「そんな所に立ってないで、おいでよ」


























「怪我の具合、どうっスか?」
情けないかな、誰かを庇って負傷するなんて、久しぶりのことだった。ティーダとたまたま見回りをしている時に、イミテーションの軍勢に襲われた。といっても3〜4匹(匹とカウントしていいのか些か疑問だが)程度で、経験値をそれなりに積んでる僕らにとってはさして強敵というほどのものでもなかった。ティーダと背中を合わせながら片付けていき、残りの一匹、となったところでティーダの動きがピタリと止まる。相手のイミテーションは今まで見たことのない形と色をしていた。真っ赤な色だった。それでいてとてつもなく大きな剣を肩に担ぎ、口元は襟元に覆われて見えないが、がしりとした体躯に長身、いくら鏡とはいえ雰囲気はただならぬものを放っており、オリジナルが戦闘の玄人なのであろうことはすぐに解った。ティーダは蒼白な顔をして、そのイミテーションを見ていた。どうして、と小さく呟く。ティーダとイミテーションが象っている人物との関係性は解らないが、だがかといって剣を取らない訳にはいかない。構え、ティーダを庇うように前に立つ。イミテーションもまた構える。びりびりと殺気が伝わってきた。これは少しまずい
と思い、ティーダ!と名を強く呼ぶ。
「…あいつ、俺の世界の仲間なんだ…ッ…なんで、こんな所に…」
「ティーダ!今はそんなことより、剣を構えて!」
「う、うっス…!」
剣圧が飛んでくる。マントで防ぎ堪えていると、イミテーションが跳んだ。ガキィン!と重い一撃を何とか受け止めるも、直に感じる殺気と衝撃に腕から全身へ伝っていく。ティーダが横から薙ぐ。だが寸ででかわしたイミテーションはにやりと笑みながらティーダに的をしぼった。また重い一撃。明らかに動揺をあらわにするティーダが、いつもは相手を翻弄するスピードを生かしてのスタイルが全く意味を成していなかった。2対1だというのに分はこちらが悪く左右から掛かってもあの大きな刃に受け止められ、飛ばされる。
その直後、ティーダがもうやめろよ!と叫んだ瞬間。イミテーションはまたティーダに切り掛かる。
「危ない!」
その後、全身を伝う熱と痛みに、僕は気を失った。





「とにかく、無事で良かったよ」
心底ほっとして、僕はティーダに微笑む。テントの中に今は寝ているらしい僕の身体には、真新しい包帯が巻かれていた。他の皆も今は全員が一緒に居るのか、外から微かな声も聞こえてくる。傍に寄ってきたティーダの顔を見れば、なぜか暗く、俯いていた。何故そんな表情なのか理解できなくて、ヒヨコのように跳ねる癖っ毛を撫でようとした刹那。
「…なんで、」
「…?」
「なんで、庇ったりしたんだよっ」
「なんで、って…」
だって、ティーダが傷つくのが嫌だったから、夢中になって庇ったとしか、言いようがない。ジタンも言ってたよね、誰かを助けるのに、理由なんてないって。
ティーダは泣きそうな声と顔で、僕の傷ついた箇所をそっと撫でる。
「俺を庇ってセシルが死んだら、それこそ俺、セシルも俺自身も一生赦せねぇ…ッ!」
嗚呼、と思う。優しいね、ティーダは。でも、僕もそう思うよ。誰かを庇う自己犠牲は、ただのエゴなのかもしれないって。
「ねぇ、ティーダ」
「……」
「大丈夫だよ、僕はそう簡単には死なない。一応これでも、騎士団長やってたんだよ?」
「…それでも、人間だ。いつ死ぬかなんて、わかんねぇだろ!?」
「うん、そうだね。でも、これが僕なりの、力の示し方なんだ。置いて逝こうだなんて思ってないし、そのつもりで庇う訳じゃないんだよ。ただのエゴだって言われればそれまでだけどね、でも僕は僕なりの力でみんなを守りたいんだ。ただ、それだけなんだよ」
「…セシルッ…」
「ティーダは、きっと庇った僕よりも自分自身が赦せないから、怒ってるんだよね?」
「…ッ!」
大きな青空色の瞳が更に大きく見開かれて、今にも雫がぽろりと落ちそうだと思った。綺麗だね。君の心は、こんなにも澄んでいる。だから、僕に対しても怒ってくれてるんだね。
よろよろと重い左手を上げてそっと頭を撫でる。見た目通り柔らかい癖っ毛は、触ればとても心地が良かった。鼻を啜る音に、苦笑。僕自身、きっとこんな風に純粋だったらもっと別の道を歩めたのかもしれないなと、変えようのない過去に少しだけ想いを馳せる。
ごめんな、と繰り返すティーダの頭を、そっと小突けば。目をぱちくりさせながら、ティーダは僕の顔を見つめた。
「そこまでそう言うなら、もっと訓練を積んで、強くなるんだね。それが、一番の近道だよ」
「うっ…ス!」
またじわりと浮かぶ涙が子犬のように可愛らしくて、よしよしと撫でてあげた。そのうち賑やかな話し声が外から聞こえて、おそらくジタンかバッツあたりかなぁと思いながら、相変わらずその髪の毛の心地が良いものだからもう少しこのままを堪能していたいのになぁ、なんて場違いなことを思った。










置いていく立場を解っているからこそ、置いて行かれたくない。母と子のような二人。







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