「なぁに?」


























次元城には、唯一この世界で空を見ることができる。バッツの説明によると、此処はいろんな空間と空間を繋ぐ場所だからいろんな空間が景色となって見えているだけで、実際は空が見えているわけではないって、以前言っていた。それでも、かりそめの空だとしても、私はきれいだなって、そう思っている。此処には一応、澄んだ自然の空気がするもの。無機質だらけな、そして何が本物かもよく解らないこの世界の中では、私にとっては安らげる場所のひとつでもあった。そんな時だった。子犬のように人懐っこい彼が、私の傍へとやってきたのは。彼は、いつも笑みを浮かべている。私は初めその笑顔を見た時から、傍に居て安心するなあって、思ってた。
「ところで、私に何か用?」
普段はバッツやスコールたちと一緒に居るのを見かけるから、私のところに来るなんて珍しいな、って思った。私は賑やかなのを見るのは好きだけれど、その輪の中に溶け込むのが苦手だったから。すると彼は恥ずかしそうに鼻の先を掻きながら、小声で言葉を紡いだ。
「あの、さ…ティナは、何を貰ったら嬉しいかなーと思って…」
「貰うって、誰から何を…?」
彼の意図がわからなくて、小首を傾げて聞き返す。すると彼は慌てながら更に顔を真っ赤にさせて、身振り手振りで説明をしてくれた。
「や、えっと、例えば!例えばなんだけど、俺がティナのことを好きだったとして、恋人関係だったとするっスよ!?んで、恋人の俺から貰うんだったら、ティナは何を貰ったら喜ぶのかなーって、思って…」
正直なところ、彼の云わんとしているたとえ話の三分の一も、私は理解し難かった。けれどもあまりに一生懸命はなしてくるものだから、無下にはできないなあと思って、私は更に首を傾げる。貰ったら嬉しいもの…それって、何かしら。きっと私の世界の仲間に聞いたら、良い答えが返ってくるのかもしれない(片方は恋人が居るし、もう片方の子は私よりも年下なのに妙に大人のような発言をするから)。でも此処には私ひとりしか居ないから、私が答えない限り、ティーダはずっと困ったままかもしれない。何とか助けになってあげたい、そう思い、私はふと頭の隅にあるものが思いついた。
「お花…」
「花?」
うん、と頷く。手を組みながら、私はティーダを見つめる。
「お花…売っているものでも、自然に咲いているものでもいい、綺麗なお花が、私だったらほしいな…」
「花、かあ…」
それはそれで、未だに困った顔を彼はしている。逆に困らせちゃったかな…そう思い不安になると、ぽん、と彼は大きなてのひらを私の頭に乗せて優しく撫でてくれた。
「確かに、女の子はそういうのあげると喜ぶかもなあ。ありがとな、ティナ」
「ううん、どういたしまして。でも、どうして急に…?」
何となく聞いてみたくて素直に聞いてみると、ティーダはまた困ったような顔をして、でもはにかむように笑ってみせて、みんなには内緒っスけど、とそっと話してくれる。
「俺さ、元居た世界で、好きな子が居るんだ」
「うん」
「それでさ、その子は、ティナみたいにおとなしい子で、でも芯が強くて、真っ直ぐで…自分の持っている使命と運命に、懸命に立ち向かっている子なんだ。一生懸命なんだけど、でもどこか危なっかしくて、だから、つい守ってやりたくなるっていうか、見てられない、っていうか…。まあ、いろいろあって、結局ちゃんと想いは伝えられてないんスけど、でも俺は、その子のことが、好きなんだ」
そう語ってくれる彼の笑顔は、とても煌いていた。すごく眩しくて、私は羨ましい、と思った。彼も、彼に愛されている彼女も。私には、人を好きになることがどういうことか、よく、解らないから。何だか心臓がドクドクいってて、ちょっとうるさいなって思った。ここに居る私が場違いな気がして、気付けば彼から視線を逸らしていた。するとそれに気がついた彼が、大丈夫か、ってそっと私を覗きこんでくる。きれいな、青空色の瞳。
何だか眩しすぎて、私は泣きたくなった。
「人を愛することって、どういうことなのかな?」
そう思ったら、思わず声に出していた。私は、感情が欠けているんだと思う。帝国に操られてたくさんの人の命を奪った私にとって、それが何なのか解らないし知る資格もない、のかもしれない。彼に聞いてすぐに答えが返ってくるとも思えなかった。彼は愛について、そんなつらつらと語るような人じゃないとも思うから。
けれどもティーダは、さっきみたいに顔を真っ赤にして慌てふためくんでもなく、真面目な顔と声で、私の頭をまた優しく撫でてくれた。
「愛って、何だろうな…俺にも、よくわからないっスよ」
でも、と彼は続ける。
「ティナが求めてる答えとはちょっと違うかもしれないっスけど、…ティナはさ、みんなのこと、好きか?」
「え…と、うん、私、人を殺してしまったことがあるのに、この手は血塗られているのに、それでもみんなは…私のこと受け入れてくれているから…きっと、好き、なんだと思うわ…」
「うん、俺も、ティナのことが好きだし、大切だって思うっスよ」
衒うことなく云う彼の笑顔は、やっぱり優しくて。
「それと、一緒じゃねぇかな。俺も仲間のうちの誰かが傷ついてたら助けてやりたいって思うし、ティナが泣いてたら慰めてあげたいって思う。俺のことを受け入れてくれてるみんなのことが好き。仲間、だから。大切な仲間だから、俺はそれに応えたいって思う」
「うん…」
「それってさ、みんなのことが好きだから、そう思うんだと思うっス」
じわ、と胸の奥から広がっていく何か。まだ、はっきりと掴めてはいないけれど、でも、少しだけ。愛が何なのか、ぼんやりと、形が浮かび上がってきた気がする。ティーダの笑顔はやっぱり真っ直ぐで、朗らかだった。撫でてくれる手も、言葉も、ぜんぶが、あったかいなって、そう思った。でもそれに少し泣きそうになって、ティーダの胸元に、そっと埋まる。
「て、ティナ…?」
慌てるティーダが少し可愛らしくて、私はそっと彼に抱きついた。やっぱりあったかいなって、そう思った。戸惑いながらも、ティーダは私を抱き締めてくれる。そのてのひらが頼もしくて、またじわりと涙が浮かんだ。彼の日向のような匂いを感じながら、私はネコのように擦り寄った。
「ティナにも、いつか好きな人ができることを、祈ってるっス」
「うん…ありがとう。あと、さっきの質問の答えなんだけど、」
「?」
彼の胸元から少し離れて見上げると、彼は私の言葉をじっと待っている。また青空色の瞳とかち合った。今度は眩しくなく、それが愛しいって、思った。
「花でも良いけど、でも一番喜ぶのは、ティーダの笑顔、かな」















そう言うと、彼はやはり頬をわずかに赤らめながらも、はにかむように笑った。
彼の笑顔を見て胸の奥がきゅんってなる。
これが、人を好きになるっていうことなのかな。








ティナ+ティダ、ティダは天然さんだと思う。






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