貴方が愛した暗闇よ、この胸に永遠に

『切原クン』

貴方は曇りなくいつも俺をそう呼びました。
まるで天から響く神の声でした。


『赤也クン』

貴方はアイツをそう呼びました。
それはそれはあまりに欲を孕んだ人の声で。






「…どっちも俺、なんだけど」

生憎日常生活的な自我を務める俺は、白、所謂天使の方だった。
暗闇は夜が来るまでそっと地に寝そべり、鉛色の瞳でこちらを見ている。

時折憎たらしく笑っては、

『愛されてんのは俺なんだよ』

そう言って、闇に溶けていく。


要は俺たちは理性と本能に別れたのだ。


「切原クン、おはよーさん」
「はよーす」
「あれ、どないしたん、なんや機嫌悪ない?」
「あーちょっと寝不足なだけっス」
「ふーん」

この人に、あまり嘘は意味がないけれど、見抜いていても追及はしないと知っている。
それがこの人の優しさでもあり、どこか人に執着がない印象も与える。

言えるわけがないのだ。どちらの俺を贔屓するのかなど。
貴方にとってはどちらもただ一人の俺という存在なのだから。
胸中で響く笑い声に耳が痛いなんて、俺にしかわからない。

鏡を見て、そこに映る自分を殺してしまいたいと、思う気持ちなんて。




いつか夢の中で、自分と対峙した。俺はすべてにおいてアイツに劣っている。
力も能力も、俺と言えるものはすべてアイツが持っていたのだ。
劣等感、それ以外何も感じることができない。

そして恨めしい、どこまでも。貴方さえ。
俺じゃないアイツを見ていることが。

本来持つべきではない黒い感情の塊が、湧いて。


『なんだよお前、天使じゃなかったのか?』
「っせぇ」
『ほら、真っ白な羽が染まってるぜ?』
「あ?」
『真っ赤に』
「な、にっ…!?」
『聞いて飽きれるな、天使』
「うるせぇ、違う!こんなっ」
『愛されもしないくせに、誰だ?お前』
「っるさ」
『天使なんてもんはよぉ、愛されずに愛するだけのもんだろ?』

真っ赤な羽根が、舞う。



「っ…!!」

ドクドクと脈打っている心臓に、酷い汗。
羽などあるわけが無いのに、背に手を回す。

「んだよっ……」

震えが止まらない、自分が自分でなくなってしまうようで。
いや、もう、俺は。
アイツの声も、聞こえなくなった。
晴れてさえ居ない、暗闇。

もしかして。

「俺っ」

考えたくなくて、ただの夢だと言い聞かせた。



再び見た夢の中、俺は、赤色に微睡んでいた。
白はどこにも見当たらない。背の羽は、黒ずんだ赤色に変わっていた。
染まらない暗闇はぽつりと残されたまま。
姿はない。

足元には黒い羽根が、落ちている、だけ。
一体俺は誰だ?










「切原クン、おはよーさん」
「ぁ、はよーございます…」
「…どないしたん、元気ないで?」

違う。俺は貴方が、そうやって慈しんだ俺じゃない。多分。

「別に、」
「顔色悪いで?ほんまにただの寝不足なんか?」


違うじゃないか。


「…白石さん」
「ん?」
「アンタが好きなのって誰ですか、どんな俺ですか?それって、俺なんすか」
「え?」
「わかんねぇんスよ、俺、今の俺がっ!俺なのか…!!」
「切原クン、」
「なんなんだよマジでっ…!」
「っ切原クン!落ち着きや、どないしたんや?切原クンは切原クンやないか、ちゃんとここに居る」

アンタの声はこんなにも遠かったか?

「嫌な夢でも見たんか?大丈夫や、赤也クン」

待ち望んだ声は、こんなにも霞んでいただろうか。



どこかでずっと、ずっと貴方が、俺じゃない俺を見ているみたいで。
不安で不安でどうしようもなくて。
俺を見てほしいのに、俺は俺が、自分かどうかわかんなくて。

耳鳴りがする。見えないアイツが今日も、

『誰だ?お前』

問い続ける。




+++*

堕天使赤也は精神グラグラ不安定の依存症。
突如として生まれた人格だから自分が自分かわからない。

一緒に居るだけで幸せ、だったのに、愛されたいって欲が強くなりすぎて堕ちました。
極めつけに悪魔の囁きによって悪魔を殺したがために完全に。
ぽっかりと空いてしまった精神空間からくる喪失感とか色々ごっちゃで弱い。

愛されてる実感が欲しい。
白石によってある程度自分を定められるようになると途端に色づきます←






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -