路が暗くなったら、その先に在る光を信じて歩けばいい。 突発で、クラウドと二人でバノーラまで旅行することになった。 地図を広げて見てみたら、思わず苦笑。そりゃそうだよな。新羅によってバノーラは既に亡き村とされている。世界を牛耳っていたほどの組織だ、それくらいお手のもんだろう。 第一一度空爆されてるしな。アンジールやジェネシスが知ったら、アンジールは深い溜息を吐き、ジェネシスは、…まあ皮肉の一つや二つや三つは言うだろうな。 クラウドはバノーラのことを相当な田舎だと思ったらしく、ニブルヘイムより酷いのかと、地図を見ながらバノーラの位置をじっと見つめていた。 そこにまた苦笑が浮かんでしまう。無理もない、あの時のクラウドはほとんど意識がないに等しかった。 だから覚えていないのも仕様がない。 エッジからバノーラまでは、移動だけでも二日はかかる。というか、フェンリルでぶっ飛ばしてようやく二日、といった所だろう。 それくらい僻地に存在した村であり、だからこそ天然のマテリアもあそこまでとれたのだ。 何故、今更になってバノーラに向かおうと思ったのか、正直自分でもよく解らなかった。 けれども今だからこそ、クラウドを連れて行きたいと思ったのだ。 「あ…」 休憩をして、今度はクラウドがハンドルを握り運転をしている最中。俺は鼻を澄ませて、空を見上げた。 向こうの方から重く圧し掛かるような気圧の低さを肌で感じて、晴れ渡っていた空がだんだん暗くなってくる。 そろそろゴンガガエリアに入るから、恐らくスコールだろうな。すぐに晴れるのは解ってはいるが、それでも時々雨が強い時もある。 朝からぶっ通しで移動していたから、そろそろこの辺りで野宿の準備でもした方が良いかもしれない。 クラウドの耳元に顔を近づけて、大声でこの辺りで休もうぜ、と云ってやる。 クラウドはゴーグルをかけた顔をこちらにちらりと向け、小さく頷いて森の方へと入っていった。 速度をだんだん弱めて行き、雨が凌げそうな大木の近くでフェンリルを停めると、クラウドはゴーグルを外し空を見上げた。 ごろごろごろ、と音が重く響く。どうやら今夜の天気は最悪みたいだ。とりあえずフェンリルが濡れないように大木の真下まで持ってくる。 荷物を入れていたバッグからテントを取り出すと、クラウドと二人で協力しながらあっという間に組み立てた。 森の地面はそこここに木の根がむき出しに生えていたりするから平とは言い難い。が、雨に濡れてずぶ濡れになるよりはマシなので、とりあえずそこは我慢しよう。 「一応軽食がてら昼飯の残りを別の入れ物には詰めてきたんだけど、これじゃ足りないだろうから、この辺り散策してくるか?」 「…いや、どちらかと言えば水を補給しておいた方が良いんじゃないか?この雨じゃ川も汚れて氾濫するだろうし、その前に汲んでおいた方が今後も楽だろうし」 「それもそうだな。よし、じゃあ手分けして探そうぜ」 「何かあったら携帯に連絡をしてくれ。まあ、アンタの実力だったら大丈夫だろうけれど」 「言ってくれるねえ、俺もう現役のソルジャーじゃないんだからお前には劣るぜ?」 「それならそれで俺が助けに行くよ」 「ほんっとお前って男前だよなあ。じゃ、また後でな」 我ながら良い恋人を持ったもんだ。そう心の中でごちながらクラウドとは正反対の方向の森に、俺も足を踏み入れた。 あれから一時間後。まだ季節は春とも言い難い中途半端な季節ゆえに、動物たちはあまり姿を現さなかった。水汲みはクラウドに任せた為、俺は代わりに食えそうな木の実を集めてテントへと戻った。 あまり腹のたしにはならないだろうが、ないよりはマシだろう。それにソルジャーの身体はいろいろと便利なもんで、一日や二日、食わなくても何とかなる。 