しあわせな、しあわせな、せかい。



























「あーやっぱり一日の最後は風呂とビールだよなぁー!!」
風呂上がり。ビール缶を片手にタオルを肩にかけて上半身半裸、下半身はスウェットという非常にラフな格好で、リビングに戻ればクラウドは呆れたような顔、マリンとデンゼルは顔を僅かに赤らめて俺を見つめた。
はぁ、とため息を吐いたクラウドが、一言。
「ザックス、せめてタンクトップくらい着てくれ」
「だって今の季節暑いだろー?男と子供しか居ないんだからあんま気にするなよ」
「ザックス、いくらなんでもちょっとその格好はひどいと思うわ」
遠慮がちにマリンに言われてさすがの俺も、う、となる。
うーんいくら子供でもマリンももう立派なレディ(候補)だからな。確かに失礼か、と思うも。ふとクラウドの髪の毛が濡れていることに気付く。
「クラウド、髪の毛拭いてやるからそこ座れよ」
ぐび、とビールを飲んでソファに座るよう促す。するとじゃあお言葉に甘えて、と昔より少しだけ素直になったクラウドがソファに腰掛け、俺はその背もたれの部分に座ってがしがしとタオルで拭き始める。
マリンとデンゼルがクラウドの隣に座って、なぁ、とデンゼルが俺に声を掛けた。
「ザックスは、いつからクラウドのこと知ってるんだ?」
「んー…あんままともに数えたこたぁないが、とりあえずクラウドが14の時から知ってるぞ」
「わぁ、ずいぶん長いつきあいなのね!」
マリンが嬉しそうにそう言った。けどデンゼルは少し不満そうだ。
そりゃそうだよな、デンゼルからしたらクラウドは命の恩人。そんな敬愛するべき人物の近くに俺みたいなひっつき虫が居たらそりゃあ気に食わないだろう。
だが俺だってクラウドが大好きだ。ちょう大好きだ。世界で一番愛してると言っても過言ではないくらい大好きだ。
だので、こんな餓鬼に譲ってやるつもりはない、が。
「クラウドの髪の毛、お前が拭くか?」
「っ!」
やられた、というばつの悪そうな顔をするデンゼルの反応があまりに素直で、俺は微笑を浮かべながらがしがしと頭を撫でてやった。
すると手を振り払い、俺が立ち上がると同時にクラウドの後ろの場所を陣取り俺の真似をしてわしわしとクラウドの髪の毛を拭いていた。クラウドは先ほどから気持ちよさそうに目を細めている。
そういやこいつ、昔から髪の毛いじられるの好きだったもんなぁ、と何となく和んで見ていると、
「ザックスも、髪の毛ぬれてるよ」
とマリンがわざわざ言ってくれた。あのバレットのおっさんの娘さんとは思えないほど優しい子だ。感動していると、クラウドが今度は俺を手招きしてこいこいと呼んできた。
「なに?」
「いいから、ここ座れ」
命令形かい。突っ込みながらクラウドの足元に座ると、今度はクラウドが俺の肩に掛かっていたタオルを使って俺の髪の毛を拭き始めた。
「あー気持ちいいな〜」
「いつもしてもらってるお返しだ」
「サンキュークラウド」
「デンゼルも、」
「?」
「ありがとうな」
「う、ん…」
クラウドが小さく礼を言えば、デンゼルは俯きながらも照れくさそうに髪の毛を拭いてた。何かもうそのやり取りが可愛くて可愛くて、我慢できなかった俺は、
「あーっもう!お前ら可愛すぎ!!」
「うわっ!?」
「ちょ、ザックスッ!!」
二人纏めて抱きついて、ぎゅうぎゅう押し倒してやる。それを見てたマリンがクスクスと笑って、
「三人とも楽しそう」
「楽しくないよ!マリン助けて!!」
「なんだマリン、お前も混ざるかー?」
「ザックスッ、いい加減どけっ!!」
なんて、無邪気なじゃれあい。
今度はマリンも混じってぎゅうぎゅうし合っていると、ついにクラウドの切れたパンチが俺の顔面に直撃して、それを終止符の合図に各々自室へと戻って行った。



















