闇に溺れる
「…っ冥斗、」
「なんだ」
いい加減この状況をどうにかしてほしい。
そうでなければ、自分がどうにかなってしまいそうだ。
この状況、とは擬人化してソファに座っているわたしのパートナー、冥斗の膝に……その、む、向かい合わせで座らされていること、であって。
誰か助けて下さい。
元凶はクツクツと喉の奥で笑いながら、わたしの腰にまわしている腕に、さらに力をこめた。
距離が、縮まる。
もともと男性に…それも冥斗みたいなカッコいい人に対する免疫なんて生憎わたしは持ち合わせていない。
顔を上げることもままならず、(だって直視なんか出来ない!)わたしは打開策を練りながらずっとうつむいていた。
抵抗しようにも、両手を纏めて握られて(というか拘束されていて)、おまけにもう片方の手は先ほどから腰にまわされていて動けない。
「…ユウ」
唐突に低く、掠れた声で名前を呼ばれた。
手をグッと引かれ、冥斗にもたれかかるというなんとも恥ずかしい体勢になってしまった。
トクン、トクン、と穏やかな彼の鼓動が聴こえてきて、不覚にもこんな状況なのに落ち着いてしまう自分がいた。
両手が解放されたかと思えば、つっ…とわたしの顎のラインを綺麗な長い指がなぞった。
「ひゃぁ!?」
くすぐったくて思わず変な声が出てしまった。
…恥ずかしすぎる。顔から火が出そうだ。
身体の温度と鼓動が一気に上昇して、頭の中が真っ白になった。
ぎゅっと彼の服を掴み、変な声が出ないように堪えていると、また上からクツクツ、と今度は頭を撫でるというオプション付きで冥斗の声が降ってきた。
「…そそるな」
とてつもなく危なげな言葉が聞こえた気がして、赤い顔もそのままに、視線を上げた。
「堕ちてしまえ」
彼の瞳の闇に、吸い込まれた。
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