この想いだけは、何年経っても、本物なのだと思うのだ。

























「でよー、そん時のルードのサングラス踏まれた時の顔といったらそりゃあもうこの世の終わりのような顔をしてな…」
「レノくん。その話はもう5回ぐらい聞いたぞ?もういい加減うるせぇから帰れ」
「嫌だぞ、と。ここの料理と酒はこの辺じゃ一番まともで旨いからあと2杯は呑んでから帰るぞ、と」
夜の顔、バーセブンスヘブン。今日は比較的客の出入りが少ないので、俺も珍しく階下に下りてカウンターの隅で、デリバリーの方の伝票整理をしていた。
夜は時々ザックスがティファの手伝いをしている。
白いワイシャツを腕捲りして、黒いズボンにバーテンダー風の腰から巻きつけるエプロンを身に付ければその恰好はなかなか様になっていた(最初、マリンが僅かに頬を赤らめていたのを思い出す)。
比較的誰にでも愛想が良いザックスは、すぐに客の人気者になっていた。ティファ目当てに足を運ぶ男性客もそこそこ居るが、ザックス目当てに足を運ぶ女性客も最近増えている。
ちなみに今日はタークスのレノが(冷やかしに)客として来ていた。しかも席は俺の隣。さっきからザックスとずっと世間話をしているものだから正直うるさくてかなわない。
はぁ、と何度目かの溜め息を吐いて、ペンを置いた。
電卓と紙に並ぶ数字を見て、何となく頭痛がしてきたので今日はもうこれでやめようと思い、伝票の端と端を整えてクリップで止めた。
「お、クラウド、仕事は終わったのか、と?」
「…誰かさんの所為で捗らないからやめた」
「そりゃあ悪かったな、と!」
けらけらと笑いながら煙草を取り出し、吸い出すレノを尻目に、ティファにジンライムを注文する。
「病み上がりなんだから、あんまり飲み過ぎないでよ?」
苦笑しながらテキパキと作ってくれたグラスを受け取り、一口口に含む。ほのかな苦味とライムの酸っぱい味は未だ風邪気味の喉には少し染みるようで、ふと視界の中にザックスが居ないことに気付き、自然と彼を探していた。
「ザックスならあそこでくっちゃべってるぞ、と」
煙草を咥えながらレノが教えてくれた方向を見れば、確かに彼は年のいった親父と意気投合したのか肩を抱き合って笑っていた。
「しかしまぁ、相変わらずあいつは元気だな、と」
「…そうだな」
レノの声色が、少し変わる。ザックスが2nd時代からレノは彼のことを知っている。悪友だと、ザックスは笑いながら言っていたのを思い出して、何となくそれが羨ましく思えた。
彼は俺の知らないザックスを知っている。
嫉妬しても仕様がないのに、そんな子供のような感情にグラスをもう一度口に含んだ。また喉に酒が染みた。
「あいつが無事だって聞いた時は最初信じられなかったが、ほんとよく無事だったな」
「………」
レノの纏う雰囲気が普段と違っているものだから、俺はそれに突っ込むことできなくてただ黙って聞いていただけだった。自分たちの周りだけ静かになったみたいに、カラン、と空になったレノのグラスの氷が崩れる。
「俺はあいつとお前を保護するよう、つったら聞こえは良いがまぁ生きた侭捕獲する命令が下っていて、軍より先にと血眼になって探してたが、しばらくして出逢ったのはお前だけで、しかもザックスの真似事をしていて、おいおい、一体どうしたんだぞ、と?と思ったりもしたが…そうだよな」












普通、辛くて辛くて、まともじゃいられないよな、と。














レノはタークスだから、事の詳細を知っているのだろう。言葉自体は随分省略されているが、真意は簡単に読み取れた。その証拠に、俺とザックスを見る時のレノの目が違うのだ。
切ないような、けれどもその中で少しだけ安堵したような、それでいて慈しむようなそんな目で俺を見ている時がある。
煙草をもみ消し、くしゃりと俺の頭を撫でる。その手つきは乱暴だが、どこか優しかった。
「ったく、お前もあいつも危なっかしいから、お兄さん心配だぞ、と」
「…お前みたいな兄を持ってたまるものか」
素直じゃないこの口は小さく礼を述べることすらできなくて我ながら悲しくなるが、けれどレノには十分通じたようでまたけらけらと笑っていた。それが何となく嬉しくて、俺は僅かに口元を吊り上げた。
「おい、レノッ!」
がば、と突然後ろから抱きしめられる。何だと確認しなくともすぐ解った、こんなことをしでかす奴は一人しかいない。…ザックスだ。
「俺のクラウドに気軽に触るんじゃねぇよ」
「…誰がいつアンタのものになったんだよ」
「違うのか?こないだも散々言ってただろ?俺はザックスだけのおぐぅっ!?」
ザックスがすべてを言い終わる前に俺は渾身の力を込めてザックスの腹に肘うちをかました。そして勢いよく立ち上がり、くの字に曲がった身体を無理やり起こして襟首をがしりと掴み上げる。
「――――アンタそんなだからいつまで経っても子犬なんだよ!!TPO考えてものを言えっ!!」
「おーい、お二人さーん」
「っ!!!??」
はっとした。気付けばレノがニヤニヤとしたいけすかない笑みを浮かべて俺たちから離れている。向こう側には人だかりが出来ていて、全員の視線が俺たち二人に集まっていた。
そこで初めて、俺の頭に血がのぼる。顔が熱い。恥ずかしい。とてもじゃないが目と目を合わせられないというか穴があったら入りたいとはこういう時のことをいうのだろう。隅からティファの深い溜め息が聞こえた。
ぼたりとザックスを落とした侭俺は固まり、ザックスは腹を押さえながらも何とか立ち上がって固まった侭の俺を抱き寄せた。
「という訳で、みんな、聞いてくれ。この金色の英雄クラウド・ストライフと俺、ザックス・フェアは見ての通りラブラブです!!誰にも邪魔は出来ないから、俺目当てに通っていた女の子たち、ごめんね?」
茶目っ気たっぷりにザックスは言う。またその態度に俺の中で何かがぷちんと切れた。
あ、とティファとレノが止める前に、俺はザックスの懐に入り腕を手前に持ち上げてきれいに背負い投げを決めてやった。
伸びているザックスを見下しながら
「寝言は寝て云え」
と吐き捨てて俺は自室へと戻って行った。
ヒューヒューと騒ぎ立てる客と煽るレノの声に、また頭痛が増した気がした。


















