「いつまで潜ってるつもりだー?」


























基本的にこの異世界と呼ばれるこの世界には、みんなにとってそれなりの由縁ある場所が一つ一つ組み合わされて一つの世界という形を成している。ただ、今まで旅してきた限りでは水辺のような場所は存在しておらず、ティーダと何気なく散歩している時にそこは発見された。キラキラと星が輝き、それに共鳴するかのように森の木々や泉の水面が光を放つ、神秘的な場所に俺達は居た。あるいはこれ、迷子になったっていう方が正しいのか?
で、ティーダはこの森に入るなり、一瞬普段見せないような曇った顔を見せたけどすぐ笑顔を作って、ちょっくら一泳ぎしてくるっス!と言っては俺の返事も待たずに服も靴もそのまま、どぼん、と森の真ん中にある泉の中へ入ってしまった。
ティーダが潜った水面の近くに近付くと、まるで宝石かなにかのようにとにかくそこかしこからいろいろな光を放っていて、中へ潜ったティーダの表情まで伺えるほど透き通っていた。うず、と少し身体が疼く。盗賊業を生業としている俺にとっては、正にお宝がありそうな予感。カオスの奴らも周りには気配がないみたいだし、ティーダを放って置いて、俺は一人お宝でも探検しに行こうかと踵を返した瞬間。
ざばっ!と水から上がる音が聞こえて振り返れば、ティーダがちょうど上がったようだった。
「あー、気持ち良かった!」
満面の笑みで水を滴らせながらティーダは俺の元へと戻ってくる。そらぁ良かったな、俺はお宝を探しに行き損ねちまったよ。
「ここ、俺の世界とすごい似てるっス」
「へぇ?普段俺らが行き来してる世界だけじゃないんだな、ここの世界って」
「そうっスね、俺もびっくりした。この森はマカラーニャの森っていって、此処であの子と…」
そう言って、またティーダの顔が曇る。疑問符が頭を過ぎり、まぁとりあえず立ち話も何だし、水辺から離れて木の根本に腰掛け、俺は太い幹に背を預けた。
「何かアレか?もし悩んでることあるんなら、聞くぜ?」
「んー…」
そう突つけば、心ここにあらずという感じでティーダがやる気ない返事を返す。膝を抱えて、ティーダが俯いた。滴る水滴はティーダの顎のラインを伝って落ちていく。悔しいが水も滴るイイ男って言葉がぴったりで、思わず鼓動が一瞬高鳴った。
「何か、いろいろ思い出すんスよね、此処に居ると」
「何を?」
「みんなと旅してきたこととか、あの子を初めて抱きしめた時のこととか」
…アレか?女の子に常に餓えてる俺に対しての厭味か?
そんな俺の心境なぞ知るわけもなく、ティーダは更に続ける。
「俺さ、その時あの子に酷いこと言ったんだ。もうやめちゃおう、って。あの子が抱えてるもん、全部解放してあげたくて、あの子を助けてあげたくて、だからやめちゃおうって、言ったんだ。でも、やめるってことは、あの子が頑張って今まで築き上げてきたもん、全部すてるって意味で、…だから俺、その時は助けたい一心で言ったけど、今になって考えるんスよね。あの時、そんな軽はずみに言わなきゃ良かったなぁ、って」
ティーダの話は正直3分の1も理解ができなかった。そりゃそうだ、みんなそれぞれどういった経緯で旅をしてきたのかなんて、詳細まで覚えてないってのもあるが、いちいちそれを口にするほどのものでもないからな。でも、ティーダがこの森で、以前噂のあの子とやらに言ってしまったことを酷く後悔してしまったことだけはよく解った。木の枝が近くに落ちていて、俺は何となくそれを拾い上げる。手で弄びながら、俺はティーダの言葉を反芻した。
「でもさ、」
「?」
「俺には事情がよく解らないから、それこそ軽はずみなことは言えないけどさ、その子を慰めたい、っつか、元気になってもらいたい一心で、ティーダはその言葉を口にしたんだよな?」
「…うっス」
「その子、どんな反応してたんだ?」
ティーダはぴくりと身体を強張らせ、目を細めた。嬉しそうな、でもどこか悲しそうな、どことなく儚い笑みだった。
「悲しそうだったけど、笑ってくれたっス」
「なら、良いじゃねぇか」
ぽい、と枝を投げて、再度背を木の幹に預けながら、俺は言った。
「女の子ってさ、悲しいだけじゃなくて、嬉しくても泣くんだ。そういう時の笑顔ってさ、一番綺麗だって、俺は思うぜ」
そういう笑顔を見る度、嗚呼、俺は男なんだから、この子を守りたいって思う。そして、胸の奥が締め付けられて、愛しいっていう想いが溢れて、止まらなくなる。
「…そっか」
ティーダが頷く。やはり顔は俯かせたまま、けれども今度は綺麗な笑みを浮かべていた。
「だったら、良いんスけどね…」
その時のティーダの笑顔は綺麗だけどどこか儚くて。何だか今にも一瞬消えてしまいそうな気がして。思わず、ティーダの左腕を掴んでいて。
「…ジタン?」
どうかしたか?とティーダが尋ねてくる。
「いや、」
気のせいだろう。一瞬ティーダがこの森の光に呼応するように淡く光って透けていた、なんて。
「ジタン、」
「ん?」
「ありがとっス」
「おう。何か弱音吐きたかったらお兄さんがいつでも相談乗ってやるからな」
「年下なのに?」
「そ、年下だけど」
そういやこいつ俺のいっこ上なんだよな。頭をくしゃくしゃに撫でてやれば、やめろよ、と嫌がる素振りをまったく見せないティーダが、また笑った。


















森が煌めく。まるでティーダの笑顔みたいに光り輝くこの風景と、隣で笑うティーダの顔を、俺は元の世界に戻っても、覚えていたいと思った。
んで、いつかまた会えたら、一緒に宝探しするのも、悪くないかな。なんてね。












ジタン+ティダ。精神的には年齢逆転な二人。






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