恋の鎮痛薬




「う〜…」

最初はただ、朝が弱いのかと思っていたのだけれど。
どうやらそうではなさそうだと最近気がついた。

「切原クン、体調悪いん?」
「へ?あー、いや、なんか目の奥が痛いっつーか頭の奥が痛いっつーか」
「お前の頭は痛いんじゃなくて悪いんだろぃ」
「あー!ひっでー丸井先輩!っ、いってー…」
「んー、切原クン、多分ゲームのやりすぎやで」
「へ?ゲームしてっと頭痛くなるんすか?」
「目が疲れるからなぁ、眼精疲労からくる頭痛とちゃう?せやから目の奥が痛いって感じがすんねやろ」
「へぇ〜」
「あんま関心したもんやないで、ほどほどにせな」
「こいつにゲームすんなって言っても駄目だぜ白石」
「丸井先輩さっきからうるさいっスよ」
「なんだよ、白石が無駄な気を遣わないように忠告してやってんだろぃ?」
「なんすか無駄な気って」
「馬鹿は心配しても治んねーってさ」
「まぁまぁ丸井クン」
「あーもー頭いてーから丸井先輩にいちいち怒ってらんねーっす」
「まぁいいけどよ、んじゃまぁ白石、赤也のことシクヨローお大事にー」

なんだかんだ言って自分も心配しとるやん、とは声に出さないでおく。
まったくこの子は大事にされていると思う。本人に自覚はないのだろうけれど。

「せや、バファリンやったらあんで?頭痛は放っとくのがいっちゃんあかんからな」
「え、くれるんすか?」
「おん、あんま効き目ないかもやけど一応飲んどき」
「あ、ありがとうございます」
「気ぃつけや」

きっと彼のことだから忠告したところでやめはしないだろう、俺は別に頭痛持ちなわけでもないから手持ちの1シート渡しておいた。
本当に何の気なしに、頭痛を放置してはよくないと薬をあげただけだった。この時は。


















「おや、切原くんは頭痛薬をお持ちなのですか、偏頭痛でも?」
「へ?あぁこれっすか、もらったんですよ!」
「一回分しか減って居ないようですが」
「んーなんか勿体なくて使ってないんで」
「勿体ない?薬なのですから、痛みがあるときに使うものでしょう」
「この前柳先輩が言ってたんすけど、バファリンは優しさでできてるからあんまり頭痛に効かないらしいんですよ」
「…はぁ」
「だから持っとく方がいいらしいっスよ、お守りとして!あ、これは仁王先輩に言われたんすけどね」
「お守り、ですか……」
「お守りっス!俺のバファリンは白石さんの優しさでできてるんで!」
「おや、白石くんからいただいたものなのですか、彼は他校生だというのに…今度何かお礼をしなければいけませんね」
















ふと、聞こえた会話に、心臓が止まってしまいそうだった。

「いやいや…お守り、て」

柳クンと仁王クンは切原クンで遊びすぎやろ、とか。
そのバファリン俺が作ったわけとちゃうで、とか。
柳生クンそこはしっかり突っ込まなあかんで、とか。

「結局頭痛放置してもうてるんちゃうんあの子は…」

とか。
ツッコミどころがありすぎるわ、なんて思考でかき消すことができない。
なんて可愛いことを言ってくれるのか、と。

どうか、してる。

「あ〜…あかんわ」

ドクドクとうるさすぎる心臓の音。
血液の流れが異常に早くなっているような感覚。



「どうしたんだ白石、具合でも悪いのか?」
「っ…柳クン、」
「?」
「あんま切原クンに変な事吹き込まんとってぇな」
「…あぁ、バファリンのことか」
「それになんやねんお守りって、仁王クンも君の差し金やろ?」
「その方が赤也には効き目があるだろう?それに、お前にも」
「どういう、」
「そういうことだ」
「……はぁ、敵わんなぁ」

まったく、この参謀には自覚する前から気持ちを見抜かれていたのだろう。

「お前も存外鈍感なのだな」
「かもしれへんわ」
「まぁ、赤也はその倍くらい鈍いからな、苦労する確率は100%と言っていいだろう」
「なんや、楽しそうやんか」
「さて、これからどうなるか楽しみにしているぞ」
「人の恋愛で遊ぶなんて悪趣味やで?」
「手助けしてやったのだからこれくらい良いだろう?」
「はぁ〜…」

なんて厄介な恋のキューピッドだ。
しかしながら、他でもない彼のお陰でこの気持ちに気付いたのだから反論の余地がない。
いや、反論などしたところで勝てはしないだろう。



「あれ?白石さん何やってるんすか?」
「ぇ、あぁ、なんでもないで」
「ふーん」
「せや、切原クン最近具合どんな?」
「あー頭痛っスか?白石さんのお陰でいい感じっスよ」
「そか、ならえぇわ」

この笑顔に、こんなにも胸が高鳴っていただろうか。
俺は今、普段通りの態度で接することができているだろうか。
頭の中でそんなことばかりぐるぐると廻っている。

走り去る背中を見つめて、少し寂しいような気持ちになる。
声をかけて引き止める理由も見つからない。



恋って、自覚した途端にこんなにも胸が詰まるものなのか。

「意外と、せっかちなんかもなぁ俺」

所謂恋の駆け引きなんて煩わしい。今すぐ伝えてしまえれば。
答えなんてどうでもいいから、キミが好きだと吐き出してしまいたい。

俺は恋愛に関してとんでもなくカッコ悪い男に違いない。
駆け引きもできない、ムードを作るのも邪魔くさい。
何から手を付けていけばいいのだろう。
どうやって君に、近づいていけばいいのだろう。
どこまで行けば、君に触れられるのだろう。
今、俺は君の近くに居るのだろうか。
思えば思うほどわからなくて、胸が痛い。

「…バファリンで、治らへんかいな」




この胸の痛みを和らげるための鎮痛薬はきっとキミ。



+++*

でも次第に麻痺しちゃって痛み止めも効かない好きが痛くて白石が爆発すると思う。
白石結構鈍感ドットコムだと思います(…)

柳とか柳生とかブン太とか…がんばってみたけどこんなの、かな…!
アデューは誰にでもあの口調っぽいイメージ。ブン太はからかいつつ心配しつつなお兄さん。柳先輩マジおかん。

あかん!好きや!ってなっちゃう白石が定着しつつある。
赤也は好きやって言われて条件反射みたいに俺も好きっス!って言って、あれ?え?好き…?ってそこで気付くタイプ。

一夏の合宿所らぶ。のち遠距離恋愛。






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