自室に戻りルームウェアに着替えて、窓際に椅子を持って行ってぼーっと月を眺める。確か風邪で寝ていた時は満月だったが、今は少しだけ欠けていた。部屋の明かりも付けずに月を見ていたら、頭痛は自然と治まってきた。
冴え渡るような澄んだ空気と、月の纏う雰囲気が昔から好きだった。
ニブルは標高が高い為空気が薄く、空はいつだって天の川が流れていたくらい。
ここはミッドガルから近いのもあり、ニブルに比べれば星はあまり見えないし空気も濁っている。
だが何処へ行っても、月は見える。故郷から見ても、新羅に居た時一般兵の宿舎から見ても、旅の途中で見ても、今こうして見ても。
月は平等に優しい光で照らし続ける。
「風邪引くぞ」
気配もなく近づいてきたザックスに別段驚くこともなく、先ほどのことを思い出して俺は窓を見た侭返事をしなかった。
「だんまり?」
そうしてまた、ぎゅ、と。熱いくらいのねつをともした逞しい腕が俺を捕らえる。決して離さないとでもいうように、でも優しく。
「クラウド」
僅かに薫る酒の臭いと、ザックス自身の匂いとが混じり、耳元で発せられた掠れた声に思わずぞくりとした。
酒臭くなるほど酒を呑んでいると思わなくて、だからあんな恥ずかしいことを平気でやってのけたのか納得した(素面でもやりかねないが本当に俺にとって嫌なことはちゃんと配慮してくれる)。
そのまま舌がねろりと耳朶を舐め上げ、久しぶりの行為に少量とはいえ酒を含んだこの身体は直ぐに反応を返した。
「俺に触れられるのも、話すのも、もう嫌?」
甘えるような声で話しかけてくるが、だが僅かに寂しさのようなものも含まれていて。けれどもそこで振り向けば確実にこちらの負けな訳で。だから意地でも振り向かないことにした。そう決めてとりあえず自ら口を開かないように唇を噤むが、ぐい、と無理やり顔を掴まれる。
「…クラウド」
揺れる藍の双眸。もうソルジャーとしての体力はないとザックスは言っていたけれど、俺よりも全然力強い手に、抵抗なんか出来なかった。何よりきれいな藍の瞳に見つめられて、悔しいが思わず見惚れてしまうくらい。抵抗する気にも、なれなかったのだ。
何秒間か見つめ合った後、ザックスはそっと、俺の額に、瞼に、鼻先に、そして唇に、順にキスを落としていった。それだけで、ザックスを覚えているこの浅ましい身体は期待してしまう。この先に続く行為を、この先に待ちわびている熱情を。
「クラウド、…愛してる」
低い声で、呟かれたそれは、俺の導火線に一気に火を灯した。
ぎゅ、と。また強く抱きしめられる。動けない。いや、抵抗する気なんか、元から無かった。だって相手は、この男――――ザックス・フェアだから。
世界で一番愛していて、求めているひとだから。
首筋に、ちくりと一瞬痛みを感じた。位置的にまた見える所につけたなと怒りたくなったが、今そんなことを言うのは無粋というもの。どうせ彼が満足するまで、好きなだけ痕を残されるのだ。
ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら何度も首筋にキスを落としてするり、と襟元から武骨な掌を侵入させる。俺に抵抗する意志がないと解ったのか、それとも先ほどの俺の態度に対してささやかな怒りなのか、快楽を帯びてきたこの身体の触れて欲しい部分に触れてもらえなくて、俺は思わず腕を軽く引っ掻いた。
――――ベッド、行こうぜ。
俺の髪の毛を鼻先で避けながら、また囁かれた低い声。身体を離し、俺の顔を覗き込んでくる精悍な顔立ちは、まるで野生の獣のようににやりと微笑んでいた。ぐいと腕を掴まれ、すぐ側にあるベッドに押し倒される。
ぎし、と軋むベッドの音がどこか卑猥だ。
熱い掌が俺の身体をまさぐろうとしている中、他人ごとのようにそう思った。
























「んっ…ふ…」
くちゅ、と水音を立てて、ザックスが俺の熱芯を強く吸いあげていた。俺の身体は気付けば産まれた時と同じ状態にされていて、ザックスは上半身のみ何も纏っていなかった。隆々とした筋肉に覆われた身体には、無数の被弾痕があった。その痕を見るだけで俺の胸は改めて締めつけられる。
何度この行為をしていても、その度に思う。後悔と自責の念。そんな俺を、ザックスは優しく抱いてくれた。
けれども今夜のザックスは少し違う。いつものように手つきは優しいが、纏う雰囲気がピリピリしていた。まるで戦う時に纏う闘気のような、そんな類のもの。
「あ、っ、んん…」
腰を持ち上げられ、身体が無理に曲げられる。脚は肩に担がれ、恥ずかしい部分が俺からも丸見えだった。尖端からダラダラと溢れる白濁が、竿を伝わって腹に染みていく。吸いついたり、割れ目をぐり、といじられたりしてはいるものの、一度も達してはいない。
「あ、ちょっ…」
その内に熱い舌が蕾の方へと伸びていき、ぐにぐにと侵入してこようとする。何度も舌先で小突いて、ゆっくり周りを解す。
「力、抜けよ…」
艶を帯びた低い声が命令口調で囁いて、俺は素直に云われた通りに息を吸って吐いた。くち、と。舌先が入ってくる。
眉間に皺が思わず寄ってしまって。けれども恥ずかしくて、顔を逸らす。
高く持ち上げられていた腰を下ろし、けれども中をいじられる違和感は未だ続行中で、双珠を優しく揉みしだかれた。亀頭の割れ目に爪を立てられて、思わず下腹部に力が入る。
びくんと膝を立てて、シーツを握る手に力が入った。
「やっ、も…ぅ、でっ…!」
今度は舌の代わりに指をねじ込まれ、尖端をぱくりと咥えられてぢゅ、と強く吸われた瞬間。
「――――っ!!」
あまりの気持ち良さに、俺はやっと達した。















