※現代ではないけどもし親父がスピラに行かないでいたらな話。比較的仲は良いかと。



































「だっっっっりぃー……」
朝起きて海で一通り泳いで帰ってきてみれば、ガキは未だベッドの中でウンウン唸ってた。眉間に皺寄せて痛いとか怠いとか死ねクソ親父とかもう二度と顔が見たくないとか、オイ最後のは余計だぞテメェと思いながら側に腰掛けて何となく額に熱を宛てがう。自分のと比較してみると、確かにちょっと熱い気がする。
「ンだお前ぇ、あれしきで風邪引いたんじゃエースの肩書もだいなしだなぁ?」
「うるせぇっつの!大体人が散々嫌だっつってんのに無理強いしてきた変態はどこの誰だよ!」
「ほーぉ?途中からお前ぇの方からねだってきた癖によくもまぁそんな台詞を「死ね性欲魔人ッ!!」
あーもー病人の癖に強がる元気は有り余るくらいありやがる。誰に似たんだ全く。…って俺か。喚いて疲れたのかまたぜぇぜぇと息を吐きながらガキが枕へと顔を突っ伏した。そうそう、大人しくしてろよ。病人は安静が一番だ。何となく髪をくしゃくしゃに撫でてやるとぱしりと弱々しくガキが抵抗してきた。
「…っめろよ、頭に響く…」
「つかお前ぇ、熱の他にどこがどう痛いんだ?」
「…頭痛と、関節ちょっと痛い…かも、あと、喉がひりつく感じ…」
そりゃあ風邪もあるだろうが大半は昨夜頑張り過ぎた影響だろうな。
「食欲は?」
「…とりあえず、何かさっぱりしたモン食べるか飲むかしたい」
「了解」
承諾して、半乾きの髪をぐしゃぐしゃと掻きながらキッチンへと向かった。しおらしいガキは何だからしくなくていけねぇな。柄にもなく慰めてやりたくなった想いを燻らせながらも、冷蔵庫の奥に眠っていたゼリーを取り出して、俺はもう一度頭を掻いた。


* * * *


あれから天気は崩れて、その内雨がしとしとと降ってきた。今日は古株連中と若手の育成合宿に参加する予定だったのだが、メンバーには事情を話してまた今度ということになった。ふと考える。ガキが居るのにこんな風に静かな時は、俺様は何をしていただろうかと。俺様も大概ブリッツ馬鹿で、身体を動かさないと如何せん落ち着かない。いつだったか雨の日にじっとしてるのも癪で海に出たらガキにしこたま怒られた。その時の顔があまりに必死なもんだから、以来律儀に雨の日は海に出ないという約束は守っている。それにしたってひまだ。ガキも今は解熱剤飲んで大人しくしていやがる。さて、どうしたモンかとテレビをとりあえずつけてみると、料理番組がやっていた。内容は、素人にも簡単にできるという口合わせがさっぱりした煮物系。
「………」
とりあえず、ひまだしな。俺は慌ててメモをとろうとしてテーブルの脚の角に小指をぶつけ、一人悶絶した。


* * * *


…おかしい。あのあと悶絶しながらも必死にメモした通りのレシピで作った筈だ。ガキが常日頃まめに買い物をしてくれているおかげで材料はたくさんある。だからこうして気兼ねなく作り直せるんだがンなこたァどうでもいい。
何故レシピ通りに作れないのか、俺はまた唸った。
「…まっじぃな、コレ」
最初はしょっぱかった。次は酸っぱかった。そして今度は、妙に甘ったるかった。鶏肉を消費するのもこれで三回目。いい加減材料がかわいそうになってきて俺はだんだん腹が立ってきた。
「…素人でもできるんだろうがよ?このレシピ嘘じゃねぇのか?」
思わずぐしゃりとレシピのメモを握り潰し、ソファに移動してねっころがる。後片付けも面倒臭ぇ。目を閉じて寝ようとした、ふとその時。そういや、一つだけ得意なものを思い出した。がばりと起き上がり、ソファの背をひょいと越えてキッチンカウンターへ舞い戻る。冷蔵庫の野菜室には、やはり目当ての物は揃っていた。
「よし、いっちょやってやっか!」


