「どうした、そんな膨れっ面をして?」























食料を調達すべく、次元城の周りを詮索し終わり、何とか食べれそうな木の実を探し当ててマントを袋代わりにして持って帰れば。一足早くティーダが集合場所に戻っていた。
しかし、何故か不機嫌な顔を露にしている。訊ねても返事はなく、何故そんな顔をしているのか現場に居合わせなかった俺には判る筈もないわけで。とりあえず持って帰ってきた木の実を改めて食べれるものとそうでなさそうなものと選別することにして隣に腰掛け、俺は俺なりの作業をしようと思った矢先のこと。
「フリオニールは、自分の親って、記憶にあるか?」
その質問で、少しピンときた。きっと、ジェクトのことを考えていたんだろう。カオス側にいるジェクトという男は、ティーダの父親なのだという。本人は絶対に認めたがらないが、誰がどう見ても、二人はそっくりな親子だった。容姿は正反対だが、でも中身は、ほんとうに見ていていっそ微笑ましいとすら思う。何故彼がその質問を俺にしてくるのか意図は判りかねたが、けれども軽い調子で、俺は笑みを浮かべる。
「そうだな、俺の世界では小さい頃から戦争が当たり前のようにあったし、正直あまり覚えていないな」
「…そっか」
ごめん、と小さく謝られて、いつもの調子ではない彼の様子に微苦笑を浮かべながらそっと頭を撫でてやった。どうした?と再度声をかければ、ティーダは呻きながら、両膝を抱えて言葉を紡ぐ。
「…父親って、どういうもんなんだろうなって、思って」
そう呟く彼の横顔は、何だか泣きそうに見えた。普段明るい笑顔を絶やさない彼にしては珍しい表情だ。けれども年相応なその態に俺は安堵感のような息を吐くと、一緒に悩む。手先の作業は止めずに、そうだな、と俺も考えてみた。
「必ずしも、これが父親だ、っていう答えはないんじゃないか?」
俺は戦争で実の親と義理の親を亡くした。義理の両親をほんとうの親のようには思っていたが、でも実の親はもう居ないんだ、とどこかで穴が空いていたような感覚で生きてきた。だから、正直父親というのがどんなものか、俺にもよく解らない。
「…俺の親父はさ、俺と母さんのこと置いて、突然姿を消したんだ。10年間、俺や母さんのことほったらかして、全然違う世界に行ってて、…そんで、その先はあんま覚えてないけど、でも、母さんはクソ親父のことばっかり気にしてて、俺のことを、あまり見てくれなかった気がする」
少し、意外だった。父親との間に確執があるであろうことは見て一目で解ったが、母親との間もそこまで良くなかったなんて。せっかく両親の記憶があって、温もりを知りながら育ってきたのに、それはきっと寂しいことなのだろうなと、思わず胸が締め付けられた。
ティーダは抱えた膝の中に顔を埋めて、少し疲れたように項垂れた。
「セシルは、兄ちゃんとのことで何か因縁があって、ジタンもそうだっていうのを少し聞いた。スコールはスコールで、17年間父親が居るってことを知らないで生きてきたって言ってたし…みんなさ、それなりに、苦労してるんスね…」
フリオニールだって、戦争で親を亡くして、なのに俺は、何か一人だけみんなに比べたら気楽な理由で戦っているような気がして。
「何かそしたら、ぐるぐる頭が回ってきて、父親って、一体何なんだろうって…」
「…………」
手を止めてティーダの横顔を再度見遣る。声をかけようとした所で、鳥の鳴き声が聞こえた。数メートル先の木の上に止まる鳥を見て、小腹が微かに鳴る。とりあえずティーダを置いてそっと立ち上がり、気配を消して背負っていた弓を構える。
「フリ…」
「しっ」
背後に居るティーダを制して、矢に弦を引き、木の上に止まっている一羽の鳥に狙いを定めた。束の間の静寂。おもいっきり引っ張り鳥に向かって矢を放つ。
どすっ、という鈍い音と共に、矢は鳥に命中し、落下した。今日の食料として取りに向かい、矢を引き抜いてマントの端で血を拭う。うげ、と顔を顰めたティーダが俺と鳥とを交互に見ていた。
「それ、食うんスか?」
「そうだな、貴重な鶏肉だ」
「そりゃ、そうっスけど…」
俺と違って飢えに苦しんだことがないのだろう、空を飛んでいる鳥を食べるなんていう発想はないのかもしれない。けれども貴重な食料だ。仕留めた以上最後まで責任を全うするのが人間の義務だ。鳥の足を持って、まだ生暖かい身体を逆さまにしながら、俺は先ほどのティーダの言葉を反芻した。
「なあティーダ、」
