▼潮騒の音(時雨)

潮風できしむ、長い髪。泳ぐのは嫌いではなかったが、今は眺めていたい気分だった。細かい砂に沈み込んだ素足が、固いものに当たる。それは、小さな巻貝だった。そっと耳に宛てがい、目を閉じてみる。何の響きも拾わない耳ではあるけれど、この瞬間だけは、海のさざめきが聴こえたような気がした。



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