「理解できないな」



























「?何がっスか?」
「う、ううん!別に!」
つい、口に出して言ってしまったみたいだ。人のことをじろじろ見ていた挙句に声に出してしまうなんて、僕もまだまだだ。クリスタルも無事に集め終わって、今はみんなで休憩中、みたいなものかな。今まではばらばらになって行動していたみんなと改めて顔合わせと自己紹介をして、そして何故か僕はこいつと一緒に居る。話してみて一番最初に思ったことは、正直、こいつは僕の嫌いで苦手なタイプだ。空気読まない奴ってほんとうに居るんだなあって、思わず哀れみをこめた目で見つめてしまった。ちなみに何で一緒に居るのかと言うと、単にリーダーの意向で今まであまり接点がなかった仲間同士集まってコミュニケーションをとってみろというお達しだった。まあリーダーの命令じゃ仕様がないよね。ほんとうはいやだけど。
「そういえば、名前、何て言うんスか?」
唐突に話しかけられた上に正面に回って視線を僕に合わせながら、彼は尋ねてきた。その真っ直ぐな眼差しに思わずどきりとして、一瞬何を聞かれたのか解らなくなってしまう。
「…本名は、秘密だよ」
「えー?でも何かオニオンって呼びにくいんスよねぇ…」
「そんなに必要なものかい?名前なんて、ただの固有名詞じゃないか」
「…ずいぶん割り切った考え方してんだな。今からそんなんじゃ、後で痛い目見るぞ?」
ちょっとだけ眉が吊り上る様子を見て、あ、怒らせた、と思った。でも別に間違ったことは言ってない。僕は名前に関してそう考えているから、別に本名で呼ばれなくたって困らない。
「うーん、オニオンは何かつまらないから…」
しかし、彼は一人で何か考えている。きっとろくなことじゃないんだろうな。
「たまねぎ、ってどうっスか?」
「それって、僕にケンカ売ってる?」
ほら、やっぱり。
「でもオニオンって呼ぶよりは、何か可愛げがあるだろ?」
「僕は自分の名前に可愛げなんて求めてないよ!」
人の名前を何だと思ってるんだよ、全く!
「じゃあ、本名教えろっス」
にこ、とらしかぬ笑みで微笑む彼を見て、僕ははあ、とあからさまな溜息を吐いた。いけないいけない、僕としたことが、彼の挑発に思わず乗ってしまうところだった。騎士は常に冷静であるべし。自身に言いきかせていることなのにそれを忘れてしまうなんて、僕もまだまだだ。
「ところで、たまねぎってさ、」
「…ねえ、君人の話聞いてたかい?」
出たよ、空気を読まないスキル。人の考えていることをぶった切って、彼はいつもの笑顔で僕に話しかけてきた。目線は相変わらず、僕に合わせてくれている。
「俺より全然年下なのに、頭良いよな。勉強、好きなのか?」
「年が下とか上とかは関係ない気が…まあいいや。うん、好きだよ。知識を増やすのは自分にとってもプラスになるし、何より楽しいからね」
「ふーん。そんなだから屁理屈ばっかりこねるんスねえ」
「僕がいつ屁理屈こねたっていうんだよ?」
「言い方が、いちいち癪に障るんスよねえ、なーんかいまいち素直じゃないというか」
「…単純なお馬鹿さんよりはマシだと思うけどね」
「お、言ったっスね?そういうガキには、こうだ!」
むにー、と強く頬を抓られる。痛い痛い!何で僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!?
「いひゃいよ、いいひゃへんひひへっへは!(痛いよ、いい加減にしてってば!)」
「何言ってるか解らないっスよー?」
「~~~~ッ、ひゃいひゃ!(ファイア!)」
「うおっ!?あっちーーーー!!」
少し火を据えてあげた方が良いだろうと思い、火力はちょっと強めにしておいた。火を消そうと駈けずり回る彼の姿を見て、何だかその姿があまりに情けなくて犬っぽくて、くすくす笑ってしまう。ぜえはあと肩で息をしながら戻ってきたティーダを見て、僕はにんまりと笑った。
