かせない。何故かは判らないが、力が入らない。どうしてだろう、とかそんな疑問は抱かなかった。それがこの空間では当然のように思えた。 すると、ふわりと抱き締められたような感覚がした。ああ、柔らかくて、心地が良い。まるで幼い頃母ちゃんに抱き締められた時のような、そんな感覚がした。でもその温もりは直ぐに離れて、今度は別のビジョンが瞼の裏にちかちかと映った。 (あれは…クラウド…?) 無機質な蒼碧を携え、俺が最後にあげたバスターソードを片手に、クラウドは誰かと剣を交えていた。あれは、雰囲気が少し違った。少なくとも今のクラウドじゃなかった。少しだけ顔立ちが幼いから、今よりも以前のクラウドなのだろうか。ビジョンから見える風景も、この世界のものではないと直感でそう感じた。何が目的で一体誰と闘っているのか、皆目検討もつかないけれど、でも何か為すべきことがあって剣を奮っているのだなと、それだけは判った。 『ねえ、見える?』 エアリスが、眠っている俺に声をかける。その声色は、ひどく儚くて心配しているものだった。 『まだね、苦しんでるみたいなの…』 (ああ、そうだな) 『彼を助けてあげたいんだけど、良い、かな?』 (何で、俺にそんなこと聞くんだよ?) いちいちそんなことに断りをいれるような性格でもなかった気がしたんだが、彼女は今度は悪戯っこのようにくすりと笑んで、だってね、と続ける。 『何だかクラウドは、特別放って置けないんだもの』 (ははっ…確かにな) なんて言ったらクラウドに怒られるんだろうな。くすくすと笑う綺麗な笑みが、ひどく懐かしく感じる。またふうわりと、頭を撫でられた。 『だから、ザックスも祈ってて。ちゃんと、還るべき所に、還れるように…』 (ああ…) 誰かと闘っているクラウドの背中は、ひどく小さく感じた。そして、どこか苦しそうにも。その後ろに見える、靡く銀糸。嗚呼、お前もそこに居るのか。クラウドが何でそんなに苦しそうにしているのか、何となく判った気がする。 一体幾つのクラウドがそこに居るのかは判らないが、でもクラウドにとってあいつの存在は鬼門だ。少し憎らしく思いながら、瞼の裏に映る銀糸を睨むように見つめた。すると銀糸の男は気付くことが出来ないはずの俺の視線に気付いたのか、にやりと微笑んでみせる。 この野郎、と思いながらも、意識が遠のく。エアリスの気配も、遠くなっていく。大丈夫だよ、と最後にまた聞こえた気がした。何が大丈夫なのかいまいち判らないけれど彼女がそう言うなら大丈夫なんだろう、漠然とそう思った。 そう思ったのを最後に、俺はついに意識を手放して身体の力が足の先から抜けていくのを感じた。 * * * * 「…どうした?」 「いや、何でもない」 気のせいだ、と靡く銀の男がそう言うと、歩く度に流れる銀糸が揺れた。まるで絹を縫い合わせて編んだ上等な布のようで、月の光に反射して輝くそれはこの世のものではないように思えた。 彼の後ろを少し距離を取りながら歩き出す。すると少し歩いた後、男は俺の方へと振り返っていつもの調子で質問を投げた。 「ところで、お前は黒い狼のような男を覚えているか?」 「黒い、狼…?」 一体それは何の謎解きだと思った。そんな男、俺の記憶にはない。 銀の男はくすりと綺麗な笑みを浮かべながら、ちら、と俺の向こうを一瞥する。 「?」 「お前も、いつか還る所に、還れる日が来ると良いな」 「それは何の皮肉だ?」 「好きなようにとってくれて構わん。行くぞ」 結局一体何を言いたかったのか判らなくて、一瞬俺も背後を見て、そうしてまた歩き出す。神々の闘争。それはまだ、終わりを迎えていない。何度闘えば、何度この身を削れば、この戦いは終焉を迎えるのだろう。果てのない、繰り返される輪廻。ガーランドは、闘いこそこの世界で生きる上での最高の糧になる、と豪語していた。実際には、確かにそうだ。闘うことで自分を保っていられる。でも、だんだん何の為に闘っているのか判らなくなる。元は仲間だった奴が、次に繰り広げられた闘いの先では敵同士になっていたこともある。今も、そうだ。自分は何者なのか。何の為に闘い剣を奮うのか。還るべき所は何処なのか。 いろんな世界と繋がるこの世界はひどく無機質だ。闘い、血を流さなければ温かみすら感じることのできない。