さすがに三日経つと、少し力が弱まってくるから危ないけどな。戦場に借り出される生物兵器ゆえに、いろんな機能がバケモノだ。 睡眠も一週間くらい寝なくても保ってくれる。ただやっぱり集中力が切れやすくなるのが難点だが。 テントから雨の具合を覗いていると、向こうから金髪が見える。両手に4本分のペットボトルを持って、髪の毛は雨に濡れてすっかりぺしゃんこになっていた。 「ただいま。何か収穫あったか?」 「お帰り。とりあえず食えそうな木の実は取ってきたぜ」 「雨が強い訳じゃないが、降る時間が長いな…」 「多分暫くはこのままだな。ゴンガガは雨に恵まれている土地だから、スコールかと思いきや一日中雨なんてのもザラだ。ただその後日にくる蒸し暑さが堪ったモンじゃないけどな」 昔暮らしていた時の肌の感触を思い出して、俺は僅かに目を細めた。一度星に還った時、発見されたのもゴンガガの近くだったっけ。 クラウドが荷物入れからタオルを取り出し、髪の毛を拭きながら俺の目をじっと見つめてくる。その蒼碧の瞳に苦笑しながら、タオルの上からクラウドの髪の毛をわしゃわしゃ拭いてやった。 「何だ?俺の顔に何かついてるか?」 「いや、別に…」 ぽた、と。クラウドの首筋に雫が垂れる。白い肌が、この雨で冷えた所為か余計に白く感じた。 金糸が、雨に濡れている所為か余計に綺麗に見えた。 色素の薄いクラウドが、余計に艶を増す瞬間。 こんなシチュエーション、新羅で現役だった頃のソルジャー以来で。 思わず、鼓動が高鳴る。辺りに獣の気配もない。雨は静寂を作り出す。 狭いテントの中、クラウドと二人きり。 どくり、と血液が沸騰しそうになる。 「ザックス…?」 蒼碧の瞳が、純粋に俺を見上げる。欲深い俺が、首を擡げ始める。いくらなんでも、早いだろ、俺。 旅を始めたばっかりだっていうのに、クラウドに身体的負担をかけてはいけない。いや、そんなの詭弁なのは解っている。 つ、と自然と俺の指がクラウドの頬から顎をなぞり、首筋を伝う。ぴくり、と強張る白い肢体。 引き寄せられるように、クラウドの開けた鎖骨に甘く噛み付いた。 「…っ、」 まったく、厭な時は抵抗しろって、いつも言ってるのに。 期待、しちまうだろ? 「ん…くっ…」 大の男二人が狭いテントの中でぎゅうぎゅう身体をくっつけながら熱を共有し合い、愛の言葉を紡ぎあう。 浅ましい俺の欲は、クラウドをいつでも欲している。喩えそれがこんな森の中でも、だ。 「な…、クラウド、これってある意味、…っ青姦、なのか…?」 己の太くて逞しい熱棒をクラウドに押し付け、引き抜いては突き刺すことを繰り返し、そんな馬鹿で下品なことを組み敷いているクラウドに問えば。 いつもより興奮しているのであろう、クラウドの呻きは十分な答えを言ってはくれなかった。 「んっ、ふ…あ、あ…!」 首筋に何度も噛み付き、腰を更に引き寄せて奥の一点を目指してぐん、と大きくグラインドさせてやる。 「あ、あっ!?」 クラウドの下半身が痙攣し始める。両脇についていた俺の片手を、クラウドの胸元へ移動させる。そそり立つ桃色の突起を指で摘んだり引っ掻いたりしてやれば、また中がびくんびくんと震えた。 その姿が可愛くて、更に小刻みに奥を抉る。締め付けが先より酷い。俺の熱がぜんぶ持っていかれそうだ。 「クラウドッ…」 「あ、い…ぁ、ザ…クスッ!」 口元に手の甲を押し付けながら快感に耐える姿はいっそいじらしい。もっと喘ぎが聞きたくて、更に強く貫いてやれば。 「――――ッ!!」 声なき声をあげて、クラウドが白濁を放つ。俺の腹とクラウドの腹にぬちゃりと付いたそれは粘着質で、少し青臭さを放っていた。 こびりついたそれを指で掬い取り、目の前で舐めてやる。 「あ…ッ」 「興奮、した?」 誘うように、舌をちろちろさせながら精液を舐め取る。クラウドの蒼碧が揺らめいた。目元や唇は赤みを増していて実にいやらしい。 「ザックス…」 いつも思う。 クラウドが俺を呼ぶ時の声は、何かの呪文のようだと。 するりと、両腕を首に絡められた。俺も、実は散々虐めてきただけで一度も放ってはいなかった。 今度こそ俺もイかせてもらおうか。 心の中で笑いながら、愛しいクラウドの首筋にもう一度甘く噛み付き、唇に自身を重ねた。 「なあ…」 「ん?」 「アンタの故郷には、寄らないのか…?」 「ああ…」 クラウドの金糸を撫でながら、俺は曖昧に返事をする。結局何回シたんだか。こんな所でも俺の性欲はバケモノ級らしいとはクラウド談。 額にキスを送りながら、 「今更、此処に俺が帰る場所はねぇよ」 と静かに言った。そうか、とクラウドが呟く。 もうとっくの昔に、俺は故郷を捨てたんだ。 クラウドを連れた状態で最後の最後に、バノーラに向かう前に此処に寄れたのは、ある意味ラッキーだったのかもしれない。 一人物思いにふけていると、クラウドがじっと俺を見つめてくる。 「どうした?」 「昔、俺の記憶がアンタのものと混同していた頃なんだが…」 「うん」 「アンタの両親に、会ったよ」 「うん、そっか」 「10年も連絡を寄越さないなんて、親不孝な息子だ、なんて、ぼやいてたな…」 「だよなあ」 「エアリスも、何かショックを隠しきれないような、そんな顔、してたな…」 「そっか…」 そういえばエアリスには、俺の故郷が何処かなんて、言ってなかったもんな。 俺のこと、あんまり話せなかったしな。俺がソルジャーだったからってのもあったけど、彼女もまた辛い立場にあった訳だし。 それにしても、親父とお袋、まだ、生きてたんだな。 ほんと、悪いことしちまったな。何も、返してやれなかった。親孝行何一つ出来ずに勝手に飛び出して勝手に逝っちまったんだから、ほんと俺は親不孝な息子だな。 「ザックス」 「ん?」 クラウドが、ゆっくり上半身を起こす。明かりのない夜でも、クラウドの白い肢体は浮かび上がるように綺麗だと思った。 クラウドの手がそっと俺の頬へと宛がわれる。ひやりとしていて、気持ちがいい。 「後悔、しているか?」 何を、と訊かなくても、それは十分伝わってくる質問だった。 新羅に入りソルジャーに成るということは、即ち己の全てを投げ捨てるのと同じだった。 人としての生を捨て新羅に属し新羅の為に骨身を埋める覚悟で臨まなければ、とてもじゃないがソルジャーは愚かタークスにもなれやしない(タークスはそれでもまだギリギリ人間だが)。 俺はソルジャーに、英雄になりたくて田舎を飛び出し、新羅に入った。 元々タークスからのスカウトはあった身とはいえ、両親もあまり良い顔はしていなかった。きっとあのままゴンガガで暮らして嫁でも娶って田舎にずっと落ち着いていて欲しかったんだろう。 俺はそれが厭でゴンガガを飛び出した。 新羅に入ってからというものの、俺は一切両親には連絡を取っていない。や、一回だけ手紙を出した記憶はある。 後にも先にも多分その一回だけ。 クラウドの話を聞く限りでは、きっと両親は俺が死んだことを知っているかいないのか、どちらかは解らないが、心の奥底で俺にもう一度会いたいのだろうなと、そう思った。 でもな、ごめん、親父、お袋。 俺は一度死んでいるんだ。クラウドに、俺の全てを捧げるって、あの時あの丘で誓ったんだ。 だから、俺はもう会いには行けないんだ。 クラウドの手に俺の手をそっと重ねる。 そして、目を逸らさずに、俺は言葉を紡いだ。 