「あ、やべ…」
季節は秋!(と言ってもまだちょっと暑いけど) そしてそろそろ文化祭が近くなってきたそんな季節。 「どうしたんだティーダ?」 「いや、微妙に釘の数足りないかもっス…」 「じゃあ途中まで俺やっとくから、お前技術室に分けてもらいに行ってくれよ」 「解った、悪ぃなヴァン」 「んー、気にすんな」 クラスメートのヴァンにそう云われ、俺はひとまず教室を出て技術室に向かう。 クラスのあちこちで、いよいよ本番前の準備が大掛かりに行われていた。飾り付けがだんだん出来上がっていく中、俺は胸の内では結構ワクワクしていた。 こういうイベント事は結構好きだ。面倒臭いとこもあるけど、何より皆で準備する期間が一番楽しい。その間は部活も休み。けれどもルームメイトであり恋人でもあるスコールは、生徒会の方が結構大変そうだ(昨日も結構遅くに帰ってきたし)。 スキップ混じりに向かう途中、何となくユウナのクラスを覗いてみる。すると女子達が可愛いメイドさんの衣装合わせをしていたみたいで、俺に評価を求めてきた。 「男子としてどう?可愛い??」 「うーん…可愛いんスけど、」 「可愛いけど?」 「丈、もうちょい長い方が好みかも…」 「…ティーダ君って、」 「何スか?」 「意外と古風だね…」 「余計なお世話っス」 だってメイドさんにしちゃあミニすぎんだろ。モロパンじゃないっスか。いや、確かに短い方が浪漫はある。けどミニが当たり前な今の世の中だからこそちょっと長い方が余計にそそられるというか…。俺は何をしてるんだろう、と本来の目的を思い出し踵を返すと買い物から戻ったらしいユウナと遭遇した。 「あれ、来てたんだ」 「うん。可愛いな、メイドさん。ユウナも当日あれ着るのか?」 「うん、そうだよ。私一応客寄せ係だから、多分ずっと校内練り歩くかもしれないから会えないかもだけど…」 「したら探すよ。無理しないで頑張れな」 「ありがとう。ティーダは当日何するの?」 「それは当日のお楽しみ〜」 じゃなー、と挨拶を交わして目的地へレッツゴー。技術室にさっさと寄って、釘持ってって、ヴァンの手伝いしないとな。
* * * *
夕陽が沈み、すっかり夜に変わった頃。準備も着々と進み、衣装担当を担ってくれている女子達から順番に衣装合わせをしてもらい、後は微調整のみとなったところ。 「お前達、居残るのは良いがもうそろそろ下校時刻だ。さっさと寮に戻って夕飯でも食べろ」 見回りをしていたらしいセフィロス先生が俺たちの教室を見るなりそう告げた。皆一斉にへーい、と気だるげに返事を寄越し撤収作業を始める。そういえばこの作業をしてからだいぶ時間が経つが、スコールは生徒会の方につきっきりなのか一度も顔を出さなかった。というより、出せなかった、のかな。昨日も結構疲れた顔をして帰ってきていたので少し心配になり、生徒会室を覗いて行こうかと思っていたら、セフィロス先生とすれ違いにスコールが入ってきた。 「あ、スコール、お疲れっス!」 「ああ、だいぶ準備進んでるようだな」 「皆頑張ってるっスからねー。そっちはどうだ?ちょっと顔色悪いっスね」 「毎年のことだ…どうってことは…」 「っていう風には、見えないけどな〜スコールって甘え下手だよな」 急に、空気を読まずにヴァンが割り込んでくる。でも、俺もそう思う。するとクラスの何人かがクスクスと笑った。スコールは恥ずかしいのか、少し拗ねたような顔をしてふいとそっぽを向く。その反応を見てまた俺もヴァンもつい笑ってしまう。 「…何だ」 「いや、何かそういう所が…やっぱ何でもないっス」 「可愛いよな、スコール」 「……帰る」 「ちょ、スコール!おいヴァン!!」 「だってそうだろ?」 ああもう、俺も空気読めない方だけど類は友を呼ぶというやつだろうか。後のことは皆に押し付けて、俺は申し訳ないながらもスコールの後を追うべくさっさと退散させてもらった。
