※8の世界ベースの微妙な現代パロ。5と10と8が何故か一緒にいる話。 「何をそんなに不機嫌な顔してんだよ?」 清純派な爽やか天然受ワンコ属性が台なしじゃないか。 「清純…?天然?何スかそれ?」 「あー、まぁ気にすんな。ただの独り言だって」 「はぁ…」 目の前にあるポテトチップス(コンソメ味)をまた無造作に掴み、ばりばりと食べながら漏れたのは無意識の溜息。さっきから何度目だよ、と目の前に居るティーダに投げかけて能天気に笑いながらそんなことを言う。 さっきから不機嫌をあらわにしたワンコはとにかく何を言ってもこんな調子。面倒を見る俺の身にもなれよなー、不機嫌な奴を宥めるのはほんと大変なんだぞ。と、心の中で俺も小さく溜息を吐いて、ティーダが食べているポテチを俺もつまみながら、頬杖をついた。「しょうがないだろ?同僚の付き合いってのは大事なモンだって、ティーダも解ってるんだろ?」 「そりゃ…」 そうっスけど、とぱり、とポテチをかじりながら今度はしおらしく頷いた。不機嫌な理由はただ一つ。同居人であり、ティーダの想い人のスコールは特殊な職業に就いている。彼の職業というのSeeDと呼ばれる傭兵。今は遠征に行っていて、一ヶ月近く帰れないと言われるのは、まぁいつものことだ。一ヶ月なんてものはかわいいもんだ。最悪三ヶ月とかそれ以上って時もある。話が少し逸れたけど、ともかく仕事で俺達が住んでるこのマンションに戻れないのはいつものことだし、それだけの理由でティーダもここまで不機嫌になったりはしない。先ほど、ティーダの携帯に一通のメールが届いた。更に仕事が増えて、帰るのが遅れる、という理由だった。少ししょぼくれたティーダはそれに健気な返事を返し、その後に電話がかかってきた。浮足立って電話に出たティーダは、俺にも聞こえるくらいの受話器の向こうからの大きな笑い声で、携帯を耳元から離す。 一体何なんだと、二人で目をぱちくりしていると、何だか間延びした可愛らしい声が聞こえてきた。多分、スコールの同僚のセルフィとかいう女の子だろう。ティーダは思わず着信の相手を確認する。セルフィはとにかく笑いながらティーダに何かを語りかけていた。着信はスコールから。でも電話の向こうはスコールじゃなく、女の子。ティーダもスコールの同僚に女の子が居るのは知っている。普段ならなんてことない、でも今は、ティーダはスコールに会いたくても会えない状況。逆撫でるには十分の理由だ。何やらセルフィ以外にもメンツは居るようで、がやがやと騒がしい音が十分に漏れていて。はんちょは今酔っ払ってて代わりに電話したんよ〜、と彼女の国の方言でセルフィはティーダに語りかけている。 ティーダはすぐに電話を切った。何が仕事が増える、だ。と、その横顔はそう語っていた。多分察するに今は任務の小休止中なんだろうと思う(じゃなきゃあんな風に飲んだりはしないハズだ)。スコールもスコールでメールじゃなくてちゃんと電話で言ってやりゃいいのに、メールを打ってすぐぶっ倒れたのかな。 そんな経過があって、今に至る。そんなティーダもブリッツという水中格闘技のプロの選手。ティーダはティーダでスコールとは違った意味で忙しい身だ。だから二人がゆっくりできる時間ってのはほんとうに少ない。一応今回はティーダがスコールに合わせて一ヶ月後にわずかなオフを取っていたみたいだけど、…今回は徒労に終わりそうだな、と哀れみを微かに含めてティーダのしょぼくれた頭のつむじを見つめた。 「生え際、黒くなってきてんぞー?」 「んー…何か今はめんどいっス…」 「またやってやろうか?」 「じゃあ、明日…」 「おう」 立ち上がり、とりあえずポテチばっかりってのもアレだから、インスタントだが紅茶をいれてやる。俺は、二人の先輩であり兄貴分みたいなもん。二人のめんどくさい恋路をずっと見てきた。付き合っているらしいことは一応秘密にしてるらしいが、俺じゃなくともバレバレなことを、きっと二人とも気づいてないんだろうなぁ。と、俺も紅茶を飲みながらそんなことを思った。 「多分さ、スコールはスコールでちゃんとお前に伝えたかったんだよ。その証拠にメールだったけど連絡くれたろ?」 「…でも、あの電話はねぇーっスよ」 まぁ確かに。多分セルフィの他にお節介焼きなスコールの同僚がいらん気遣いをしたおかげでこうなったんだろう。いくら何でもあれは怒りたくもなる。はぁ、とまたティーダが溜息を吐いた。 「…お互い忙しいから、楽しみだったんスけどね」 まぁ、しゃーないっスよね…。 覇気がないティーダの言葉に、俺は頬を掻く。そしてテーブルの上に俯せているティーダの頭をぽんぽんと撫でてやりながら、俺は声をかけた。 「明日、髪染めたらどっか遊びに行くか」 「ええー?」 あからさまに嫌な顔すんなよ。傷つくだろ。 「だって、バッツと遊びに行くとろくな所に行かないじゃないっスか…」 「んなことないだろ?実際大自然に身を投じるのは良いぞ?