※ACより5年後くらい。C28、Z30くらい。





































もうそんなに長いこと一緒に居るのだなと、感じる時がいくつもある。































再度の世界の厄災から数年の月日が経ち、更にDG達の襲撃も無事にいざこざが済んだ今となっては、ぼろぼろながらも何とか形を保っていたエッジの町並みもすっかり綺麗な町並みへと変化していた。未だ余韻を残しスラムに暮らす子供達の姿も見るが、昔に比べたらずいぶん見なくなったなと、ザックスは思う。あれからもう5年。同居人であり、パートナーであるクラウドと出逢ったのは10代半ばの時であるから、もう10年以上の付き合いになるのだなとしみじみ感慨に耽っていると、自然と口元が緩む。
オシャレなオープンカフェにて、今は昼食中だった。クラウドは目の前の席で、何を食べるのか迷っているようだった。長い睫毛は何年経っても美しさが衰えることはなく、寧ろ歳を重ねるごとにその美しさと輝きは増しているようにも思えた。頬杖をついて水を一口飲みながら、クラウドにばれないように盗み見る。もはや癖のようなものだ。形の良い唇がすみません、と店員に声をかける。寄ってきた綺麗なシャツを身に纏ったそばかすの似合う赤茶の女の子の店員がメニューを聞くべくメモを取り出す。クラウドの顔を見て一瞬赤くなったのを、ザックスは見逃さなかった。二人分のメニューを聞いて店員が頭をぺこりと下げる。ザックスもまた人好きな笑顔を浮かべて会釈をすると、更に頬を染めた店員がそそくさと去って行った。
(ありゃあクラウドに一目惚れしたな…まぁ俺もそういう意味じゃ負けてねぇけど)
昔から女の子は無条件に好きだ。そもそも女は敬うものだと小さな頃から母親にしつけられてきた所為か、それなりの歳になったらあっという間に周りに女の子が自分の意図せぬ所で寄ってきたりした。今も、どうでもいい訳ではないが昔ほどでもない。クラウドに出逢ってからは、それ以上の感情が生まれることは絶対になかった(ただ一人、花売りの少女を除いては)。
ここのオープンカフェは最近開いたばかりの新しい店だった。クラウドがクライアントから聞いた店だとかで、たまには二人で食事でもして、デンゼルの新しいベッドのマットレスでも新調してやろうという話になって今に至る。ストライフデリバリーサービスは、好調だった。相変わらずザックスもたまに仕事を手伝い、昼間はデイサービスみたいなかたちでまだ建造途中の土木業を手伝ったり、夜はティファのサポートをしている。これでも体力は落ちた方だ。クラウドにも度々無理はするなと怒られるが、ソルジャーをしていた頃より全然楽だ。運ばれてきたサンドウィッチとアイスティーに、ようやく小腹が空いた感覚に陥り、一口食べる。バジルチキンとトマトの酸味が絶妙なハーモニーを生み出し、オープンしたてにも関わらずなかなか人が入っている事実に納得した。食べきれなかったレタスが、クラウドの唇から少しもれている様があまりに可愛らしくて、ついくすりと笑ってしまう。それに気付いたクラウドが目を細めながら睨んできた。
「何だ?」
「いや、可愛いなと思って」
「…アンタは口を開けばすぐそれだ」
はぁ、と溜息を吐きながら今度は口直しにアイスティー。その唇が開いた瞬間、たまに二人で耽る行為を思い出して、思わず場違いな思考にザックスはチキンとそれを挟むフォカッチャに大きくかじりついた。繰り返し言うが、クラウドという存在は歳を重ねるごとに美しさを増している。目に毒だが、ずっと見ていたいとも思う。歳と経験を重ねそれなりに落ち着いたと自分では思う方だが、クラウドの前に居るだけで根底から覆されてしまう。それだけ、己は、
「好きなんだよなぁ…」
と思わず、声に出てしまったようで、それを聞いたクラウドが盛大にむせた。
「大丈夫か?」
すっとぼけた態度でわざと聞いてやると、また蒼碧の宝玉がぎろりと睨みをきかせてきた。
