ある日ある夜の、こんな話。 「突然っスけど、たまにはみんなで恋バナ、とかどうっスか?」 それはティーダの何気ない一言で始まった。 皆それぞれ分かれてクリスタルを探している最中。とりあえず誰一人として未だ手にはしていないが、たまには息抜きしなきゃ息が詰まるっス!!というティーダが、最初に戻ってそんな発言をしたのが発端。 とりあえず夜も更けている為、今日は月の砂漠にテントを張って、焚き火を囲みながら明るくティーダは司会を務める。 「恋バナ…って、何だ?」 フリオニールが、首を傾げながらセシルを見遣る。セシルは苦笑しながら、綺麗な指先を口元に当てながら「俗に言う、好きな女の子がいるかいないか、っていう、恋愛の話だよ」と優しく言った。 「れ、恋愛…ッ?」 フリオニールの顔が赤くなる。彼は元々色恋沙汰とは遠い世界で生きてきたのだから無理もない反応だが、その反応を見てティーダはにんまりと笑った。 「何スかフリオ、もしかして女の子の手も握ったことないんスか?」 「なっ!!馬鹿にするな…!それくらい!!」 「…あるのか?」 静かに、クラウドが突っ込みを入れる。更にその言葉に耳まで真っ赤にしたフリオニールはすっかり参ってしまって、俯きながら、「…な、ない」と一言。 にやけた顔を抑えきれずに、ティーダはフリオニールの首にヘッドロックをかけ、頭をぐりぐりと拳で押さえつける。 「やっぱなあ、フリオは純情だから、そんなこったろうと思ったんスよ〜。何ならこのティーダ様が恋愛について一から教えてアゲマショーカ?」 「う、五月蝿いな!放っておけ俺のことは!!そういうティーダはどんな恋愛をしてきたんだっ!」 そこまで言うからには、大恋愛だったんだろう!?と息巻くフリオニールがティーダの腕を解くと、物凄い剣幕でティーダに迫る。 まあまあ、とそれにストップをかけながらセシルが仲裁に入った。 「夜は長いんだし、せっかくだから、順番に話そう?じゃあ、一番手はティーダから話してくれるかい?」 「良いっスよ!耳をかっぽじってよーっく聞くっスよ、フリオ」 「…だから、何でそこで俺に振るんだッ」 仲が良いね、とセシルが隣に座るクラウドに目配せし、クラウドもまた溜息を吐きながら剣の手入れをしている手を止め、聞く態勢に入る。 いざ話をする、となると緊張が増したのか、ティーダは先よりも僅かに顔を赤らめながら、ごほん、と咳を一つした。 「まあ、ほら、あんま記憶が定かじゃないし、まだ旅の途中だったから最後まで、って訳じゃないんスけど…。とりあえず俺チューまではしたっス!!」 「…いきなり結論か」 「まあまあ…」 「…若いな」 「ていうか!みんなってそもそも好きな女の子のタイプってどんなのっスか?ちなみに俺は、明るくて素直な子が良いなあ。一緒に馬鹿やって笑ってくれて、一生懸命な子!で、一緒に手を繋げたら最高っスね」 「その子が、ティーダの好きな子かい?」 いきなり的を得たセシルの質問に、ティーダはぎくしゃくしながらも、そっス、と小さく頷く。 「俺は、そういうのはよく、解らないが…。花が似合う子が、良いかな…」 「はいきたのばらー。フリオってばドリーマーっスねー」 「ティーダには言われたくない」 「…ティーダ、」 今まであまり口を開かなかったクラウドが、ティーダの蒼をじっと見つめる。その真剣な声色と態にどきりとし、ティーダはクラウドの顔を見つめ返した。 「その子のことが、本当に好きか?」 「そ、そりゃ…モチロン」 「…なら、男して泣かせるようなことは、するんじゃないぞ」 「う、うっス…!」 「セシルは、どんな女性が好みなんだ?」 半ばいじけながらフリオニールがセシルに話題を振る。銀色の緩やかな髪の毛をさらりと靡かせながら、そうだなあ、とセシルはのんびりと答える。 「家庭的な人、かな。僕なんかと一緒に居て、それを心地良いと言ってくれる、穏やかな人が理想だね。というか、みんなには黙ってたけど、僕奥さん居るんだよね」 「ええ!?そうなんスか!!?」 「ま、負けた…」 妙に二人でがっくりと項垂れるティーダとフリオニールがおかしくて、クラウドは手の甲で口元を隠しながらそっと笑う。 本当に、この三人は仲が良い。ティーダもフリオニールも、年齢が近いからかよくああしてはじゃれあっている。セシルは落ち着いていて柔らかな雰囲気だからか、クラウド自身も接する時楽だった。 「あ、今笑ったね?」 「…済まない、つい、な」 セシルには笑っていたことがばれてしまっていたらしい。あまり年下とは思えないと思っていたが、所帯持ちでは、確かに年下でも落ち着くものなのだなと、クラウドは妙に納得した。 「で、クラウドは、どんな人が好みなんスか?」 「うん、それは僕も気になる」 「良かったら聞かせてくれ」 「…そう、だな」 思い浮かぶのは、黒髪の彼と、亜麻色の長い髪の彼女。二人とも、太陽のようによく笑う人たちだった。 