* * * *


「ごめんくださーい、邪魔すんぜー」
コンコンというよりドンドン、と足でノックしてからガキの部屋へと入る。近づいて顔を覗きこめば、朝に比べれば幾分かは顔色が良くなっているように見えた。
「オイ、起きろクソガキ!このジェクト様が直々に飯作って持ってきてやったぞ」
「んん…るせぇ…」
「いいから起きろ!じゃねぇと今すぐ犯すぞ!」
ガバッ!とガキが目をかっぴろげて勢い良く起きた。勢いが良いな、別に俺様としちゃあ今すぐシてやってもよかっだがよォ。
「おら、飯食え」
トレーをずいと差し出し、ガキは目を丸くさせながらしばらく俺とトレーの上に乗っている料理とを交互に見ていた。んなに驚くことねぇだろが。人を奇人変人のようなアレで見てんじゃねぇよ。
「あんたが、作ったのか?」
「おう、ほかに誰が居るってんだ」
「…デスヨネー」
スプーンを手に取り、ガキはこくりと唾を飲んでトレーの上にあるカレーを一口掬った。そして意を決してぱくりと口の中に入れ、咀嚼し、飲み込む。ガキの表情がみるみるうちに変わっていく。解りやすい顔だ。
「…うまい」
「だろ?味は保障すんぜ」
「何か肉が時々甘かったりしょっぱかったりするけど、にしてもうまい…」
一瞬ぎくりとしたが、それでもカレーに混ぜちまえば失敗した鶏肉たちも多少まともな味に塗り替えられるだろうと踏んでいたが、どうやらそれは微妙に失敗してしまったらしい。だがとりあえずガキは俺様特製カレーが気に入ったのかあっという間に平らげた。そして水と薬を飲みながら、
「あんた料理できるなら、普段からキッチンに立てよな」
とか言いやがる。だがそれは叶わぬ願いってやつだ。基本俺様には料理のセンスがねぇ。まともに作れんのはこのカレーライスだけだ。
「毎朝焦げた目玉焼きと焦げたトーストだけで良いなら作ってやんぜ?」
「…遠慮シテオキマス」
げぇ、と舌を出して嫌な顔をしながら、ガキはコップを俺に突き返した。とりあえず元気は出てきたみてぇだな。それでこそ俺様の息子ってもんだ。もぞもぞと静かにまた布団の中へと入るガキが、そういえば、と言葉を紡ぐ。
「何であんた、カレーだけあんなにまともに作れんの?」
「…企業秘密だ」
にやりと笑ってやると、また胡散臭そうな目で見つめてきやがる。んだその顔。無理矢理ちゅーしちまうぞ。
「風邪移るだろっ!近づくな馬鹿親父!!」
「へぇ、ジェクトさんちのお坊ちゃんは随分お優しいこって。知ってっか?風邪は移した方が治りが早いってな」
「っ!」
口を半開きにしたガキに自分のを重ねて、とりあえずその意思は尊重してやって軽く吸い付いてまた離れた。一瞬ぽわん、と目をぼんやりさせたガキんちょだったが、はっと現実に戻った途端に身体がわなわなと震え、キッ!と俺を睨んで
「風邪引いて死んじまえクソ親父ーーー!」
とカウンターで殴られた俺は痛む頬を摩りながら部屋を後にした。

















お子様のい方


何でカレーが得意かって?
昔、あいつが居なくなって、まだガキが今よりもっとガキだった時分に適当に作ってやったら喜んでたから、とか。





「…恥ずかしくて言える訳ねーだろ、馬ァ鹿」




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -