(何で………)



























放って置いてほしいのに、俺はこういう類の人間にばかり懐かれるのだろう。
思わずそう思った。
「あー、腹減ったー飯の材料を探せど、見渡す限りは砂漠ばかり…何処に食料なんて転がってるんスかねぇ〜…」
(それよりも、黙って歩けないのか…?)
いらっとしながら言葉を飲み込み、ティーダの前をずんずんと一人突き進む。手分けして食料を調達することになったのだが、此処は月の砂漠と呼ばれる地帯。砂漠に食料なぞあるのだろうか。甚だ疑問だったが、とにかく何か食料らしき物を見つけないと後ろを歩いている奴がうるさい。故に黙らせなければ俺の苛立ちが募る一方だった。
コスモスに召喚された仲間のうちで、俺とティーダは唯一の同い年だった。その所為か何なのか、妙に懐かれている。俺は適当にあしらっているのだが、ものともしないティーダは俺の後を着いて歩く。まるで犬か金魚の糞だ。ジタンといいバッツといいティーダといい、何故俺の周りにはこうも騒がしい奴等ばかり集まるのだろう。放って置いてほしいのに、それを許してはくれない。そもそもティーダはクラウドたちのパーティに居た筈だ。それが全員で行動を共にするようになってからは俺の後を着いて回っている。だいいち俺の年齢を周りに明かした記憶もないのに何故ばれているのだろう。ますますワケが解らない。
「おーい、スコール、待てって!」
小走りにティーダが後をついてくる。歩き進めても岩場ばかり、砂漠地帯であるからオアシスとか、そういう所を探さない限り永遠に砂と岩しかないだろう。
「なあスコール、俺と話さないっスか?」
「…お前と話すことなんて何もない」
「俺にはあるんスよ」
「くだらないことを言っている場合か?さっさと食料を探して皆のところに戻るぞ」
「そんなにカリカリして、カルシウム足りないんじゃねぇの?」
「…うるさい!」
笑いながらティーダが言ってきた言葉に思わずカッとなって、怒鳴る。しかも言われたことは図星だった。確かに俺は牛乳はそんなに好きじゃない。何故解ったんだ、こいつ。
「ご、ごめんっス…」
少ししゅんとなったティーダの顔色を見て、今のは大人気なかったなと思い、小さく咳払いをしてまた無言で歩き出す。さく、さく、と砂を踏みしめる音だけが響き、お互い無言の時間が時を刻む。
「スコールはさ、元の世界では傭兵、だったんだっけ?」
「……ああ」
そんなに俺のことが知りたいのか。知ってどうするというんだ?所詮他人同士なのに。今度は俺の隣に並び、俺よりも僅かに背の低いティーダが俺の顔を覗きこんでくる。
「すげえよな、傭兵って何かかっこいいっスね!だからスコールは、そんなに顔が老けてんのか〜」
「………」
老けているは余計だ。そう思いながら横目でぎろりと睨むと、冗談っスよ、と苦笑しながらティーダが頭を掻きながらそう告げた。
「でも俺と同い年で傭兵かー…。俺とスコールは、住む世界が違うってカンジだなあ」
(当たり前だ……)
お前と一緒にするな、と思いながらまだ歩く。やはり歩けど歩けど、食料らしき食料は見当たらない。どこかに木の実でも成っていれば良いが、砂漠に木が生えているわけでもなく。
「俺も、俺にもさ、スコールみたいに強かったら、あの子のこと、救ってやれるのかな…」
ぽつり、と。それは唐突に呟かれた小さな言葉だった。聞こえないフリをした。聞いたって、どうせ俺には解らない事情だ。ティーダの足が止まる。肩越しに振り返り、ちらりと一瞥すれば。そこには普段見ないような、沈んだ顔があった。意外といえば意外だった。ティーダは、仲間内の中では騒がしい方だ。それゆえバッツやジタンとも仲が良く、一緒にじゃれている姿をよくみかける。それが今では、暗い影を背負い、らしかぬ顔で俯いている。踏み込むな。それ以上はダメだ。警鐘が聞こえた。けれども、そんな顔をされては。
「…ッ」
だからといって、うまく言葉にはできない。それ以上どう踏み込んで良いのかも、俺にはよく解らない。そんな時だった。
「――――伏せろ!」
「えっ!?」
ティーダの背後の、はるか向こうの方から無数の赤い矢のようなものが飛んできた。咄嗟に抱き寄せて庇う。ざしゅ、と右腕に一本掠っていった。
「ぐっ!!」
そこから伝う熱と痛みに思わず眉を寄せる。歯を食いしばって顔を上げれば、空にはアルティミシアのイミテーションがふわりと浮いている。
「スコール、腕っ!」
「気にするな、問題ない。それよりも、行くぞ!」
ティーダから離れ、ガンブレードを手にして走る。妖しい魔女を象った鏡は歪に嗤い、俺を見下した。それがまた鼻につき、地面を蹴る。交差する刃と鏡の爪。トリガーを弾いて瞬間的に爆発を起こすと、寸での所でかわした魔女がまた声高々に笑う。すると背後からティーダが跳んできて、蹴りを一発。まともに食らった魔女はよろめき、ティーダはすかさず追撃をお見舞いした。しかし、別の所からまた殺気を感じた。鏡を砕けさせ崩れいく魔女の下方から、今度は暗闇の雲のイミテーションが両手を構えこちらを見て嗤っていた。溜められていく殺気の塊は、遠慮なく放たれる。軌道上に居るため、避けるのに間に合わない、そう思ったとき、目の前に影が出来た。
「ッ!!」
波動砲は、目の前にやってきたティーダの脇腹を貫通した。互いに空中から落ちていく。すかさずまた庇うようにティーダを自身の方へ抱き寄せて砂の上へと落下した。肩を打撲した所為か微かに痛みが走る。そういえば右腕を負傷していたのを忘れていた。むわ、とむせ返るような血臭。それにまた眉を寄せた。どく、と溢れているティーダ。気を失ったのか、目は閉じられていた。また、カッとなる自分の感情を抑えることが出来なかった。後は夢中で剣を奮った。その後どうやって陣営に戻ったのかは、いまひとつ覚えていなかった。





