学校の下校時刻も過ぎもう暗いのに、山に登りに行くと言っていた真波についていくことにした。
山登りと言っても、険しい道を足で歩くのではなく、舗装された坂道を自転車で駆け上がるというものだ。自転車競技部として、そうじゃなくてもほぼ毎日山に登っている真波と比べたら、進む速度はすごく遅くって、最後には疲れて自転車を押していたわたしなのに、真波は嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。
本当は頂上まで登ってみたかったけれど、時間とわたしの体力の都合で、途中の休憩所までにしようということになった。正直言ってちょっと悔しかったし、真波には申し訳ないと思った。
今、わたしたちはふたりで並んでベンチに座っている。此処から見える夜空には、周りに発光物が少ないおかげなのか普段よりくっきりと星たちが浮かんでいた。真っ黒なのに澄んでいて奥行きがあるそこに散りばめられた幾個ものスパンコールの群れが、カシオペヤ座とか、おうし座とか、地学の時間に習った記憶のある様々なギリシャ神話を語っているんだろう。
これがわたしひとりならばその美しさに浸るのも良かったけれど、真波が隣にいるとなると話は別。真波はわたしにとっての太陽みたいなものだから、昼間、日光降り注ぐその明るさの中では星が見えないように、真波の前では星なんて霞んでしまう。
でも、その真波はというと、わたしとは対照的に、星空に夢中なようでわたしには構ってくれない。
何か、もっと会話とかあってもいいんじゃない?なんて思うのはわたしだけなのかな。

「真波、わたしの相手もしてよ。星とか、山登ったらいつでも見られるじゃん。わたしはいつでも真波といっしょに山登れるわけじゃないんだけど」

何処かで鳴く虫の声しか聞こえなかった空間にわたしの声が響き渡る。

「えー、オレ普段1人で登った時は、こんなに真剣に星なんて見ないよ?」

真波がきょとんとした顔でわたしの方を向いた。

「なにそれは。真波はわたしとお話したくないの?」
「そうじゃなくって、折角好きな子と2人でいるってシチュエーションなんだから、何時もとは違って星でも見た方がいいのかと思って。ほら、ドラマとかでよくそういうシーンあるじゃん」

悪びれる様子もなく、さもそれが自然なことかのように答える真波に、わたしはキュンときてしまった。
そんなこと言われたら、何も文句言えないよ……!

「真波、単純だね。ちょうかわいい」
「それ、褒めてるの?」
「めちゃくちゃ褒めてるよ!」

真波は納得がいっていないらしい。不満気な表情を浮かべる真波の膨らんだ頬を、わたしは指でつついてみた。

「名前ちゃんはオレのこと子供扱いしすぎだよ」

真波が不服そうな声をあげた。

「してないよ。わたしにとって真波は、子供じゃなくて太陽だし!」
「何それ」
「あのね、生き物は太陽がないと生きてゆけないんだよ。だから、わたしにとって真波は不可欠な存在ってことです!」

わたしの言葉に、真波はその大きな瞳をパチリと1度瞬いた後、本当に可笑しそうに笑った。

「なんか、大げさだね名前ちゃんて」
「大げさなんかじゃないよ。真波といっしょにいるとすごく、生きてるって感じるの。真波にとっての坂が、わたしにとっての真波!」
「簡単にそんなこと言っちゃえるのすごいよ」

真波の方こそわたしを子供扱いしているのではないかと思った。何だか、軽くあしらわれているような気分になる。ていうか、絶対そうに違いない。
それでも、気付けば真波は星空ではなくわたしに意識を向けていて、その事実がただ嬉しい。ざまあみろお星さま!なんて、わたしは心の中で舌を出してやった。空が恨めしそうにこちらを見つめているような気がした。


夜空が私を憎むので





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