「…何スか?」
あまり見たくないのだろう、俺から目を逸らすティーダの面倒臭そうな返事を聞きながら、俺は作業を続ける。
「戦う理由に、重いも軽いもないんじゃないか?」ぶちぶちと羽を毟り、できるだけ皮膚を曝していく。ピンク色の肌色が見えてきた所で、短剣で首を切り落とす。当然のことだが血が溢れ、辺りに血臭が漂った。
「誰だって、それなりに理由があって戦っている。中にはクラウドみたいに、それすら解らなくて迷っている人も居るが、その理由にはその人なりの大切なものがあって、その為に皆剣を取って、奮っているんだ」
それをいったら俺だって、世界を野バラで満たしてみたい、なんて。馬鹿げているにも程がある理由だ。女々しい、とあるいは馬鹿にされてもおかしくない。現に、バッツやジタンには意外と乙女チックだな、なんてからかわれたりもした。
血をすべて絞り出して、筋にそって切れ目を入れて。中に詰まっている余分な臓物は取り出して、更に手が赤に塗れていくのを見ながら、俺は更に続ける。
「ティーダの戦う理由だって、ティーダにしか成せないことだからちゃんとそれなりに重みがあって、大事なことなんだと思うぞ」
「………」
「父親はさ、要するに、息子である俺たちが超えるべき壁とか、目標、みたいなものなんじゃないか?」
ジェクトを見て居て、常々思う。以前刃を交えた時だって、ティーダを嫌っていてああいう態度を取っているんじゃない。要するにお互い素直に成れないだけで、だからぶつかり合っているんだ。俺からしたら、羨ましい悩みにも見える。
鶏肉を皆が均等に食べれるくらいに小分けに切っていって(といっても人数が人数だから相当小さくなってしまったが)、常備している薬味を塗し、ファイアであぶり始めた。
「立派なことじゃないか。子が親を超える、寂しいことかもしれないが、でもきっとジェクトはそれを望んでいるように見えるし、その器がティーダにはあると、俺は思うぞ」
「フリオニール…」
泣きそうな声と顔で、ティーダが俺を見た。ちょっとだけ抱き締めてやりたい衝動に駆られたが、生憎手は血塗れでそれを出来そうにない。ごしごしとティーダが手の甲で乱暴に目元を擦る。そして俺の目を真っ直ぐ見て、いつもの調子でにっ、と笑った。
「有難うっス!ちょっと、元気出た」
「ああ、それは良かった」
俺には、実の両親は居ない。義理の親も、戦争で亡くした。けれどもそこにある確かな情とか絆とか、繋がりというのは感じたことがあるし、解っているつもりだ。俺と一緒に育ってきた義兄妹との間にだって、確かな繋がりはあったと記憶している。ティーダとだって、今一緒に過ごしている仲間の皆とだって。そこには確かな絆が、見えなくとも繋がっていると確信している。
赤く染まった手を見て、思う。戦争なんてものは、そもそも馬鹿げているんだ。実の親を殺されたり、あるいは実の親を殺したり。そんな血みどろな世界を知らないなら知らないままの方が、良いに決まっている。けれどもそれを回避したり守ったりする為に、足掻くんだ。ティーダだって、根底ではきっと一緒のはず。
「ティーダは、」
「ん?」
「…ずっと、笑って居てくれ」
「へ?」
「ティーダの笑顔は、皆を元気にさせる力があるんだ。だから、笑っててくれ」
その方が、ティーダらしい。
「…ん」
照れ臭かったのか、僅かに顔を赤らめながら小さく頷く彼を見て俺も微笑むと、向こうからクラウドとセシルが戻ってきた。あちらはあちらで、何やら獲物を見つけたらしい。クラウドの剣には大きな獲物が釣り下がっているのが見えた。今日は随分とご馳走かもしれない。お帰りっス!と大きな声で迎えの言葉を言って手を振っているティーダを見て、俺は最後の一匹を炙る。汚くなった手をマントの端でやはり拭いて、その内このマントも買い換えなければダメだなあと思いながら、改めて戦う理由について考えてみる。








野バラが咲く世界を見たい。それは勿論のことだが、笑顔がたえない世界も見てみたい。
なんてことを口に出したら、またバッツやジタンに笑われそうだから、これは自分だけの秘密にしておこうと思った。できればその隣にティーダが居て笑っていてくれたら、なんて思う自分は、少し馬鹿なのかもしれないな。
















フリオ+ティダ。兄弟のような友人。






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