「うるっせぇなぁ…」


























こちらの世界とやらに喚ばれてからというものの、なーんとなくらしくねぇ毎日を過ごしていやがるとカウントしていたのは何日目で飽きただろう。周りはみんなお堅い連中ばかりで、正直息が詰まりやがる。気分を晴らしに散歩していると、たまたまあちらも散歩中だったガキとばったり遭遇しやがった。
「これはこれはジェクトさんとこのお坊ちゃんじゃないですか。仲間の元から一人離れてどうしたんだ?わざわざ俺様に逢いに来やがったのか?」
いつもの調子でからかってやった。ガキを見るといつもこれだ。ガキの顔がみるみるうちに赤くなる。ほら、叫ぶ寸前だ。解っちゃいるがやめられない。こいつをからかうのは、最早日課みたいなもんだ。
「うるせぇクソ親父!今日こそあんたを叩き切る!!」
「へっ!やってみろよクソガキが!」
お互い武器を構え、腰を低くした。隙を見計らってガキが今か今かと飛び出してくるのを伺っている。俺もまたガキの様子を伺っていた。だがガキの様子がだんだんおかしくなり、あれだけ駄々漏れだった覇気はみるみるうちに萎んでいって。
「あん?どうした?かかってこねぇのか?」
「…別に、冷静んなって考えてみたらあんたと戦う理由も特にないなって、そう思っただけっス」
ちっ、なんでぇ、つまんねぇな。ガキが武器を仕舞うのと同時に俺も仕舞った。あーあ、どうやって憂さ晴らしすっかな。頭をぼりぼりと掻きながら呻いていると、ガキはやはり覇気のない顔で俯かせ、なぁ、と俺に声をかけてきた。
「戦う気がねぇなら、さっさと行けよ。こちらとら暇じゃないんでな」
「…なら何でわざわざ俺達の陣営の近くまで来るんだよ」
「そりゃあお前、アレだ…適当に散歩してたらたまたまってやつだ」
「俺に逢いに来てくれたんじゃ、ないっスね」
「はぁ?何気持ち悪いこと言ってやがるテメェ?そんなに俺様に逢いてぇならお前の方から来りゃあいい話だろうが?」
「…いに、決まってんだろ…」
「あん?」
萎む声に、思わず大きな動作で聞き返す。するとガキは、きっ、と顔を上げて俺をはっきりと睨みつけた。青空色の瞳が潤んでいるのは、きっと気のせいではなくて。
「ああそうだよ、俺はあんたに逢いてぇよ!10年だぞ!?10年もあんたに置いてかれて、やっと追いついたと思ったら、元の世界でもこの世界でもまたあんたは離れてって…いつまで追い掛ければ良いんだよ!!いつになったら、こんな戦いしないで済むようになるんだよっ!!!」
思わず出てきたガキの本音に、俺は思わず目を見開いて固まった。そしてわずかに目を細めて、朧げながらにはっきりと覚えてるカタブツと腹黒い笑みがぴったりな坊さんを思い出して、空を仰いだ。無機質な空は何も映さない。そもそもこの世界に真実なんてものがあるのか。すべてが無機物で彩られたかのような、そんな息苦しさをこの世界に来てからずっと感じていた。そして再びこのガキと交えなきゃいけねぇことも。
運命ってのは皮肉なもんで、自分の意図する所と正反対な所に突き進んで行きやがる。無限の可能性を信じられるトシでもねぇ、今まで生きてきた中でそれなりの経験もしてきた。だからこそそんなもの信じた所で無駄だと思っていた。けれども、ガキの本音を聞いて長い間忘れていた感覚が蘇ってくる。そうだな、10年、か。
「うるっせぇなぁ…」
首をこきりと鳴らしながら、今にも鼻水を垂らしそうなガキに一歩近付き、俺よりも頭一つ分小さなヒヨコのような髪の毛をぽんと撫でてやる。俺よりかは小さいが、こいつはまだでかくなりやがるんだろうなと思うと、自然と胸が熱くなった。見上げてきた青空色は俺と似ていてよどみなくまっすぐで。そういう所を見つける度に、嗚呼、親子なんだなと、らしくなく感じてしまう。
「ぴーぴー泣いてんじゃねぇ。もう17だろ?」
「別に、泣いてなんか…ッ」
嘘つけ、鼻垂れ坊主が。もっと小さい頃はいつまでも泣いてやがった癖によ。ガシガシと乱暴に撫でてやると、抵抗する素振りも見せずガキはされるがままだった。何となく、こんなことは俺の柄じゃねぇけどよ、たまには良いかと、ちょっとだけ思うことにして。
「お互い運命ってやつは、避けられねぇ」
「………」
「けどよ、俺達がこうなっちまったのはそれなりに理由があるんじゃねぇかと思う。例えばよ、置いてっちまった10年の溝を埋めるため、とかな」
「…優しいあんたは、何か気持ち悪い」
「言いやがる!」
むに、と頬をつねってやる。痛いと抗議してくるガキの言葉を無視して、俺はシニカルに笑ってみせた。
「俺はもうこんなトシだ。夢物語を夢見て信じるって柄でもねぇ。けどよ、お前ぇは違う。まだ若いんだ、無限の可能性ってやつに、賭けてみろや」
ぱっと話して飛んできた右ストレートをひらりとかわしながら、俺は踵を返した。
馬鹿野郎!やっぱり二度と来るな!という言葉を背にしながら俺は元来た道を戻る。とりあえずは俺は俺でやるべきことをしなきゃいけねぇ。
そんで全部にカタつけ終わったら、あいつとブリッツでひと試合ってのも悪くねぇかもしれない。






























「俺、あんたの息子で良かったッ…」
全てにカタをつけて、カタブツとブラスカが見守る中、泣き喚くガキが俺に縋るように抱き着いてきた。
「俺も、お前ぇの父親で、良かったよ…」
嗚呼、まったくらしくねぇ。こんなこと言うなんて俺の柄じゃねぇよ。てかカタブツもブラスカも笑ってんじゃねぇよ、いい加減恥ずかしいんだがガキが喚いたまま離れてくれやしねぇ!
いつの間にか重くなったと感じる重さと、温もりと、今までいれなかった10年間。今から取り返すんでも、遅くはねぇよな?
乱暴にまた頭を撫でてやれば、ガキが笑った。パン、と手と手をタッチして歩き出す。
何処に行くかって?
そんなん、俺様が向かう道先が路なんだよ。
こいつと一緒なら、どこへでも行ける気がする。
無限の可能性ってやつに、賭けてみるとするかね。















親子。この二人が好きすぎる。






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