「あー楽しかった」
「…俺は重かった」
「メンゴ☆」
「…絶対そう思ってないよな、その顔」
また殴ろうか、と拳を作るクラウドに慌てて冗談だと笑えば、クラウドは疲れたようにベッドに横になる。窓の向こうに月が見えた。嗚呼、きれいな半月だ。まだあちこちにメテオの爪痕が残っていても、空はいつだってきれいだ。
俺は髪を掻き揚げながら、さっきみたいにじゃれあった触れ合いを思い出しながら、目を細めた。
「ザックス?」
「ん?」
「どうした?」
「や、何か、幸せだなーって…」
思ってさ、と。小さく言えば、クラウドも、ああ、と頷いた。
だって、今はほんとうに幸せだ。
長い長い戦いが終わって、みんなそれぞれ大事なことを成すために散って行ったけれど、でもちゃんと、この空の下繋がっている。
みんな、生きている。
俺も、クラウドも。
きゅ、と。クラウドの白い手を握れば、クラウドもまた蒼碧の目を細めて微かに笑った。
「丸くなったな、お前」
「誰かさんに絆されたからかな」
「そっか」
ベッドに入って、隣にある体温にこんなにも安堵する。
昔は拭っても拭いきれなかった、血の薫り。両手はいつも重くて、何かに押し潰れそうだった。
それでも、俺は。
「クラウド」
「?」
「ありがとうな」
目を閉じて、額をくっつける。すると珍しいかな、今日のクラウドはほんとうに少しだけ素直で、柔らかい笑みを浮かべたまま吐息を乗せるようにふっと笑った。
「今日は、何かアンタ変だ」
「そうか?」
「ああ、いつも変だけど今日は特に」
「失礼な」
まるで俺が変人のような言い方だ。
「俺にとってアンタは何もかも変だったよ」
「マジ?」
「俺が嘘吐けないの知ってるだろ?」
「そうだな」
「でも、そんな日もあるかも」
クラウドの手が、俺の頭を撫でてくる。いつも俺が頭を撫でる側だから、何か新鮮だ。少しだけ、その手つきに急に眠気が襲ってきて、クラウドも今日は少しだけ変だなぁ、なんて思ったりして。
「常に変な奴の傍に居たら多少影響受けるだろ」
「ああー、何かその言い方されるといつものクラウドだーって妙に落ち着く俺はドMでしょうかねー?」
「アンタドMだったのか、知らなかったな」
わざとらしく驚いたように言ってくるクラウドに、またクスクス笑った。するとちゅ、と何かが唇を霞む。もう一度ちゅ、と触れるだけの拙い口付け。珍しいこともあるものだ、とぼんやりとした頭でそう思った。
「クラウドも、今日は変だ」
「何でだ?」
「お前からキスしてくるなんて珍しい」
「ああ、そうだな」
やっぱりアンタに絆されたからだよ。
撫でてくる手つきと、テノールの声が優しく響く。それらがあまりに心地よいものだから、そのままクラウドの胸元に顔を埋めた。嗚呼、クラウドの薫りがする。すん、と鼻を澄ませればずいぶんでかい犬だなとぼやかれたから、お返しにワンと言ってやった。
「おやすみ」
ああ、おやすみ。
そう言ったつもりが、もしかしたら声に出てなかったかもしれない。だって身体がふわふわして気持ちいいんだ。
すごくすごく気持ちよくて、頭の芯から溶けてしまいそうな。
そんな温もりに包まれて、俺は意識を手放した。























夢を視た。
アンジールも、ジェネシスも、セフィロスも居て。
三人とも、笑ってた。
あの頃みたいに、まるで少年のような笑顔を浮かべて。
それから、向こうを見れば、エアリスが居た。
いつもの花のような笑顔を浮かべて、俺の手を取って、小さな手で優しく握ってくれた。
良かった、と。彼女は言った。
何だか無性に嬉しくて、切なくて、幸せなんだけど、幸せ過ぎて涙が溢れた。
嗚呼、これが幸せなんだな、って言ったら、


気付いてなかっただけで、それはずっと、ザックスの中にあったんだよ。


と、彼女は言ってくれた。思い切り抱き締める。彼女の匂いと感触にまた涙が止まらない。
優しい優しいエアリス。俺が知る限り、世界で一番花が似合う女の子。



















白く光り、消えていく世界。
その中に、ずっと愛しい金色は、俺の中に確かに在ったんだ。
しあわせなしあわせなせかい。
みんなで作ろうか、俺たちの"しあわせなせかい"。


















隣にその温もりが在ること、
俺がそいつの隣に在ること、
名を呼んでもらえること、
頭を撫でてもらえること、
手を繋いでもらえること。



















嗚呼、ほんとうに、























泣きそうなくらい、最高にハッピーだ!























happy world

(幸せになる為の条件を揃えたら、そりゃもう幸せになるしかない訳で)




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