空気もうまいし、金かかんないし」 「でも、この間なんて森に行ったら散々迷った挙げ句クマに追っかけられたじゃないっスか…」 そんなデンジャーな遊び嫌っス、とやはりぶうたれながら文句を言うティーダ。ちなみに、俺の職業は空に浮かぶ無限の星を研究するしがない学者。馬鹿な癖によくそんな仕事やろうと思ったな、とスコールに度々突っ込まれる。でも、だからこそ、ティーダを綺麗な星が見える所に連れてってやりたいと思った。尚も頭を撫でてやりながら、俺はくすりと笑う。 「むしゃくしゃしてるんだろ?なら、綺麗な星見て、スコールに自慢してやれよ」 「…ん」 我ながら卑怯な手だとは思う。だってこうしてスコールが居ない隙に、俺はいつもティーダの気を引こうとしてる。ティーダが俺の話をスコールにするその度に、スコールが少しだけ不機嫌になるのを俺は知ってる。スコールも、そういう所は意外と敏感だ。だから今回もいつもと同じように、ティーダの前では良いお兄さんの振りをする。 「明日、朝早く起きて、F.Hに行こうぜ」 こく、と小さくティーダが頷く。ポテチもそのまま、立ち上がって風呂、と呟き背を向けると、ティーダが立ち止まった。 「…バッツ、」 「ん?」 「…ありがとっス」 「…おう」 うーん、俺って実は腹黒キャラ? * * * * 早朝4時近く、ドアのチェーンがやけに鳴り響くのが耳障りで寝ぼけ眼を擦り起き上がると、バタバタと急いだ足音が真っすぐにティーダの部屋に向かった。ああ、何だ。結局帰ってきたんだな、スコールの奴。それにしたって、ずいぶんな慌てようだ。多分昨日の電話の内容を同僚たちから聞かされたのだろうか。それにしたってたった数時間でこっちに帰ってくるなんてよくできたな。それともエスタの科学力を使ってテレポートでもしてきたのか。 まぁいずれにせよこれでティーダの機嫌が治るだろう。と、思っていたら部屋からは喧嘩の声。 あの電話は何だったんだ、仕事じゃなかったのか、違うあれは誤解だ、とにかく俺の話を聞け。スコールにしては珍しく本気で焦ってる声が、普段クールな彼から想像すると何だか笑えた。つか朝早くからよくそんなに声でるなー若いなー、と経過を壁伝いに聞いてると、仕事が増えてというのは嘘だったらしい。 というのも、セルフィとアーヴァインという世話焼きカップル(一応二人ともスコールの同僚)が、スコールが仕事の打ち上げで酔って潰れている隙に携帯を盗み、勝手にセルフィが送ったものらしい。彼女等としてはスコールの慌てふためく様が見たかったそうな。そんでもってスコールの恋人である噂のティーダがどういう人物なのかも知りたかったそうな。まぁ今回はただの迷惑で終わったらしく、スコールも酔いながらも明日帰るという旨を伝えるつもりが全く真逆の内容がティーダの方にいってしまい、故に急いで帰ってきたらしい。俺も長年付き合ってる中であんなに慌てふためく姿を初めて見た。 だんだん部屋が大人しくなり、静かになった。とりあえず落ち着いたらしい。まぁそれは良いとして、 「…っ…ぁ…」 漏れる声に、俺はさすがに口を曲げる。おーい、一応俺も居るんですけどー? 紛らわす為に部屋を出て玄関を見ると、チェーンは少し壊れてた。無理矢理こじ開けてき入ってきたらしい立派な傭兵さんに、修理代を請求しても罰は当たらないよな? 「にしてもさ、」 「?」 賑わうカフェテリアで、俺は優雅に昼食を味わっていた。話し相手は親友のジタン。 ハムサンドを咀嚼しながら、ジタンははぁ、と大きな溜息を吐く。 「お前の話聞いてていっつも思うけど、ほんとよく理性もつよな」 「常に女の子に餓えてるジタン君とは違うっての」 「人を餓えた狼みたいに言ってんじゃねぇよ」 「違うのか?」 「全く違う!俺は単に、困ったレディを放って置けない立派な紳士だ!」 「まぁいいや、同じようなもんだろ」 「…お前会話のキャッチボールする気ある?」 もぐもぐと、俺もクラブハウスサンドを口に入れながら、ふとティーダの笑顔を思い出す。今朝家を出る前に見たのは、久しぶりの笑顔だった。それを思い出して、俺も自然と唇が釣り上がる。 ガラス窓の向こうに映る青空と、人の賑わいを見つめながら、思った。 「だってなぁ、」 「?」 「やっぱ、笑顔で居てくれる方が良いよなぁ」 「…お前のそういう所、俺は好きだぜ、バッツ」 「あとめんどくさいのも嫌いだしなぁ…」 「…そういうこと言わなきゃ、綺麗に終わるんだけどなぁ」 ごく、と紅茶と一緒に残りのサンドを飲み込む。今日もご飯が美味い。 青空を彼の笑顔と重ねながら、俺は目を細める。さて、今日も研究研究。 あの二人にとっての幸運の星を見つけるのが、俺の仕事。 二人のことが結果的に大好きだから、卑怯なことはできないと改めて思う。でもスコールが居ない時くらい独り占めしても、多分罰は当たらないよな? ラッキースター (俺にもそのうち、見つかるかな) ※いつもお世話になってるきあさんへハピバとして捧げたものです。おめでとうございました>< |