「おーい、大丈夫かー?」


























月の砂漠で見張りをする際に、何となく酒が飲みたくなって、道具屋のモーグリから特別に売ってもらった。この世界に酒があること自体不思議で仕様がなかったが、とりあえずは欲求が満たされて俺の気分は上々だった。そんな時だった。今夜一緒に見張りをしていたティーダが飲みたいとせがんできた。たしかティーダは未成年だったよなあと思いつつも、まあウォルが見てるわけでもなし、特別だぞ、と云って渡すと、ありがとうっス!と満面な笑みが子犬のようで可愛いなあと思った。
一口が、ずいぶん大きな一口だったようだ。慣れない身体にいきなり多量のアルコールを含んだ所為で、1時間としないうちにティーダが酔っ払った。顔を真っ赤にさせて、俺の身体に真横から抱きついては今度は猫のように擦り寄ってくる。
「おーい、ティーダ?」
呼んでみるものの、反応はいまいち薄い。ごろごろと喉を鳴らすような機嫌良い顔で、ティーダは俺の手にしている酒にまた手を伸ばす。さすがに見かねて、これでおしまいだ、と諌めてやると、今度は頬を膨らませて拗ねた顔をつくる。
「もっと飲むっス、よこせよ」
「だめだ。いくら俺でもそれ以上飲ませるわけにはいかない」
大体これ以上飲ませてしまったら確実に明日ティーダは体力が0になるだろう。そんなことをしようものならウォルに叱られるに決まっている。ちぇー、とかケーチ、とか文句をしきりに言うティーダに苦笑しながら、俺はもう一口酒を煽った。
俺の肩に凭れながら、ティーダは軽く腕を伸ばす。
「珍しいっスね」
「ん?」
「バッツが酒飲んでるとこ、初めて見たっス」
「ああ、そうかもな」
普段そんなに、酒を飲みたいとも思わないしなあ、とぼんやり思いながら、それでも何故か今日は飲みたい気分だった。そんな時って、きっと誰でもあることだと思う。異世界。俺が居た世界にも、自分が住んでいる世界とはまた別の世界があって、でも結局は一つの世界で、世界は実はいろんなところにあって、それが繋がっているんだって、初めて知った。でも、それともまた違う世界に、今俺は居る。きっと、恋しいのかな、元の世界が。戦いがもうすぐ終わると思うから、余計に。心なしか、この酒は故郷の酒の味に、少し似ている気がする。モーグリの奴がそんなに気を遣ってくれるような奴には見えないけれども、でももし遣ってくれているんだとしたら、ちょっとだけ感謝した。
「何か、考え事っスか?」
あまり今宵は口が回らないらしくて、いやに静かな俺を怪訝に思ったのか、ティーダが俺の顔を覗きこんでくる。青空色の瞳が綺麗だなと思った。焚き火の火に照らされて、頬が更に赤く染まっている。ぱち、と爆ぜる音。砂漠の夜は冷えるから、ティーダがくっついている左半身がやけに温かい。何となく、そっと髪の毛を撫でてやる。とろんとした瞳が甘さを増して、瞼が閉じられた。
「何か、今になってホームシックになったっぽい」
苦笑しながらぽつりと告げると、ティーダは俺の膝の上に頭をずるずると預ける。おいおい、さすがにそんな趣味俺にはないぞと思いながらも、酒を初めて嗜めたティーダにとっては辛かったのかもしれないと思い直し、とりあえず多少重かったがそのままにしてやる。
「誰にでも、故郷に帰りたいとか、そんな風に思うこと、あるっスよ…」
だって、結局人間っていうのは一人っていう存在で、でも一人で生きていないから、余計に寂しさが募るわけで。
「むしろ、そうならない奴が居るなら聞いてみたいもんっスね…寂しくないってどういう感覚なんだー?って」
「…ティーダって、意外と哲学的なこと言うんだなあ」
「意外とは余計っス」
きぱっと言われ、でも、そうだよなあ、と同意するように頷く。寂しくないって、どういう感覚なんだろうな。それを感じ取れないことの方が、寂しい気がするなあと、俺は思う。
「勢いが一番っスよ。だから、今は寂しいって思ってて良いっスけど、明日になったら、また…元気…に…」
すう、と寝息が聞こえる。ああ、寝ちまった。涎が垂れそうな口元だなあ、と酸素を吸い込むために半開きになった可愛いくちびるをそっとなぞりながら、俺はくすりと微笑む。残り少ない液体を、ぐいっと煽った。自分じゃ自覚なかったけど、俺、少し落ち込んでた、のかな?ティーダに励まされるなんて、よっぽどだったんだな。要するに、ウジウジ考えてないで行動に起こせってことだよな。ティーダらしい慰め方だ。でも、そんな彼の真っ直ぐさが、俺も好きだったりする。明日は、頭痛が残らないように、そっと頭上に手を翳してケアルをかけてやった。回復魔法はそんなに得意ではないけれど、多少は治まるであろうことを祈りながら。
空へ、酒瓶を掲げた。
「故郷に、乾杯。そして、この世界と、仲間達に、…乾杯」













喉を通る最後の一口は、焼けるように熱かった。
炎が揺れる。その暖かさに目を細めながら、近くにあった毛布をティーダへとかけてやると、俺は故郷の歌を、そっと口ずさんだ。







バッツ+ティダ。遥かなる故郷へ。






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