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「ね、ゆき乃。ちょっとちょっと!」
目的地に着くなり朝海が私を呼び寄せた。ウェアも何も持っていないからレンタルしようってなって、スキー場に隣接されているショップの中でウェアを選んでいた。
「へ?なに?」
「…ゆき乃ってさ、まこっちゃんと勇征くん、どっちを選ぶの?」
突然そんな突拍子のない事を言われて顔を歪めた。だってなんていうか、二人の間で揺れてる人、みたいじゃん!
「どっちって、え?てかその質問、さっきなっちゃんにも聞かれたんだけど。」
「夏喜も心配してるもん。ゆき乃がそのピアスか、その香水かどっちを選ぶのか。」
…キョトンと朝海を見つめる。なんで香水が勇征ちゃんのだって分かったの?
「いや、2人同じ匂いだから分かるからそれぐらい。さすがにまこっちゃんも気づいてると思うよ。」
「え、朝海?」
「さっきのナンパ、勇征くん目当てだったって、カミケンが言ってた。勇征くん元の顔が綺麗だからモテると思うの。まこっちゃんだってゲレンデに絶対映える顔してるし。」
私は朝海が何を言いたいのかが分からなくて。そんな私の気持ちを読み取ったのか、朝海はちょっとだけ私から離れると小さく息を吐き出した。
「後から後悔しても遅いんだよ、人って。最初にちゃんと選ばなきゃ後から後悔してもどうしようもなくって、だからゆき乃にはちゃんと選んでもらいたい…だけなの。」
真剣な顔でそう言う朝海が何を想って言ったのか、どんな不安を抱えていたのか、この時の私には何一つ分かってあげられなかったんだ。
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