「スコール、ちょっとコンビニ寄っても良いっスか?」 「ああ」 寮への帰り道、何だか唐突にアイスが食べたくなって帰り道の途中にあるコンビニに入る。いらっしゃいませー、と店員の間延びした声を聞き流しながらアイスコーナーへと一直線。何のアイスを食べようかと考えていると、ふとスコールは何味が好きなのか気になった。 「なあ、スコールって何系のアイスが好きなんだ?」 「何故そんなことを聞く?」 「や、せっかくだし一緒に二人分買おうと思って。それに俺、あんまりスコールの好きなものって知らないしさ」 にか、と笑うと、スコールは一瞬目を見開かせて、淡く微笑んだ。何だその笑顔。可愛いのもあるけどかっこいいな。くそ、不覚にも一瞬ドキっとしてしまった。こういう所が、スコールの男の色気ってやつが出てる時だと俺は思う。 するとスコールがアイスコーナーのドアを開いて、柑橘系のアイスカップを取り出した。 「俺は甘いものは苦手だから、こういうさっぱりしたものの方が良い」 あ、なるほどね。覚えておこう、と思っていると、今度はラクトアイスのバニラ味(しかもサイズ増量の方)を取り出した。 「どうせお前のことだ、こういう方が好きなんだろ?」 よく俺のこと解ってますね、スコールさん。今度はスタスタと会計の方に持ってって、俺はそれを慌てて追いかける。 「ちょちょちょ、ちょい待ち!俺が奢るっスから良いっスよ!!」 「お前に奢られるほど俺は金に困ってない。それに、クラスの為に頑張ってくれてるだろ」 だからその礼だ、と言われてしまうと、ぐうの音も出ず。俺的には生徒会の方を毎日遅くまで頑張ってるスコールにたまにはご褒美というか、そういうのをあげたかったのに、何だかしてやられてしまったような感じがしてちょっと悔しい。 「合わせて189円になります。スプーンはお付けしますか?」 「お願いします」 「かしこまりましたー。それにしても、お前達相変わらずだなー」 ん?と思った。顔を上げて店員の顔をよく見ると、見たことある顔だった奴が店員をしている。茶髪の髪に、何となく呑気そうな声に、ヘーゼルの瞳に…。 「バッツ!?」 「何故、此処に…?」 「よーお前ら久しぶり。相変わらずスコールはムスっとしててティーダは犬みたいだな〜変わってないようで何よりだ」 犬…。まあ、あながち間違ってはいないと思うっスけど、何か他人に言われると悲しい…。 袋に詰めたアイスを受け取って、バッツは今働いてる癖に俺達に更に話しかけてくる。 「ところでお前らさ、この後暇か?俺ももうちょっとで上がるから良かったら飯でも一緒に…」 「動くなッ!!」 突然店内に響く怒声。え?とまた思って入口の方を向けば、そこにはナイフを持ったごつい男が居た。
* * * *
(これって、つまり…) 強盗、ってやつっスかね。 ぼんやりとしながら目の前の光景を見てそう思う。俺達を含む何人かの客は全員頭の後ろに手をやれと命令され、伏せている。隣をちらりと見れば、スコールは何かを伺うように様子を探っていた。 バッツはというと、このコンビニに今唯一居る店員なので、ナイフを突きつけられていた。でも顔は、何かいつもと同じっぽい…大人の余裕ってやつっスかね。 「金を出せ!!」 男はそう言いながらずい、と更にナイフをバッツへと突きつけるが、よく見ると持つ手は震えている。あ、脚も震えている。 「何で?」 バッツは、空気を読まずにあっさりとそんなことを男に返した。 「な、何でって!俺は強盗だぞ!!金が欲しいからに決まってんだろっ!良いからさっさと金寄越せッ!!!」 「だから、何で金が欲しいんだ?ないなら借りれば良いだろ?」 「余計な質問してくるなっ!!良いからさっさと金を…」 「あんたさ、ついてないよな」 「何っ!?」 バッツはナイフなぞものともせずにずい、と一歩前へと出る。そしてちら、と俺達の方を一瞬見た。 「ここの店の店長ってさ、すっげー怖いの。マジ怖いの。怒らすと天地ひっくり返るんじゃないかってくらい。警察もびびっちゃうような、ちょう強面な人なの。