「…気持ち良かった?」
俺の精液を全部飲んで、口の端から漏れたそれを甲で拭いながら、焦点の合わない俺の顔を藍色が覗き込んでくる。
はぁ、と肩と胸で息を整えていると、突起を指で弾かれた。
「あっ…やめ…んんっ」
「嫌だなんて微塵も思ってないだろ?」
お前の身体を開発したのは、他でもないこの俺なんだから、と。
また低い声が、俺の耳元で囁かれる。
確かにその通りだった。ザックスなしでは、俺は最早生きられない。枯渇しているのだ、すべて、俺自身がザックスのものだから。
舌先と指先で突起を好き勝手に舐られて、また下肢が魚のように跳ねる。面白がっているのか、なかなか解放してくれない。
時々強く吸われては華を咲かせて、俺の唇にもキスをしてくる。舌と舌が絡み合って、だんだん俺の思考を削ぎ落としていく。
やがて一度達した自身はもう一度熱を孕み存在を主張し、ザックスから与えられる熱に今か今かと待ちわびているのだ。
ザックスに会えなかった間、どれだけザックスに焦がれたか。
この男だって知っている癖に、自らその扉は開かない。馬鹿に見えて狡い男だ、とつくづく思う。
けれどもそんな男に惚れたのは他でもない己自身。また指がつつつ、と腹をなぞり下肢に辿り着く。尖端をぴんと弾かれた。
「また勃ってる…」
「ぅ、るさいっ…!」
「そんなこと言ってると、もっと虐めちまうぞ?」
クスクス、と揶揄うような声でザックスが笑う。でも目までは笑っていなくて、半ば本気なのだなと思った。
「…どうして欲しい?」
俺の両手首を頭上で片手で纏められる。力が入らないのもあるが、ソルジャーになったのにも関わらず片手で押さえられたことに少し腹が立つ。きり、と睨みつけるようにザックスを見つめれば、またくす、と笑った。
「クラウドのそういう時の目、好きだぜ?」
舌が首筋をぴちゃりと舐めて、また何度も唇を軽く押し当てては離していく。鼻先が当たるか当たらないかの近距離で、ザックスは藍色を僅かに細めた。
「きっとセフィロスはお前と戦った時こういう気持ちだったんだろうな。そういう目をされればされる程、」

