そして、誰よりも慈愛に満ちていて、優しくて、花が、とても似合っていた。 それを思い出して、ふっと、クラウドの顔にも自然と笑みが広がる。 「…明るくて、太陽のような人、かな」 「…クラウド、もしかして年上が好みっスか?」 「そうなのか、クラウド?」 意外だ、とでも言いたげな顔でティーダとフリオニールの二人がクラウドを見つめてくる。言われて見れば確かに、好きになった人たちは二人とも自分より年上だ。 「…そうかもな。自分が引っ張るというよりも、引っ張ってもらう方が楽だな」 「でも解るかも。それにクラウドって年下よりも年上にもてそうだよね」 「…自分じゃ、よく解らない」 自分なんかを好きだと言ってくれた彼と、自分から好きになった彼女。 どちらも代え難いくらいに大切な存在。今でもクラウドを支えてくれる、クラウドの中の希望だった。 「…俺を好きだと言ってくれる、それだけで、俺の存在が赦されたような、そんな気さえする。それだけで十分、だからそれ以上は、何も、望まない…」 「何か、大人だな…」 「でも、寂しく、ないんスか?男だって、多少我儘言っても、良いと思うっスよ??」 「ティーダ、人間、十人十色、だよ?」 よしよし、とセシルの綺麗な手がティーダの頭をそっと撫でた。それに気持ち良さそうに目を細めながら、ティーダは笑みを深める。 「皆は、この世界から解放されたら、やはり一番の想い人に会いたいと、そう、願っているか…?」 ぽつりとフリオニールが零したその一言に、3人の表情が固まる。 ティーダは、素直に大きく頷く。セシルも、ティーダほどではないが微かに首を縦に振った。 クラウドは、静かに目を閉じ、俯いた。 「クラウド?」 「…俺は、想い人はもう居ない。だから、俺の世界の仲間に会えれば、それでいい」 「…済まない、気を悪くさせた」 「気にするな。それにフリオニール、きっと、お前の仲間はお前の帰りをずっと待っている。誰かを好きになるきっかけだって、生きてさえいればいつでも作ることが出来る。だから、焦らなくて良い」 「クラウド…」 「さて、みんな。話こんだ所で、そろそろ今日は休もうか?カオスの軍勢に備える為に、休める時に休まなきゃ、ね。ティーダ?」 「そうっスね、また、俺こういう風にみんなと話がしたいっス!」 「そうだな、また、恋バナでもするか」 「次恋バナする頃にはフリオにも好きな人ができてることを祈ってるっス」 「ティーダッ!!」 「やれやれ…」 「…良くも悪くも、ティーダの良い所だな」 「そうだね」 フリオニールとセシル、ティーダとクラウドの二組のテントに分かれ、見張りは交互にやることになった。 ティーダはクラウドのテントに入り、装備品を外しながら、既に横になっているクラウドにそっと話しかける。 「クラウド、」 「ん?」 「もう、居ないって…」 「ああ…」 むくりと起き上がり、自分の掌を見つめながら、クラウドはそっと言葉を紡ぐ。 「最初に好きになった人は、俺を庇って殺された。二人目に好きになった人は、セフィロスに、殺されたんだ」 「――――ッ」 「だから、そんな後悔を、ティーダにはして欲しくない」 「クラウド…」 ぎゅ、とティーダはズボンの裾を握り締める。 ふわりと、クラウドの手がティーダの頭を撫でた。 「そんな顔を、するな」 「でも、でも、クラウド、俺…最低…なんスよ」 「?」 「きっと俺、元の世界に戻っても、あんま長く居れない、から…。その子を、きっと、泣かせ…ちまう…」 「…そうか」 「…っス」 「置いていかれるのは、辛いぞ?」 「う…っスッ」 「けれども、置いて行く方も、辛い…な…」 「…ッ……」 「ティーダは、真っ直ぐで、優しいな」 ふるふる、とティーダは首を横に振る。そうして凭れるように、クラウドに抱きついた。抱きついた先の感触は筋肉質で固いけれども、その人肌に安堵して、ティーダは顔をクラウドの胸元に摺り寄せる。 「お前が後悔しない、選択をしろ。それに、これは、ティーダの物語、だろ?」 「……っ」 こく、と頷く。鼻水を啜りながら、ティーダはクラウドからそっと離れる。 「ごめんっス、もう、大丈夫…」 クラウドの魔晄の瞳は、いつだって優しい。その蒼と碧が混じった瞳は、ティーダの想い人のあの子を連想させた。 今頃何をしているのだろう、泣いていないだろうか、寂しがっていないだろうか。早く会いたい、会って笑って、また、一緒に、旅をしたい。 焦がれるこの気持ちに想いを馳ながらも、ティーダは手の甲で乱暴に涙を拭った。 またぽん、と頭を撫でられる。 「もう休め。おやすみ」 「うっス、クラウド、」 「?」 「良い夢、視てくれっス…」 「…ああ」 この旅路もまた、幻想へと繋がる物語。 淡い夢、白き光に溶けて消えていく。 その中でも、この想いだけは、繋げて行きたいと、願う。 だんごの大家族 (みんなでなかよく、おはなししよう) *某だんご動画に触発されてこんなタイトルになった |