「ア…ンタッ!いきなり何を言うんだッ」
「別に?お前のことが好きだなぁってつぶやいただけ」
「…場所を考えろ」
「今更だろ?」
ザックスがクラウドのことを想う想いの深さは相当なものだ。それはクラウドとて同じこと。いちいちそれくらいで反応を返すクラウドの方こそ、もう歳も歳なのだから慣れてもいいものを。まぁそこが良いのだが、と心の中で惚気ながら、最後の一口を口に放り込み、溢れ出てしまったオリーブも一緒に咀嚼する。カントリー風味な割と女性向けなカフェだ、今度ティファやマリンも連れてきてみようと思いながら、ちょうどクラウドも食事を終えたようで同時に立ち上がる。
会計を済ませ、今度はデンゼルのベッドのスプリングがいい加減酷くなってきたと本人から申し出があったのでそれの購入のためインテリアショップに向かった。エッジの中心街にあるだけに、なかなかに大きい。賑わっている盛況さを見ながら、ベッドのコーナーへと向かう。隣を歩く時、必ずクラウドは自分の左隣に居てくれる。それがたまらなく愛しいと思う。そっと手を繋げば、僅かに顔を赤らめながらも振り払う様子はなくて、僅かな道のりなのにそれにひどく喜ぶ自分が居て。いい加減この気持ちが落ち着いても良さそうなのになぁと思いながらも、だから未だに子犬と呼ばれるのかと妙に頷いてしまった。
ベッドのコーナーに着くと、クラウドが店員から説明を聞いてどれにするか迷っているようだった。実際には本人を連れてくるのが一番なんだろうが、デンゼルももう17だ。自分の友達が居るし、友人達と一緒に遊んでいる方が楽しいのだろう、昔みたいにクラウドの後をくっついて歩くという光景は最近あまり見かけない。とりあえず代打としてクラウドがベッドへと寝転がる。その間、ザックスは傍に腰掛けてクラウドの髪の毛をそっと撫でた。
「アンタ、今いくつだっけ?」
唐突に、されるがままのクラウドが年齢について聞いてくる。
「…あー、確か30くらいかな?」
「その割に、アンタあまり老けないな」
その言葉をそのままお返ししてやりたい。そういう意味ではクラウドの方が年齢不詳だ。大きな丸い瞳は相変わらず可愛らしくて、それでも鋭さを携えているから油断できない。20代後半になれば顔立ちも男らしいものへと変わる。何より顎のラインがすっかりシャープになって、ただ綺麗なだけでなく、男の色気をクラウドも醸し出すようになったなと、寝転がる綺麗な造形を見ながらそう思った。
「もう、そんな歳なんだな」
僅かな苦笑を浮かべながら、クラウドは天井を仰ぎ見た。もう少年時代の煌めいたものはないし、その頃にはたくさんの苦労を重ねてきたけれど。その分、今はちゃんと大地に根を張って築いてきたこの道があると、胸を張って云える。
「何だか、寂しいな」
「何が?」
撫でている手が、ぱしりと掴まれた。
「デンゼルが大きくなってしまったことも、お互いが老けてしまったことも」
あの頃の煌めきは、きっとその時にしか持てないものだ。同じようにその時代を苦労してきたからこそ、クラウドも感じることは同様だったらしい。
「それに、」
「ん?」
「デンゼルの奴、最近可愛いげがなくなった」
「ふぅん?」
「寧ろ生意気になったな。人があれこれ心配してやってるのに、もういいって言いながらすぐ逃げる。ああいえばこう言うし…一体誰に似たのやら…」
(そりゃあ間違いなくお前に似たんだろうよ…)
口にだしては言わないが、ザックスはしみじみそう思った。実質デンゼルの父親代わりはクラウドだ。子が親に似るのは、それは当たり前だろう。ましてデンゼルにとってクラウドは命の恩人。影響を受けない筈がない。たまにザックスが遊ぼうとせがむと、冷たい視線を寄越される。そして仕方ない、といった感じでザックスに付き合うのだ。その時の溜息や目つきがクラウドといやにそっくりだったのをザックスは思い出す。