征服したくなる。


















「心や身体だけじゃなく、その魂すらも、ぜんぶ…」
「んっ…あ…」
唇を無理に押し当てられて、舌が乱暴に入ってくる。荒々しい、息をすることすら奪われるような熱いそれに、目眩がした。
ザックスのこういう態度や言葉は本当に珍しい。優しい癖に優しくない。昔から何度も重ね合ってきた仲だけれど、こんな征服欲や加虐心に溢れた彼は初めて見た(最も今までは彼が見せようとしなかったのだろうし、俺も気付けなかったということはあったかもしれないが)。
時々、首筋を甘く噛まれる。その刺激に、また背筋から電流が駆け巡る。その痺れは俺の思考と身体を蕩けさせていく毒のようなもの。
ギラギラと目を光らせて、息遣いが互いにだんだん荒くなる。今の俺は、ザックスという捕食者に生かされている状態。ザックスがその気になれば、俺はすぐに喉笛を噛み千切られてしまうのだろう。
だが相手がザックスなら、そんな風になってもいいと思う俺は、歪んでいるのだろうか。普段そんなことは考えないくせに、こんな時にそんな物騒な想いが駆け巡るのも些か不謹慎だと思う。
「何か考え事しているなんて、随分余裕なんだな?」
見下ろしながら、ザックスは俺の蕾にもう一度指を押し付ける。先ほど解したからか、すんなりと二本を受け入れた。一瞬の圧迫に息が詰まったが、ザックス自身を入れられた訳ではないので直ぐに息が整う。
それでも腸を掻き回されるような感覚が最初は拭えなくて、押さえられた掌にぎゅ、と力を込めた。
「…なあ、クラウド」
「…っ、あ…な、に…?」
くち、ぐちゅ、と指はいつの間にか三本に増えていて、俺のイイ所を突いてはわざと掠めていく。それが焦れったくて、無意識に膝を閉じようとしてしまうものの、ザックスの身体が無理に入ってきて閉じることは叶わなかった。
ザックスの声色は、興奮はしているものの妙に冷静だった。
「俺はさ、お前のこと本気で愛してる。世界にお前が居れば、後は他に何も要らない。俺さ、この間クラウドが風邪引いて寝込んでいる時、気付いたんだ」
「は、あ…っ、ぅ!」
ぐち、と指を乱暴に引き抜いて、体勢を無理やり変えられる。後ろから抱き込まれて、熱芯をぎゅ、と強く握られた。
「はっ!?」
一瞬息が止まる。掴まれただけで達しそうになった。我慢が効かないこの身体に嫌気がさす。ザックスは至って冷静な侭、言葉を続けた。
「俺はお前が思っている程綺麗な人間でもないし、寧ろ醜くて汚い。お前が居れば他には何も要らない、お前ならこの言葉の意味、解るだろ?」
元ソルジャー故に、俺よりも戦場に立つことが多かったザックスだからこそ、言う言葉には重みがある。この男は根本は優しいが、それ故に自分は穢れていると思い込んでいる所がある。
ソルジャーというのはそういうものだと、いつしか寂しそうに語っていた背中が、小さく見えたこともあった。
「それでも、俺はお前に対してのこの感情が、いつまで経っても変わらない。寧ろ、肥大していっているんだ。さっきレノと喋っていた姿だって、実は嫉妬してたんだぜ?俺、心広くないからさ」
ザックスの尖端が、俺の入り口に押し当てられる。言っていることとやっていることのギャップがあり過ぎて、どっちが本当のザックスか解らない。でも、悩む必要なんてないんだ。
最初から、答えは解っている。
「ザッ…クスッ」
思っていたよりも掠れた声で、ザックスの名を紡げば。
「…っ」
彼の気配が、僅かに揺れた。
俺は、中々自分の想ったことが言えない性質だ。それでも、ザックスにだけは頑張って伝えたくて、なるべく想ったことを口にしようと努力してきた。
けれども、ザックスへの想いは、言葉に出来るほど軽くない。うまく言葉に出来ない程、俺の中で気持ちが何重にも渦巻いてしまって、
「キてくれ…」

