「お帰り。丁度良い火力だったでしょ?」
「そーっスね、寧ろちょと温いくらいだったっスよ…」
あー、疲れたー、と言いながら今度は僕の隣に腰掛ける。解ってはいるけど、彼はほんとうに落ち着きというものがないし、忙しない。だから犬っぽい、なんて思うのだろうか。
「オニオンはさ、強いよな」
それは、小さな言葉だった。それから、あまり想像できないような真面目な顔で、彼は続けた。
「クラウドから聞いたよ。ティナを守る為に、暗闇の雲に挑みに行ったんだろ?凄いよな、お前。そんなちっちゃな身体でさ、まだ子供なのに、って言い方すること自体失礼なんだろうけどさ、たまねぎのしたことは無謀じゃなくて勇気なんだなって、俺は聞いててそう思ったっスよ」
「…ッ」
まさかそんなこと言われると思ってなくて、思わず言葉に詰まる。だってあれは、無我夢中だった。ティナを守りたくて、怖かったけど、それでも、守りたい気持ちの方が強くて。勝てたのは僕自身の力だけじゃない、きっと多少の運だってあったのかもしれない。それでも僕は僕の勝利にしたくて、情けなくて逃げ出してしまった部分は、人に言っていない。
クラウドがどこまでティーダに話したのかは解らないけれど、きっとクラウドは僕のそういった部分を解っていた上で、ティーダには話してないんだなと思った。だから、余計に、ティーダの言葉に何て反応していいのか、解らなくなる。
「怖いよな、挑む、ってことは」
「え?」
いつも真っ直ぐな戦い方をすると聞いてた彼からは、やはり想像できないような言葉を聞いて、僕は目を丸くさせる。自分自身の手を見つめながら、彼は顔を俯かせて言葉を続けた。
「足が竦んじまうんだよな。ここぞって時にやらなきゃいけないのに、俺しかそれは果たせないのに、でもこの期に及んで逃げたいっていう自分も居て。」
俺はそういう時にいつも迷っちまうから、だからオニオンみたいな強さは持ち合わせてはいないんスよね。「オニオンナイトって、伝説の騎士の称号なんだろ?きっとさ、たまねぎならなれるって、俺は信じてるっスよ」
に、と笑う彼の笑顔は、まるで太陽のように眩しいと思った、そして同時に思う。僕は僕の弱さを認めたくなくて、いつもそこから逃げている。けれどもどうだろう、彼は今他人である僕に自分の弱さをあっけなく露呈してみせた。普通、そう簡単には出来ない。彼のような真似が僕に出来るかといったら、きっと出来ない。現にティナを置いて逃げ出してしまったあの時のことを誰かに話したいだなんて思えない。
空気を読んでいないといわれればそれまで、けれども、彼の犬っぽい所が少しだけ、ほんとうに少しだけ、羨ましいと思った。
「知ってるかい?」
「何をっスか?」
「他人に弱みを見せて、それでも尚自分の弱さを認められる人の方が、よっぽど強いってことさ」
きっと僕には、そこが足りないんだろうな。いくら頭で勝てたって、彼の言うとおり素直な部分がないと、きっと彼には追いつけないだろう。
苦笑を浮かべながら今の言葉を特別に彼にプレゼントしてあげれば、彼はぽかんとした表情で僕を見つめていた。何だよその間抜けな面。もうちょっとしゃんとしてよね。
「特別に、僕の本名、教えてあげるよ」
「え!?」
がばっと顔を起こし、僕を見つめてくる。嗚呼、ほんとうに犬と対面しているみたいだ。お手って言ったらしてくれて、物を放り投げたら向こうまで取りに行ったりするんだろうか。なんて少し意地悪なことを考えながら、彼の耳元にそっと口を近づける。











「僕の本当の名前は…」













頭が良くて心が弱いたまねぎと頭が悪くて心が強いティダ、追いつけ追い越せな二人。






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