「甘い」

























ギィン!!と重い音が響きあい、ティーダが俺の刃を正面から受け止める。力は圧倒的に俺の方が上。しかも上から切りかかってきたものを正面から受け止めては、ますます不利になるばかり。それを以前指摘してやったことがあったのでわざと以前と同じような攻撃の流れを組んでやったのに、ティーダは受け止めることに精一杯で俺が言ってやったアドバイスなぞ今は抜けているようだった。ぐ、と力を込めると、ざり、とティーダが一歩後退する。俺は淡々と、至近距離に居るティーダに囁くように言う。
「以前も、教えたはずだ」
「へ?」
「正面から相手の刃を受け止めた場合は、」
ぐい、と。右に力を入れてティーダの剣を弾く。がら空きになった胸元と腹目掛けて、思い切り蹴ってやれば。ごろごろごろ、と派手にティーダの身体が地面を転がった。
剣を振り回し、肩に担ぐと、俺は溜息を一つ。
「横に流せ、とな」
「う、ぐぐぐ…」
起き上がり、悔しそうにこちらを見ているティーダ。今にも吼えそうな勢いでぎりぎりと歯を噛み、こちらを睨んでいる。周りからの拍手が聞こえて、俺は武器を仕舞った。今は、仲間の内で何故か組み手の最中だ。バッツとジタンが派手に拍手をし、俺はそれにくだらない、と思いながらその場から踵を返す。次の対戦はセシルとティナ。剣と魔法相手ではさぞかしやりにくいだろうなと思いながら席へ戻ると、ティーダも小走りに俺の後をついてきて、隣に腰掛けた。
「ちぇー、くそ。またクラウドに負けたっス」
「人がせっかくアドバイスしてやっているのに、全く聞く気がないからな、お前は」
「そ、そんなことないっスよ!ただ、俺には俺のスタイルというものがあって…」
「そうだな。寧ろパワータイプの俺と違ってティーダはスピードを活かしてのスタイルだから、それで良いと思う。ただ、お前の場合は俺やスコール、セシルやウォーリアと違って剣の基礎が全く成っていない。デタラメだらけの捌き方だからこそスピードに頼りがちだ。それで良い場合もある、だが必ずしもそれだけではダメだ」
「うっス…」
しゅん、と項垂れる様が、犬のように思えた。こんな仕草は、かつての俺の親友とよく似ている。犬耳が似合いそうだと思いながら、さすがに言い過ぎたかと少し反省し、ヒヨコのような頭をそっと撫でてやった。
「そういえば、お前は剣はどこで習ったんだ?」
「え?んー、習ったことはないっスね…どっちかっていうと、すぐに実践、って感じだったしなあ…」
なるほどな。どういう経緯でティーダが旅に出たのかは知らないが、いきなりそうせざるを得ない事情というものがあったのだろう。だからこんなにデタラメな剣捌きなのか、と納得した。相手をしていて、少し読み難いところがあるのが、厄介といえば厄介だ。だがそういった戦い方というのは得てして力の配分が偏りがちで、攻めもワンパターンになってしまう。だからこそ、ある程度の基礎は学んだ方が良い。そう思い親切心からのアドバイスだったのが、この子犬にはまだそれが難しいのかもしれない。頭を撫でる手を止めると、今度はティーダが口を開く。
「クラウドは、軍人、だったんだっけか?」
「そうだな、新羅という大きな組織の軍に所属していた」
「ふーん。確かカオス側に居るセフィロスとかいう奴と一緒に働いてたんだろ?」
「いや、実際俺は直属の部下という訳ではない。むしろ奴の直属の部下だったのは…」
そう言いかけて、思い出すのはあの黒髪の男。ティーダと同じ日向の香りがする、人好きな笑顔を浮かべる、藍の瞳。
「クラウド?」
「っ!」
ちょっとの間だったのに、ぼーっとしていたらしい。ティーダに声をかけられたのと同時に突然水飛沫が降って来て、俺は何だと意識を正面の光景に移した。どうやらティナがフラッドの魔法を使ったらしく、その水が飛んできたようだ。服に着いた水分を軽く手で払いながら、ティーダは尚もなあ、と声をかけてくる。
「クラウドの親友ってさ、確かフリオニールに似てるんだろ?」
「ああ、そうだな。ただ、どちらかと言えば…」
「うんうん」
そんなに楽しいものだろうか、ティーダは僅かに目を輝かせながら身を乗り出してきた。その様子がやはり親友の男を彷彿とさせて、俺は微苦笑を浮かべながら、ぺしん、とティーダの顔を左手で覆った。
「お前の方が、似ているかもな」
「え?そうなんスか?」
「ああ、そうやって犬っぽいところなんか、そっくりだ」
「何スかそれ!」
犬といわれたことが不服だったのか、今度は拗ねた顔で怒り始める。喜怒哀楽がはっきりしている奴は判りやすい。あいつもそうだった。まあ俺と会った時は子犬なんていう面影は消えていて、一匹の黒い狼のようだったけれど。
もしも、なんてふと考える。もしもあいつが生きていて、この世界に召喚されたのなら。きっとティーダとも、他のみんなとも、うまくやれたのだろうなと思う。そしてきっと、もっと賑やかになったに違いないし、そうだ、バッツやジタンたちとも馬が合いそうだなと思った。そう考えたら、自然と口元が緩んでいたようだ。ティーダは僅かに目を見開いて、俺の横顔をじっと見ていたらしい、視線が痛いほどに伝わってくる。
「クラウドも、笑うことあるんスね」
「人のことを何だと思ってたんだ?」
「だってほら、考え始めると結構ウダウダしちゃうだろ、クラウドって。普段はどちらかといえば無口無愛想だし、そういうところスコールと似てるよな」
悪気がないだけに、そして的を得た発言だけに少し腹が立ったが、その通りなので反論も出来ず、心なしかむすりとして黙り込む。すると今度は、ティーダがケタケタと笑った。
「クラウドも、そういうところちょっとガキっぽいんだな」
「…うるさい、刻まれたいか?」
「ご、ごめん!嘘!じょーだんっスよ!!」
「ふん」
腕を組み、正面を向き直せば。試合は決着が着いたらしい。寸でのところでセシルが勝ったようだ。さすがに少女とやりあうのは気が引けたのだろうか、根が優しいあいつらしいと思った。次はスコールとオニオン。この二人も剣と魔法だ。ティナよりもすばしっこいからやりにくそうだ。
「そのさ、」
「?」
「クラウドのその親友って奴に、俺も会ってみたかったなあ」
ぼんやりと、呟くようにティーダが言った。いきなり何を言われたのか理解が一瞬遅れて、俺は思わずティーダを凝視した。ティーダは笑いながら、言葉を続ける。
「何かクラウド、そいつのこと語っている時、心なしか嬉しそうだったから。クラウドの無愛想をほぐすなんて、よっぽどの奴なんだろうなあって思うと、余計に会ってみたいなあと思って」
俺、何か変なこと言ったっスか?
と、首を傾げてくるティーダを、思わず抱き締めたい衝動に駆られた。だが皆がいる手前そんなことはできなくて。だから、またぺしん!と左手でティーダの顔を覆った。
「クラウド?」
「…そうだな、」
俺の口元が、また自然と笑みを象る。きっと、あいつも同じことを言うのだろう。逐一言動や行動が被って、俺の心の奥底が揺さぶられる。だが、そこに不思議と悲しみはなかった。
「お前が俺の世界に来ることがあったら、いつか、な」
「それ、約束っスよ!」
手を剥がして、ティーダはやはり人好きな笑みで俺の言葉に応える。わあ、と湧く歓声を聞いて、再度試合の方へ目を向ける。ティーダは一生懸命大声を出して、同い年であるスコールを応援していた。嗚呼、こんな気分、久しぶりかもしれない。アンタとタイプが似ている奴は、男であれ女であれ俺は弱いのだなと思い知る。
この世界にきてから、ずっと戦う理由についてあれこれ考えていたが。答えは、身近なところにあったのかもしれない。












今度こそ、後悔しないように。
俺は俺の力を以って、誰かを守りたい。
例えば、そう。
隣に座る、太陽のような笑顔を持つこの青年を。










クラウド+ティダ。置いていく者行かれる者。






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