愛して、るんだ。


















「ああああっ!!」
「く…っ」
散々解してきたとはいえ、無理にザックスが挿入してくるのにまた中が圧迫されて、息が詰まりそうになる。
俺が居れば後は何も要らないといった彼の言葉。それはデンゼルやマリンやティファを殺してでも、俺を手に入れたいという彼の激しくて熱い想いと独占欲のあらわれ。
けれども彼には、絶対にそんなことは出来ない。彼が誰よりも優しいのを知っている。彼がミッションから帰ってきた時に誰よりも哀しい目をしているのを知っている。
人の命の尊さと重みを、彼は一番大切に思っている。
「クラウド…ッ!」
藍が更に艶を帯びて輝きを増す。それに応えるように、俺も律動に合わせて自ら腰を振った。淫乱と思われようが構わなかった。
もう、我慢の限界だった。ずっと待っていた、この熱を。
前立腺を何度も擦られて、下半身が別の生き物のように痙攣を繰り返す。口がだらしなく開いてしまって、今自分の顔がどんなものなのか考えたくもなかった。
身体が熱い。繋がるそこからも、毒のように全身に広がっていく。両手を後ろに引っ張られて、上半身が反った形で持ち上げられる。
その所為でより下半身が密着し、ぱんぱんと強く打ち付けられた。
「あ、あ、ああ、ザッ…、あく!」
俺はザックスのことを解っているつもりでいた。でも、そうじゃなかった。改めて、彼がこんなにも激しい熱情と劣情を兼ね備えていたのだと、初めて解った気がする。
前立腺を何度も擦られている内に、また痙攣が激しくなる。びくびくと、中心に熱が集まり始めて。また、欲を解放してしまう。
ふと、力が抜けて、どさりと二人でベッドに再度倒れこむ。ぐりん、と。繋がった侭体勢をまた変えられて、奪うように唇を重ねられた。
「は、ふぅ、んううぅぅッ!!」
キスをされて、熱芯を上下に扱かれて、下半身が震える。割れ目にまた爪を立てられた瞬間。
「あ、ああっ!!」
声を上げて、俺は二度目の絶頂を迎えた。しかし、ザックスの動きは止まらない。変わらず動き続けて、俺の中を抉り続ける。
ただ、達した所為でザックスのものを酷く締め付けてしまう。心なしかザックスの顔にも余裕がなくなっていた。俺に何度もキスを送りながら、根元ぎりぎりまで引き抜き、そしてまた強く穿つ。
それを数度繰り返した後、また小刻みに俺の中を犯し始めた。
「や、ザッ、クスッ…!」
思わずしがみつく。
その逞しい背に。
脚も、腕も、回して。
離さないで。
放れないでと。
――――云うように。
「く、ッ!!」
ぐちゅん、と。ザックスが奥へと押し付けて、どくり、と次第に熱が広がり始める。嗚呼、そういえばいつもはゴムをするのに、今日はそれすらもしていないんだと、今になって気付かされた。
「クラウド…俺はッ…」
は、は、と息を浅くしながら、ザックスが俺を熱っぽく見つめた。ふと背に回していた手を頬に当てて、嗚呼、ザックスだなと当たり前のことをじんわりと感じていた。
疲労感と汗が酷い。そういえば病み上がりだったと、そんなことも今になって気付いた。頬に、首筋に、ザックスが優しくキスの雨を降らす。俺が、一番好きな瞬間。
一つに成れた満足感と、その後を労わってくれるザックスの優しい想いが、本当に幸せで。風呂上りではないザックスの、まだワックスで立てられた黒髪にそっと触れて、汗ばんでしっとりとしているがそれを撫で梳く。
ザックスが甘えるように、俺の胸元に顔を埋めた。まだ、モノは入った侭。でもそれすらも幸せだから、気にならない。
「俺は、本当に駄目な奴だ…」
ぽつりと、ザックスが小声で言う。さっきまでの支配者のような態度はどこへやら、今はまさに『子犬』のようだ。
「今まではさ、クラウドを傷つけまいと思って、余計なこといえない立場だったってのもあったが、それでも必死に虚勢張って、色々と隠してきた。本当の俺は、クラウドが自分で言っているように、情けない男なんだよ。へたれで、かっこつけしいで、嫉妬深い、情けない奴だ。それでも、クラウドを想う気持ちは誰にも負けねぇ…。でも、さ」
嗚呼、何だってこの男は。
「そんな俺でも、クラウドは俺のことを、愛してくれるか?」
解っている癖に、言葉にせずにはいられないのだろう。
縋るような、子犬の目に。俺は、くすりと思わず笑ってしまう。
少し乱れた前髪がおりた額を、思わず弾く。
「今更、だな」
俺も、この男には相当甘いんだなと、つくづく思う。
でも、俺だって同じだ。ザックスと同じように、独占欲と、誰よりもこの男を愛している想いの歴史と強さが、ある。
「皆から憧れられていた、人懐っこくて、優しくて、でも傷ついた姿を誰にも見せまいとして虚勢を張って、それでも自分の心はずたずたになって、最後の最後まで、絶望の塊だった俺をアンタだけが救ってくれた、」

























