※一般兵時代


「ん」
「ん?」
俺もザックスも今日は休暇で、特に何処に行くんでもなくマイペースにくつろいでいる時だった。リビングで紅茶を飲みながら俺は雑誌を読んでいた。しかし突然ザックスが俺の横に立ち、手を差し出してきた。剣を握る無骨な、大きなてのひら。しかし差し出されてもザックスの意図が解らず、とりあえず俺の手をザックスの上に乗せた。
「ザックぅわっ!?」
ザックスが俺と目線を合わせ座ると、差し出した途端にぎゅう、と抱き着かれた。心なしか、ザックスの雰囲気は少し重い。今日の夜遅くに任務から帰ってきて、今起きた所為だろうか。無言で大きな身体を擦り寄せてくるザックスはさながら犬のようで、トレードマークである髪は今は寝起きの所為か逆立ってはいない。その髪の毛が顔やら首やらに当たって、ちょっとくすぐったかった。
「ザックス?」
「………」
名前を呼んでも反応はない。けれどももぞもぞと微妙に体勢を変えながら俺に正面から抱き着き直した。たまに、ザックスの様子が普段とは掛け離れて大人しい時がある。基本的には仕事のことなんだとは思う。俺は一般兵、彼はソルジャークラス1stだ。身分の違いは正に天と地。だから俺は彼がどんな任務をこなしているのか全く知らないし、聞く気もない。仕事は仕事、いくら恋人という甘い関係でも、そこは割り切らないといけない。
正直、ザックスがこんな風に甘えてくる時はどうしたら良いのか解らないのがほとんどだ。でも、たまに見せてくれるザックスの弱い姿が、俺は愛しいって思う。またぎゅ、と抱きしめる力をこめてきた。そして、未だに繋がれた俺の右手とザックスの左手。
ザックスの肩に頭を預けながら、俺はふっと笑う。
「ザックス、」
「………」
「つながる、きもち」
「………」
ザックスが、わずかに顔を上げて俺の顔を見る。俺はザックスの顔を見つめながら繋がる手に力を込める。すると、泣きそうな顔で、ザックスがふわりと笑った。
そのまま頬にキスが落ちてきて、またザックスは俺の首に顔を埋める。匂いを吸い込むように、大きく深呼吸を一度して。
「うん」
やっと、声を出して、
「つながるきもち、な」
その声を聞いて、俺も何だか。
泣きそうに、なった。




つながるきもち



2010/12/21


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