まばゆくて、 意識がふと浮上する感覚。ゆら、と水面に浮かぶ船のように。だんだん俺の意識も、水面へと上がっていく。 ぷか、と浮かぶ意識に、ぱちぱちと瞬きを数度。次に指を一本動かしてみて、触覚を確かめる。シーツの上に横たわる自分の身体。 ふと隣を見れば、こちらに背を向け静かに寝息を立てるザックスの背中。逞しい身体つきは、薄手のシャツの上からでも十分わかる。 規則正しい寝息を立てる彼を、じつと見つめて。ゆっくりと、俺は上体を起こす。いつもはかき揚げられた彼の髪の毛は、いまは下りている。硬質な黒髪の一房を摘んで指先で弄れば、少し思ったより柔らかくて、気にせず弄り続けた。 同時に彼の寝息を聴いて、ほっとする俺が居る。 最近ずっとだ。いや、セフィロスとの闘いが終わってから今に至るまで、ずっと。 もう習慣、なのかもしれない。 セブンスヘブンで、ティファとマリンとデンゼルとザックスと俺とで暮らし始めて。何でも屋をこなすようになって、一つ屋根の下で過ごして。 毎度、彼の息を確認する。 彼の心臓が動いているということ。 彼の寝息が規則正しいということ。 その確認をせずには、俺は安堵することができない。 すこし日に焼けた頬を撫でれば、ぱしり、とザックスの手が俺の手を掴む。 「どうした?」 「…!起きて…っ」 ああ、ついにばれてしまった。今までばれないように、やっていたつもりだったのに。 何て返せばいいのかわからなくて、つい黙る。 くすりと笑うザックスの声。手を掴んだまま、彼は続けた。 「不安だったのか?」 「……っ」 どうして彼は、俺の考えていることを一発で当てるのだろう。そんなにわかりやすいのか、俺の顔。 「だってお前、すぐ態度に出るんだよ。わかりやすすぎ」 「悪かったな」 さして悪いとも思っていないが、そう言ってやれば、はいはい、と返された。 「クラウド」 確かな、彼の声。 どきり、と心臓が高鳴る。 「大丈夫だ」 空色の瞳をこちらへ向けて。 「俺は、ここにいる」 にこ、と笑う彼の笑顔が。 嗚呼、まるで太陽の如くまばゆくて、 「…ああ」 そうだ。彼は、ここに、 「ザックス…」 「んー?」 きゅ、と手を握り返す。とくん、と伝うねつ。 その確かなねつに、感触に、かたちに。 「ありが、とう…」 「…おう」 泣きそうに、なって。 「クラウド」 ぐい、と手を引っ張られた。 「よしよし」 有無もいわさず抱きしめられて、まるで犬猫を可愛がるように髪の毛をわしゃわしゃ撫でてきて。ぎゅうぎゅうと、強く抱きしめられたそれが苦しいが、でも嬉しくて。 今度は、逆に意識が落ちていく。 ふよふよと、水中を漂う海月のように。 ゆっくりゆっくり、沈んでいく。 「今度は、いい夢を、視るんだぞ」 そう云われて視れるかどうかなんてわからない。でも、アンタがそう云うなら視れるかもしれない、なんて。 らしくもなく前向きなそれに苦笑を浮かべたが、実際はもうだいぶ気持ちよさと心地よさが先行してしまって、瞼は完全に閉じられていて。 彼の心臓の音が、まるで海の中のようだと思った。 いや、どちらかといえば、空の上かな。 まばゆいが、あったかくて、気持ちがいい。 今度からは、そんなことをする必要はないんだ。 だってずっと、傍に居ると誓ったから。 そんなことを、云われた気が、――――した。 かさねられた手、 (は、あつくて、やさしくて、思わず泣きそうになったんだ) |