「……あ、れ?」
「気がついたか」
戻った後すぐにティナに治療をしてもらい、お互いテントの中で休んでいた。隅の方でガンブレードを手入れしながら、ティーダの意識が回復するまで待つ。貫通はしていたものの、元々体力があるお陰なのか、加えてティナのケアルがよく効いたのか、顔色はさほど悪くなかった。ガンブレードを仕舞い、ティーダの傍まで近付く。とろんと眠たそうな顔が、俺の右腕を見つめていた。
「スコール、腕…」
「ティナに治してもらった。だから、大丈夫だ」
「そっか…良かった…」
「良かった?」
ぴく、とまたこめかみが疼く。へらへらと笑っているこいつが、やけに腹立たしい。
「何が良かったんだ?」
声が自然と低く出ていた。しかしティーダはそれに気付かず、続けて答える。
「スコールが、あの時怪我しなくて、良かったなあ、って…」
「ふざけるな!」
ばん、とティーダの真横に手をついて、また感情のままに怒鳴った。今日何度目の怒声だろう。こいつと居ると、調子が狂って仕様がない。イライラする。話しかけられたらかけられた分だけ、共に戦って、あんな馬鹿な真似をされたらされた分だけ。
無性に腹が立って仕様がない。けれども何でこんなに腹立たしいのかもよく解らないから、余計に。
「お前が馬鹿な真似をした所為でお前が傷ついた、あんなことをされなくとも俺は避けれたのに…一般人の癖にあんな馬鹿な真似は俺の目の前で二度とするな!良いな!?」
俺みたいに傭兵としての訓練を受けているなら、多少のダメージは仕様がない。いくらコスモスに召喚された戦士だからといって、コイツが戦いに関して考え方も剣の扱い方が素人なことくらい、俺には一目で解った。それ故に、馬鹿な奴だとおもいきり罵ってやりたかった。どうしてそんな真似が出来るんだ。そんなこと、しなくたって良いのに。一気に捲し立てるように言えば、ティーダは力なく笑っていた。俺は怒っているんだぞ?どうして、こんな時まで笑っていられるんだ。
「なあ、スコール、それってさ」
「…何だ?」
「俺のこと、心配してくれてる…?」
「……………は?」
思わず、間を空けて返事を返せば、またティーダが目を細めて笑った。








ティーダという奴が、俺にはよく解らない。
こいつと俺は、住む世界が違うから。
それでもこの時ティーダがやはりいつものように微笑みながら言った、「スコールもやっぱり俺と同い年なんだな」、と言った言葉の意味が、やけに印象強く残っていた。














スコ+ティダ。同い年ゆえにいろいろなギャップを持っている二人。






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