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わたしが本命を作らないのには、なにか理由があるんじゃないかって。過去の恋愛のトラウマが、そこにはあるんじゃないか?って、影で噂になっているのは知っていた。
ただ、残念ながらそんな過去の恋愛のトラウマなんてもんはなくて、単純にそこまで好きだと思える人に出逢えてないからだって、自分では思っている。
急に健太1人に絞った朝海を不思議に思っていたその日、全寮制内にある大風呂で時間ギリギリに入ったわたしは、そこで有り得ない光景を目にしたんだ。
女湯の暖簾を潜ったはずだったんだけど、そこにいるのは紛れもなく男、で。
濡れた髪をかきあげたそれは、真っ直ぐに全裸のわたしを見ている。勿論ながらそっちも全裸だけれど。
「え、え、え、え!!!!」
途端に真っ赤になってそこを手で隠すそいつ。
「あれ?ここ男湯?」
「は、はいっ!」
「ごめん、間違えたのかも。」
ニッコリ微笑んだけど、脳裏に焼き付いたその完璧な身体は全く離れなくて。
「お、お先ですっ!」
訳の分からない言葉を発して逃げるように立ち去るそいつの後ろ姿もちゃっかり見たわたしは、初めて心臓がドクンっと脈打った気がしたんだ。
それが八木勇征とわたしの出逢い、だった。
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