届かない苦しみ

【said マイコ】

なにが、おこった？目の前で泣き崩れる朝海を抱きしめる壱馬がどんどん離れていく。気づくと私の肩に樹の腕が回っていて、無理やり歩かされている。


「壱馬、何気に動揺してたのかもな。お前と慎のこと…。」


樹の意地悪な声が耳元で聞こえた。北ちゃんはなんとも言えない顔をしていて、ケンタはコテージからそっと目を逸らした。


「マイコ…。」


キュっと私の手を握るまこっちゃんに小さく笑うと「そんな顔しなくていい。」そう言うんだ。でも私は自分がどんな顔をしているのかなんて分からなくて。首を傾げると樹から剥がすようにまこっちゃんの温もりに包まれた。


「そんな泣きそうな顔、しないで…。」


まこっちゃんのが泣いちゃいそうな声だよ。被っていたキャップを私の頭に被せると、私を隠すようにもう一度まこっちゃんが抱きしめる。視界が暗くなって浮かぶ壱馬と朝海の姿。やだ私、朝海相手に嫉妬なんてしたくないのに、あの残像が頭から離れない。

こうやって朝海はいつもゆきみを想う陸を見ていたのかな。こんな苦しい気持ちで朝海、それでもいつも笑っていたのかな…。私は何も分かってあげられてなかったんじゃないだろうか。


「…まこっちゃん…。」


漏れる声に、まこっちゃんの腕が強く私を抱きしめる。楽しいはずのキャンプがこんなにも苦しいなんて。

壱馬は、朝海が好きなの？本当の本当は壱馬、朝海を好きなのかな？もう、分かんないや。


「…俺、ゆきみが心配だから見てくる。」


ボソっと北ちゃんがそう言って一人コテージの中に入って行った。

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