珍しく不機嫌な彼女を見て思わず笑みが零れた。そう、ことの発端は俺の映画出演。もちろんだいぶ前から決まっていたものの発表はごく最近で。その内容はそう、漫画が原作ってだけに安定のラブストーリー。彼女持ちの俺としてはそこはもう全部割り切ってやってる。ただそれだけ。でもそれが一般人の彼女には受け入れがたいものなんだって、少しは分かってるつもり。まぁ、ほんの少しだけど。
ね、機嫌直してこっち向いて?
ベッドの中、俺に背を向けて寝たフリしているなまえをシャワー出の俺は服も着ずに後ろからふわりと抱きしめた。
「ん、剛典、なに…。」
「どうしたの?頬っぺた飴でも入ってんの?」
「…え、」
振り返ったなまえの顔を覗き込んでその唇に小さく自分のを重ねた。一瞬驚いたものの、そのまますぐに俺のキスを受け入れるなまえを片手で強く抱き寄せる。しばらくそれを繰り返してから、名残惜しく唇を離した。困ったように俺を見つめるなまえの頬をムニュっと抓る。
「…あの剛典…。」
「うん?」
「なんで裸?」
「え、そこ?突っ込みどころ。違うよね?」
「うん。」
分かり切ったようななまえの表情に俺も微笑む。ギュっと俺の裸体に顔を埋めるなまえのサラサラの髪を撫でると「好きだよ、剛典…。」小さく呟いた。きっと物凄い不安なんだって思う。俺は全く知らなかったけど、ゆきみちゃんと直人さんも一度のキスシーンで危機があったって後から聞いたし。そーいうの俺は面倒だなって思うと思っていたのに、いざなまえがむくれたらどうだろうか、すげぇ可愛くて仕方がない。
「俺のが好きだって。ね、もっとチューしてよ。」
鎖骨に顔を擦りつけられてくすぐったいっていうか…じれったいっていうか。なまえの顔を両手で包んでこっちを向かせると、恥ずかしそうに微笑んで顔を寄せた。ちょっと熱めの下唇が赤みを帯びていて色っぽい。そこを舌で舐めるとなまえの肩がピクリと動いた。
「可愛い。」
小さく呟いて唇をくっつけるとチュっと鳴り響くリップ音。もう一度軽くチュって小さなリップ音。もう一度、もう一度…――――「ちゃんと…。」ふは、オネダリきた。可愛い奴。なまえから求めて欲しくてついそんな小鳥キスを繰り返していたんだよね、俺。だって俺の腕掴んでぎゅうぎゅう抱きついてきて、限界って感じで求められるなんてたまんないじゃん。そりゃもう、いっぱいいっぱいリップ塗りたくるぐらいキスをしてあげた―――。
「ごめんね。拗ねて。剛典分かってたよね?」
「まぁ半分ぐらい。」
全裸の営みを終えてまったりモード。腕枕の指先で髪を撫でるとなまえが申し訳なさそうな顔で俺を見た。その顔も十分可愛いんだけど。
「仕事だって分かってるし、私が凹んだところで何も変わらないのも分かってる。剛典の仕事に口出す気もないし、慰めて貰う優しさも求めてない。ただちょっと悔しくて。やっぱり剛典に触れられるの…ほんとはすごく嫌。馬鹿みたいに、嫌。」
泣きそうな顔でそんなこと言うからなまえの肩を抱き寄せた。
「いいよ、もっと言って。嫌な気持ちぜーんぶ言っていいよ。」
「え?」
「それぐらいは余裕で受け止める。」
俺がこうして頑張れるのは、なまえが傍にいてくれるからだって俺が分かってる。そーいうの普段は照れくさくてあんま言わないけど、なまえが苦しい時にはここぞとばかりに言ってやりたい。
「剛典、ずるい、かっこいい。」
「…眞木さんより?」
「え!!」
ギョッとした顔でなまえが俺から目を逸らした。マズイって顔で。むしろなんで?って顔で。
「聞いたんだよ、ゆきみちゃんに。憧れてるって?眞木さんに。俺、サイン貰ってきてやろうか?」
「えっ!?欲しい…。」
「むう、絶対ぇやんない!」
「え、なんで?いいじゃんサイン…。」
「こらこらお前、誰の彼女だよ?」
「剛典。」
「じゃあ必要ないっしょ?」
「…ん。」
仕方ないって感じに口を閉じるなまえ。おい、おい、おい!また違う意味で機嫌悪いじゃん!妬いてんのこっちだからね?
「ちょっと、たーくんの機嫌直してよ。」
「…なんで私が?」
「は、なんで怒ってんの?」
「…ふふ、冗談。ありがとう。剛典…。安心して、剛典が一番好きだから。」
ギュってなまえの温もりに包まれる。すーって腕が下に伸びて、まだしな垂れてる俺自身をそっと掴んだ。
「アッ…。」
思わず漏れた声になまえがニヤリと微笑んだ。そのまま俺の上に跨って立場逆転。
「機嫌直して、たーくん。」
ふわりと笑ってなまえとの甘い時間が戻ってきた。はぁ、やっぱ俺、こいつに勝てないわ。
Thanks LOVE emi★
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