「喩え両親を悲しませても、故郷を捨てても、俺は、俺にはクラウドが居れば、それでいい」 それが俺にとっての世界の全て。クラウドそのものが俺の世界。 本当に親不孝な息子だと思う。親父とお袋は俺を新羅に行かせたことを後悔しているのかもしれない、でも、ごめん。 俺は、新羅に入って、ソルジャーになれて、クラウドと出逢って、後悔なんて、一度もしていない。 「アンタは、本当に、――――俺には勿体無いくらいの、良い男だな…ッ」 震える声で、クラウドが泣き笑いを浮かべる。くしゃ、と、髪の毛を梳き撫でる。渇いた金糸は、チョコボの雛の産毛のようでふわふわと柔らかい。 そしてこんな俺の言葉一つで泣いてくれるクラウドが、堪らなく愛しい。 抱き寄せて、その存在を確かめるように、額にキスをする。 クラウドだから。クラウドだから、俺はこんな風に想えるし、生きていけるんだ。 「お前はさ、俺の世界であると同時に、俺の太陽なんだよ」 「…俺が、太陽?」 こく、と頷く。そう、俺にとってクラウドは太陽であり、光だ。 「云っただろ?無機物だらけのミッドガルの中で、お前が唯一の本物だった、って。それと一緒だ。ソルジャーの任務がどんなに残酷で過激なものか、新羅の闇を知っているお前なら解るだろ?その時に、いつも路頭に迷ってた。どうしたら良いか、どうすれば良いのか、任務をこなす内に、自分の心すらも失いそうになって、判らなくなっていくんだ」 ジェネシスを追いかけた時、アンジールをこの手にかけた時、セフィロスと刃を交えた時。 俺は、新羅の闇を深く知りすぎた。その度に導いてくれたのが、クラウドの存在だった。 出来れば、もっと早くに出逢っていたかった。もっと早くに、その感情を知っていたかった。 だからといって過ぎ去った過去に縋りついた所でどうしようもないのは解っている。 だがそう思えるくらいに、俺にとってクラウドは絶対で、唯一だった。 クラウドが、息をのむのを感じて、俺は抱き締める腕に力をこめた。 「今ならこう思えるんだ。あの時あの丘で起こったことは必然で、お前が俺の為に流してくれた涙は、俺の道しるべになったんだ。お前の純粋な想いが、また俺達を引き合わせてくれたんだよ」 置いていかれる立場がどんなに苦しいか、俺は知っている。それなのに、俺のエゴでクラウドに全てを押し付けて、俺は一人、あの時逝ってしまった。 ごめん、なんて一言じゃ済ませられない想いを、クラウドに味あわせてしまった。 それでもやっぱり、俺はクラウドから離れることが出来なかった。 触れて、名を呼んで、この腕に抱き締めて、想いも、熱も、吐息すらも、何もかも共有して、其処に在りたかった。 「クラウド……」 愛してる、なんて言葉、何回吐いたら満足できるんだろう。 否、きっと、この気持ちと想いだけは、幾つになっても、何度確かめ合っても満足することなんてきっとないんだ。 それだけ、貪欲なんだ。 クラウドに。クラウドの存在、そのものに。 髪の毛一本すら、愛おしいと思えるほどに。 深く、深く、求めあう。 好きだ。好き過ぎて、どうしようもないくらい。 俺だけの太陽で居て欲しい。 俺だけの世界で在って欲しい。 またそうやって下らないエゴに支配されていく中、きっとクラウドは変わることなく輝き続ける。 何十年も後まで、輝きをいっそう増すに違いない。 それだけの力強さと生命を、彼は持っているから。 だから俺は、その姿を見る度に、何万回、何十万回と、変わることなく囁き続ける。 「永遠に、愛してる」 タイヨウ (傷だらけになってただがむしゃらに走った路を、お前は照らし出してくれる光だから) song by タイヨウ@より子 to be continued... |