「…え?」

ザワザワと騒がしい教室とは打って変わって階段の踊場は静かだった。その静けさのせいで、私の耳には聞きたくなかった言葉がスッと入ってくる。


「だから、告ったらOK貰えたんだって言ったんだよ」


真っ直ぐに私の目を見ながら再度、言い放ったブン太の表情は喜びに満ちている。ブン太をそんな表情に出来る相手は世界中でたった1人でその子は私の友人だ。

地面がぐらぐらと揺れていくような錯覚が私を襲う。揺れているのは、私の感情なのに……それも…嫉妬という綺麗とは言えるはずもない感情で、だ。


「…そっか」


おめでとう。と付け足せばブン太はまた嬉しそうに笑った。

分かっていたこと。ブン太とあの子は両思いだなんてどんなに鈍感な人でも分かってしまう位にお似合いなんだから。

そして、私のこの気持ちは誰にも気付かれないまま散ってしまうなんてことも始めから分かってた

だから、当たり前にくる未来がついにやってきたということだけなんだ

そう、それだけのこと。


「ほんと両思いだったなんて初めから分かってたら、もっと早くに告ってたかもしんねえな」


相変わらず喜びを隠そうともせず、表情は緩みっぱなしで。口から溢れ出す言葉にも幸せが詰まっている。

好きな人の幸せは自分の幸せ

なんて、いう考えは生憎まだまだ子供である私には理解出来そうになくて、どんどん胸の痛みが身体中を蝕んでいく


「名前にも早く春が来るといいな!」


ブン太の笑顔は何よりも私を笑顔にしてくれるはずなのに、もう私の心は限界だ


「…ごめん…!私次の授業の準備なにもしてなかった」
「は?移動教室じゃねえだろい?まだよくね?」
「ほんっと、ごめん…!」


苦しい会話の遮り方だなんてことは百も承知だ。でも、これ以上ここはいれなくて………。


「…おい!」


階段を駆け上がり騒がしい教室の中へと私は身を隠す。机に顔を付けて全ての世界を遮断した。

ぐるぐると回る感情は相変わらず汚いったらありゃしないのに、私の頭からはブン太の表情が離れそうにない。

………なんで…


「あんなに…柔らかく笑ってんの」


初めて見たブン太の表情が頭にこびりついて離れない。お願いだから、離れてよ。


これ以上、私の胸を蝕んでいかないで。



柔らかに息絶えた感情を呼べ




教室にブン太が戻ってくる。その足取りは、スキップする子供のように軽く優しさに満ちていた





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