俺ここに入ったばっかりなんだよな。だからミスなんかしようもんなら、即クビになっちゃう訳ね。あんたはさ、そうまでして金が欲しい訳?欲しいなら地道に働けば良いじゃん。努力してればいつかは報われるんだし、今ここでこんなバカなことして一生ムショに入るよりさ、世の中よく見てみれば結構良いことあふれてたりするんだぜ?だからさ、とりあえず俺の首の皮を繋げる為にもこんなバカなことやめようぜ?な?」 「ううううるせぇっ!!!お前の事情なんぞ知ったことかっ!!俺は兎に角今金が欲しいんだ!!だから強盗をするんだ!!!」 バッツが一瞬こちらを鋭く睨んだ。それを合図に即座に俺とスコールの身体が動く。俺は腰に抱き着くように後ろから思いっきりタックルをかまし、体勢を崩し男の上半身がカウンターの上へとつく。それをスコールが首を絞めるように上から押さえつけ、ナイフを持っていた右手を拘束する。ナイフがカラン、と床に落ち、それをバッツが拾った。 「あんた本当に運がないやつだよな」 「な、何だとっ!?」 一瞬の出来事をバッツはからかうように、ナイフを弄びながら笑った。そして、切っ先を男の頬にそっと当てる。 「俺ね、実は表じゃこんなことやってるけど、あんたの命奪うくらいどうってことないんだ」 バッツの纏う空気が変わる。目つきが更に鋭くなり、にや、と唇の端だけを釣り上げて嗤う。 「なんだったら今あんたの残りの命奪って、一生金に困らないようにしてやろうか?」 「ひっ――――!!?」 男がバッツの顔を見るなり急に暴れ出すものだから、俺とスコールが身体を離してやると、一目散に逃げて行った。俺もスコールも、他の数人のお客さんも、ぽかーんとしている。 「なーんてな!嘘に決まってるのにな〜」 と、先の空気とは180度違う態度をとって、バッツはやはりあっけらかんと笑った。 「オイオイ今の本気にするなよ。冗談に決まってるだろ?」 二人で固まってると、バッツがそんなことを言ってのける。 「意外と演技派っスね…」 「だろ?俺昔から何でもできるのが特技だからな」 聞いてないことまで教えてくれて、とりあえずこの後飯食いに行こうぜー、とやはりバッツは呑気にそんなことを言った。
本当にあの後飯食いに行って、適当に時間も過ぎた所で解散した。部屋に着くなり、スコールはネクタイを解くとすぐさまベッドにダイブした。よっぽど疲れたのだろうか、俯せられた背中からは何となく話しかけるないうオーラが出ている気がする。 俺は寝間着用のジャージにさっさと着替えて、寝ているスコールのベッドの縁に腰掛ける。二人分の重みで、ぎし、と音が鳴った。静かな部屋だから、何となくやらしい気がするのは気のせいだろうか。 「スコール?風呂は?」 そう訊けば、ふるふる、とスコールが微かに首を横に振った。溜息を吐いて、とりあえず俺だけはシャワーだけでも浴びようと立とうとすると、ぐいと手を引っ張られた。 「どわっ!?」 すると寝ているスコールに抱きとめられ、一緒のベッドに横になる羽目になる。 「スコール?」 「いいから、ここに…いろ…」 もうだいぶ眠いのか、たどたどしくそんなことを言っちゃう恋人が可愛いと思う、マジで。また胸の奥にキュン、ときて、条件反射というか、スコールの背中にそっと腕を回す。やっぱり、スコールの体温はちょっとひんやりしてて気持ちいい。胸元に顔を埋めると、スコールの匂いがふわりと香る。 今日は何だか怒涛だったな、と思い返す。まさか強盗の場面に出くわすなんて思わなかった。しかもあのバッツがあっさり強盗を追い返すとも思わなかった。 でもあの強盗手足震えてたもんな。多分怖いけど意地でやってたような感じだったな。 文化祭まで、あともうちょっと。今年は何だか、昨年以上に楽しくなりそうだ。なんて、俺も意識が薄れていく中、そう思った。
(久しぶり、と再会した途端)
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