ぜんぶとけてしまいそう。






























荒い息遣い。
愛撫する指が身体を這う度に、魚のようにびくつく。
けれどもその感触に嫌悪感はない。
快感ばかりを引き起こすその指遣いに、いつも振り回されてばかり。
余裕があるつもりもないが、けれども歳を重ね経験を重ねる内に昔にはなかったそれなりの余裕を持っているつもりでいた。
けれどもそんな薄っぺらい余裕はあっさりと引きはがされて、ただただ乱れる。
今も、男から与えられた愛撫によって全身が蕩けていた。
「…っ、…はっ…」
ちゅ、ちゅ、と唇が胸元から腹へ下りていく。臍の辺りを執拗に舐められて、腰骨ラインをつつ、となぞられた。びくびくと跳ねる身体は、いつにも増して感度良好。
「んん…ぅ…」
両手で顔を覆隠して、とにかく自分の顔を見られるのが恥ずかしくて、唇を軽く噛んで、与えられる快感から耐える。
身体がふるえる。
歓喜に、快感に、興奮に。
男から与えられるすべての刺激を、身体ぜんぶで受け止める。
自分だけ服を剥かれて、隠す布は何もなく。両脚を持ち上げられ、秘所を曝される。また恥ずかしさがこみあげて、唇を噛んだ。
太い指が、そっと己の唇をなぞる。なぞられる内に、無意識に指を追いかけ、ちゅ、と口づける。
そしてそれが合図かのように、既にそそり立つ熱芯に手を当てがい、軽く上下に扱かれる。
聞こえる卑猥な水音に、聴覚すら犯されるのだ。
くち、ぐちゅ、と粘り気のある湿った音に、心臓がだんだん速まっていくのがわかる。
熱が、中心に集中していく。
いつの間にか片手はシーツを握り締め、何度も首を捻り情けない悲鳴をあげながら強すぎる刺激にまた耐える。
はぁ、はぁ、と更に息が上がる。
嗚呼、と胸が締め付けられた。
この男とこういうことをする時はいつもそう。
幸せだけれど、切なくて、涙が出る。
「ん…ぁ、あ…ああっ!」
一定のリズムで扱かれたそれはあっさりと欲望を吐き出した。男の手にこびりついたそれを、男はしばしじっと見つめ、唇をいびつに歪めた。
「むぐっ!?」
そして青臭さを纏った指を、口の中に無理矢理押し込まれた。
乱暴に咥内を犯す指に息がうまく出来ず、むせ返るような味とにおいに思わず眉を寄せる。
顔はいつのまにか開放されていた。片手で両手を押さえ込まれ、身動きは取れない。
お前の味、ちゃんと味わえよ。
いびつに歪んだ口元は、確かに低くそう告げた。
些かゆっくりになった指に安堵し、今度は犬猫のようにペロペロと舐めた。くすぐったいのか、男は無邪気に笑う。
そして己の目元に残る涙の筋を拭うように、目尻をそっと舐めた。
両手を押さえ付けていた男の手から解放されたかと思いきや、今度は背中に手を回された。
脚を再度持ち上げられる。
もう限界なんだと、男はそういうように無言で先端を入口へと押し当てた。ぐ、と熱の塊が中へ入ろうとこじ開けようとしてくる。
びりびりと刺激が走った。
けれども肩口に歯を立て、それに耐える。
めり、と何かが避ける。解しもしないで致したから、多少無理に押し入らなければすべておさまらない。
また生理的な涙が伝う。
安心させるように撫でられた手に、胸が温まるのを感じた。
男も興奮しているのか、ひどく汗をかき、またむせ返るような体臭を放っていた。
だがその男臭いにおいが、己の快感をかぎたてる。
ある種フェロモンのようなものだ、とどこかで思いながら、熱の塊はぐんぐん奥へと進んでくる。
「ふっ…ん…んあっ」
痛みは徐々に和らいでいく。
ゆっくりと侵入してきた所為でそれがすべておさまったのにずいぶん時間がかかったように感じた。そしてあまり間を開けずに、腰を前後に動かされた。
脳天を突き抜けるような快感に、己の思考は一気に霧散する。
目の前の男しか、考えられなくなる。
今己を支配しているのはこの男で、だんだん男に中まで浸食されていくような。
だがそこに恐怖はなく、やはりあるのは快感だけ。
ぞく、と背筋に電流が走る。
藍の双眸が己を射抜き、目と目がかちあった。
その瞬間、男と己を結ぶ結合部がきゅう、と締まる。
ナカにいる男の熱に、己の本能も従順に従った。
更に脚を高く持ち上げられ、男は己の名前を呟きながらひたすらに己のナカを強く強く犯した。
肉と肉がぶつかる音、湿った水音は今自分達はこういう行為をしていると思うには十分過ぎる材料だ。
肩に思わず爪を立ててしまうのが申し訳なかった。
だが男は存在を刻み付けるように細かくぬちゅぬちゅと出し入れしながらいった。
もっと爪を立てろ、お前の存在を俺に刻み付けろよ、と。
またその言葉に、身体がふるえた。
涙が止まらなかった。
背中に手を回し、狂ったように喘いだ。
最早男の名前しか紡いでなかった。
男もまた己の名前しか紡いでなかった。
奥をえぐられる度に自身の欲望も膨れ上がり、だらしなく先走る。
がしり、と脚を男の腰に絡めた。男が何度も壁を擦り、胸元の飾りを指の腹で押し潰して来る。
口づけは、口づけというよりただの貪り合いだった。
息ができない。
歯がかちかちと当たる。
こうなってしまうとただの獣だ。
びくびくと下肢が痙攣し始める。男の動きも細やかになってくる。上の壁をごりごり擦られて、最早理性は残っていない。
ぎゅう、と背に爪を立てた。
男が首筋肉強く噛み付いてくる。
瞬間、弾けた。
びゅくびゅくと男の腹と己自身へ白濁を放ち、同時にナカを締め付ける男が、呻きながら同じように欲望を吐き出した。
はぁ、はぁ、と息遣いが荒い。
汗がぽたぽたと落ちて、男の顔に前髪が張り付いていた。
額にキスされて、届かないから鼻の先に口づけてやる。
見つめ合って、触れるだけのキスを繰り返した。
呼吸を整えながら、頭を撫でられ、繋がったまま息を吐いた。
まだ鼓動がうるさい。
嗚呼、幸せだ。
繋がって、この感情をお互いに確かめ合うことができるこの時間が、何ともいえない幸せに包まれる。
ありがとう、と、愛してる、を同時にいわれる。
優しいキスが、また降ってくる。
きっとこの先何年経っても色褪せないこの想いに、己自身未来予想図を想像して微笑ましいと思った。
何て愛しいんだろう。
汗で張り付いた黒い前髪をそっと避けてやる。嗚呼、この精悍な顔も、たくましい身体も、太い指も、ぜんぶぜんぶ、愛してるんだ。
「クラウド…」
































またそんな声で名前を呼ばれたら最後。
その指によって快感を引き起こされ、果てることのないまぐわいは続いていく。




























ぜんぶとけてしまえたらいいのに。
でもそうしたら、このこうふくをあじわうことができないのかな。
もっとも、そんなふうにかんがえてしまうことじたい、このくうかんにはひつようないのかもしれないけれど。







































の部屋
(そう、こんな感覚を呼び覚ませるのは、世界にアンタだけ)




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