クラウドがむくりと起き上がり、次に隣のマットレスへと移る。倣って今度はザックスも寝転がった。軋むマットレスは身体にフィットして心地良い。自分たちの部屋のマットレスもいい加減ガタがきているのを思い出し、一緒に買い替えるかなぁと耽っていると。すぅ、と微かな息遣いが聞こえてきた。マットレスの柔らかな感触が心地好いのだろう。クラウドが目を閉じている。やはりそのくちびるに吸い付きたくなる衝動を我慢しながら起き上がり、寝るなよー、と囁いてやる。
「…気持ち良いな、このベッド」
「そうだな」
「俺達の部屋のも、ついでに買ってくか」
「ちょうど同じこと考えてた」
くす、と目を少し開けて、クラウドが薄く笑う。ざわざわと騒がしい声を聞きながら、ザックスはここがいつも二人で愛を育んでいる部屋にいる時と同じような感覚に見舞われた。目の前にクラウドが居るから、その愛しい人が自分に向かって微笑んでいるから。いやでも、そう錯覚してしまって。そっと滑らかな頬を撫でる。ずっと堪能していたいと思わせるクラウドは、全身が特殊な才能の持ち主なんじゃないかと思わせるほど。
「あの、お客様…?」
元ソルジャーの癖に、背後に立つ店員の気配に気付けずに。それだけザックスは、クラウドに夢中なのだなと改めて感じた。声をかけられたことも、公共の場なのにも関わらず思わずその気になってしまったことにも少し驚きつつ、平静を装い起き上がると店員はクラウドにいかがでしたかと尋ねている。
(…俺もクラウドのこと言えないな)
以前から好きには違いなかったが、色褪せぬ恋心は加速する一方だ。ちゃんとお互いの気持ちを解っているから、そこには恋心だけでなく深い愛情もあることを理解はしてるが、こんなにも好きになることができるんだと思える自分も病気だと思った。
結局マットレスを二つ購入し、車のトランクを開け、後部座席を倒して無理矢理積めた。ザックスの運転で岐路に着く。ここ最近は家の中に互いに篭ることが多かったから、久しぶりにデートのような感覚を味わった。車を運転しながらクラウドとくだらない話をして、それに笑い合って、家に着けばマリンもティファもデンゼルも居なくて、早速自分達の部屋のベッドのマットレスを取っ払い、買ってきたものを広げる。店員の話ではマットレスが元の形に戻るまで3時間はかかるということだった。その間リビングにてゆっくりすることにして、紅茶を煎れてやって雑誌に目を通してるクラウドに持っていく。皿の脇に小さなビターチョコレートを置いてやると、クラウドが微かに笑みながらそれを口にしながら紅茶を飲む。こんな些細な日常を送れるようになってから何日経ったのか。でもそんなこんなでもう10年以上の付き合いになるのだから、出逢ってクラウドを好きになったことは間違いではなかったのだなと、そう思った。
ストレートの紅茶の仄かな苦味と甘味に、微かに目を細める。自分の恋愛も、この紅茶のようなものなのだろうか。ふと雑誌を読むクラウドの横顔を見つめて、いつの間にかこの空気が身体に馴染んでいるなと思う。そっとクラウドの傍に寄り、肩に凭れる。何もいわず、クラウドは未だ雑誌に視線をやっている。そしてそっと、ザックスの頭を綺麗だけれども多少無骨な指先が撫で梳いた。急に襲ってくる眠気に、ザックスはゆっくり目を閉じる。クラウドの隣に居る限り、こんな幸せが続けば良いと、願う。
「眠いなら寝て良いぞ」
唄うような声に、浮かぶのは微笑。嗚呼、ほんとうにとろけてしまいそうだ。10年前も、10年後も、君のことを愛してる。だんだん意識が遠退く。密着する体温の心地良さに包まれて、ザックスはまた笑った。
























また明日がやってきて、その日常を過ごせることができる喜び。それは隣にクラウドが居てくれたからこそ、感じられる幸せ。
今も先も、きっとこの想いは続いていくんだ。




















10年先まで君にして
(更にその10年先も、相変わらず俺はお前に愛を囁くのだろう)





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