そんなアンタだからこそ、俺は愛することが出来たんだ。
























「自信持てよ。俺だって、アンタが居れば、こんな世界今すぐにでも捨てても良い。アンタになら殺されても良いし、身体や心だけじゃ足りないなら、骨の髄までくれてやる」
ぐい、と黒髪を引っ張って、無理やり俺からキスを奪う。口の中はカラカラの癖に、水分よりも目の前のこの男を欲していた。かちりと時々当たる犬歯が痛い。
歯列とその裏をなぞられて、また身体が熱を帯びる。病み上がりの身体にこんな無茶をして、後でティファに何と言われるか解ったものではない。
でもこれは、理性では止められない。魂が、ザックスを求めている。元々二人は二つで一つだったのではないかと云うように。
何度その穴を埋めても、満たされることはない。永遠に涸れない水のように、俺とザックスは、ずっと求め合って食らい合うのだろう。
強く、その内に後頭部を押さえられる。苦しくて、呻いても、ザックスは止めない。
また、獣が目を醒ましていく。
舌が糸を引いて離れていくのが少し寂しい。そして、ザックスの心臓にそっと手を当てる。
軋む上体を少しだけ起こせば、ザックスが優しく抱きかかえてくれる。心臓にそっと耳を当てた。とくん、とくん、と彼のオトが聞こえる。
トクン、トクン、トクン。
規則正しくオトを刻んで、彼はこの世に確かに居る。再び生を歩んでいる。それがまた、酷く嬉しい。
よく見れば、そこにも無数の被弾痕があった。そっと、涙が零れた。それを見て、ザックスが舌で拭ってくれる。
優しい笑みを浮かべて、ザックスは俺の左手を掴む。手首から上を、そっと舐められた。何度も、何度も、傷ついたのを治すかのように。
よくよく考えれば、そこは星痕が発症した場所だった。それにまた締め付けられて、俺はザックスの肩に顔を埋めた。
「好きだ…」
呟くように、自分の気持ちを伝える。ああ、と、ザックスが静かに頷いた。
気付けば俺は、流した涙が止まらなかった。それでも、胸には幸せだという気持ちが広がっていた。
優しく、撫でられる。またそれに酔いそうになる。
繋がった箇所から、また熱を帯びていく。第2ラウンドに開始の合図はなくて、俺はザックスの首に両手を絡めて、自ら唇を押し当てた。

































互いの手は、赤い血潮に染まっている。
彼は多くの命を奪い、俺を守りきれなかった後悔の念。
俺は彼の足手まといになり、彼を助けられなかった自責の念。
それでも、紆余曲折を経て今此処に居て、在る。
多くの犠牲の上に成り立っている俺たちの幸せ。
それはもしかしたら幸福とは呼べないものなのかもしれない。
それでも構わない。
それでも俺は、ザックスが居るなら幸せだと言い切ってやる。



















この想いは、きっと何年経っても色褪せはしない。



















まるで今まで流してきた血潮のように紅くて、彼のように熱く、確かな生と命が、其処に宿っているだから。































い河
(この想いがある限り、どこに居てもアンタを想い、見つけてみせるよ)



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