フタリボシ
ここまでくることが、彼と彼女の夢だった。
「かみさま、こんにちは」
約束を、果たしに来たよ。
星の仔の言葉が、風の凪いだ空間に響き渡る。決して大きくはない声量だが、それはしっかりと創世神の耳に届いていた。
朽ちた神殿の柱は傅(かしず)くように折れ、静かに来訪者を迎え入れている。
「あなたに会うまで、色んなことがあった。数え切れない出会いがあった」
懐から取り出したのは、過ぎ去りし思い出、その全てを見てきた若葉色。自分の体温でほんのり温まったそれを見ると、反射した自分の顔に見返される。その表情の中に、一瞬だけ、雪と泥にまみれたあどけない過去の自分が映った気がして、雛の口元がわずかにほころんだ。傷ひとつない身体に、汚れのない衣服。石を持たない側のほんのり冷たい指先は、自分よりもはるかに小さくなってしまった手のひらをそっと探し当て、包み込んだ。
小さな手の持ち主が抱く緊張が伝わってきて、雛は小刻みな震えをおさえこむように軽く力をこめるてやる。すると、冷たさで感覚の鈍った手のひらに、握り返されるような感触がした。
こればかりは、ふたりで言わなければ、言いたい、と雛は思った。ひとりぼっちで、愛する人を救うために、ここまでやって来たちっぽけな自分のために。今の自分は、願いの叶った自分だと、過去に笑いかけるために。
「ぼくたちの思い出をこめて、今、お返しします」
ぎゅっと想いが凝縮された宝玉を見て、琥珀色の瞳が細められた。
そう、琥珀はすべてを知っている。
モドル