沈黙と静謐を携えた世界。嗚呼、また思考が沈んでいく。深みにはまるような、そんな感覚。この男の近くに居ると、余計にそれを感じる。俺はただの人形なのに。余計なことは考えなくて良いのに。 でも奥底でもう一人の俺が違う、と常に否定しているような。そんな感覚を、以前も味わったことがあるような…。 『 』 「っ!」 誰かに、唐突に名を呼ばれた。ひどく懐かしいと感じる声。俺に懐かしさを感じる心のゆとりがあったのか。それにまず驚いて、思わず立ち止まる。空を仰げば、相変わらず大きな月がこの一帯を照らしていて。気のせいだったのだと思い、また歩き出す。 『大丈夫』 何が?という疑問はなかった。ただ、その言葉に、そうなのか、と自然に頷ける自分が居た。胸の奥が少し熱かった。じんわりと温まるそこに、この世界に来て初めて感じられたこの温かさが、やけに愛おしい、とそう思えた。 『待ってるから』 嗚呼、とどこからか聞こえてくる声に、俺は応えるように目を細めた。 その声は女のようにも聞こえたし、男のようにも聞こえた。どこの誰なのかは判らないが、でも誰かが俺を呼んでいる、そんな気がした。 (俺は、大丈夫だから…必ず、還るから) だから、と強く思う。歩きながら無意識に握った手に力がこもる。目の前の銀糸が立ち止まる。ずらりと揃った、俺を含めたカオス勢の駒たち。 ティナとティーダが、俺に近づいてくる。元気がない、と言わんばかりの表情で心配そうに覗き込んでくる様は、まるで子犬のように愛らしかった。そういえば、ずっと、ずっと前か後かは判らないが。そんな男が、以前も居たような気がする。 「大丈夫だ」 強くそう言って、ティナの頭をそっと撫でてやった。ティーダにも頷いてみせると、ティーダもまたにこりと笑む。 「さあ、行こう」 繰り返される闘いの輪廻へ、またこの身を捧げよう。いつか還るべき所へ還る為に。この闘いを終わらせる為に。アンタに、逢う為に――――。 「そうだろ? ――――」 * * * * 「ザックス、どうしたの?」 「ん?」 どさ、とカウンターのテーブルに置いた大きな花束を見て、ティファは丸い目を更に丸くさせてひどく驚いていた。そりゃそうだろうな。いかんせん俺の腕いっぱいに抱えるくらいの量の花束だ。ここまで集めるのに、苦労した。 「いや、何かさ。クラウド帰ってきた時にびっくりさせてやろうと思って」 「それにしても…ずいぶんな量じゃない…?」 色とりどり、白、赤、黄色、と淡い色とはっきりしたビビッドカラーを組み合わせた花束は、タークスの自称エースと名乗る赤毛の悪友をとっ掴まえて足に使ってやり、花屋がある町という町をヘリを出させて買い集めたものだ。値段は、まあ聞いてやるな。花束の中心には、エアリスの教会からそっと摘んだ小さな花。 不思議な夢を観た。夢にしてはじつにリアルで、だからか目が醒めた後しばらくぼうっとしていた。 きっとクラウドは、この長期出張に行った後しばらくは帰っては来ない。漠然とそう思った。でも、不思議と哀しくはなかった。ただ待っていよう、そう思った。もしかしたらアイツが帰ってくるまでこの花が保っていられるか、それは正直判らなかった。枯れる頃に帰ってくるかもしれない。あるいは、もっと年単位でかかるかもしれない。でも、必ず帰ってくる。不思議と、そんな自信があった。 ティファは、呆れながら俺と花を交互に見て、溜息を一つ。 「ほんと、これは私への宛てつけ?だとしたら、仕事の量ザックスの分だけ増やしちゃおうかしら」 「おいおい、それは勘弁してくれよ…」 「冗談よ。…クラウド、早く帰ってくると良いわね」 「…ああ」 そうだな、そう頷きながら頬杖をついて、俺は花を見つめる。 大丈夫。俺の中にある確信。夢の中で、彼を放って置けないんだと言っていた花のように笑う彼女。還ってくる。此処へ、帰ってくる。アイツが帰るべき場所は、ちゃんと在る。それが在る限り、きっと。 必ず、生きて戻って来い。 お前がどんな道に進んでも、その先に、俺は居るから。 愛を込めて花束を (理由は訊くなよ?そんな過剰な愛でも、お前は受け取ってくれるよな?) だから、 「いつまでも傍に居てくれよ」 「…ザックスって本当に気障ね」 「ほっとけ!」 fin. 何かありましたら。 |