前略、失恋いたしました。A(光謙←ユウ)
「ユウく〜ん」
「ん〜？なんや小春」
いまだ胸の内は不思議なモヤモヤで埋め尽くされていた。
「なんやぁ、元気ないやないのぉ」
「小春も謙也と同じこと言うんやな」
「あら？謙也くんに心配されるなんて相当やないの」
「たまたまやろ、別に俺なんもないし」
「そうかしら？」
「なにがやねん」
普段からのやり取りに、何故か今日はまどろっこしさを感じてイライラした。
他の奴ならまだしも、小春との会話にこんなに苛立ちを感じるのは初めてかもしれへん。
「ユウくんにその気持ちのモヤモヤの原因教えたるわ」
「なっ、」
「それはユウくんが失恋したからやで」
「……は？」
失恋？なんで俺が失恋すんねん。
まず恋もしてへんわ。
「ユウくんは感情隠すんが上手なんやね。アイマスクと一緒や。まぁ…隠す言うより、ほんまもんの目隠しやね」
「何言うとんねん…っちゅーか、俺が誰に失恋した言うんや？」
「光くんに決まっとるやろ？」
「、は？」
俺が光に？失恋した？意味が、わからん。
「ユウくんは光くんのこと、好きやったんやで」
「ちゃう、光にはそういう好きと、」
「ちゃうことない」
「なんでおどれに言われなあかんねん、ちゃう言うとるやろっ」
「こない言うてもわからへんの？」
「わかるわからへんやないわ、光のこと好きなんかと、」
「わからずや、」
違う、違うんや。そんなわけないやろ？
好き？好きや、それは、ただ、…ただ後輩として、
そんな否定は、小春の断ち切るような声によってこの口が紡ぐことはなかった。
「…えぇか一氏、もっかい言うで。自分財前のことが好きやったんや、自分の胸に手ぇ当ててみぃや」
あぁ久々に、いちびりやない小春を見たな、なんて俺はどこか冷静やった。
いや、ほんまに冷えてもたんや。どっか。
血の気が引いて、じわじわと、実感という名の嫌悪が俺を喰ってく。
「ユウくん、」
「………」
「言わへんかったらユウくんは、しばらく気付かへんかったと思うねん、けど、…けどな、」
やめてや小春。もう何も、言わんといてや。
俺は、気付きたくなんて、なかったんや。
だってこんなにも気分が悪い。喉元から苦味が押し寄せるような。
「その痛みが失恋の痛みやってアタシは知ってほしかったんよ」
「なん、で」
「知らへんまんまやったら、きっとユウくんが駄目になってまうから」
「……」
「正体がわからへんままどんどん膨れ上がって、ユウくんの心が押しつぶされてまうのが嫌やから」
駄目になったって、かまわへん。
恋が、失恋が、……こんなゲスい気持ちやなんて知りたくない。
「もう、えぇ」
「…ユウくん」
「それ以上知りたく、ないねん……俺が、辛いとかや、なくて、」
光がしてたんはこんなんとちゃうって、頭が拒絶する。
まったく違う形をしているのに、恋という一纏まりにしてしまいそうで。
「わかったから、もう」
「…せやったらもう、何も言わへんわ」
「おおきに、小春。…心配かけてもうてすまん」
「なんや水臭いわぁ」
「はは、せやなぁ、俺ら四天宝寺１の漫才コンビやのに」
「せやで、やからユウくん、辛かったら言うてや」
「おおきに」
「ほな、アタシはそろそろ生徒会やから」
「おん、またな」
遠くなる背中が、見えなくなった頃。
泣きたく、なった。
「あれ？ユウジどないしたん？」
「…白石」
「え、なんやどないしたんやほんま、」
なんとなく、白石は兄貴みたいで、安心する。から、会いたくなかったんや、今は。
「ユウジ？」
「……俺、な」
「ん？」
「失恋したんやって」
「…したんやって、て……」
「わからへんかってん。さっき小春に、言わっれ、て」
ついさっき、小春に告げられた言葉を思い返すと、心がギリギリと痛んだ。
息苦しい。うまく、喋れへん。
あぁ俺、泣いてもたんや。
気持ちも涙も熱を持っていて、頬を伝う感覚もわからへんくらいに。
「…そ、か」
「ぅ、っ…あ、アホっやろ？じぶっ…で、わから、へんっ、かっ、て」
痛くて痛くて泣いた、心が。
辛くて辛くて泣いた、こんなにも知らないうちに好きになっていた気持ちに今更気が付いて、気持ちが大きすぎて。
悔しくて悔しくて泣いた、
どっかに下心があった自分が、居ったんやないかって。
「阿呆なんかとちゃうで、…辛かったな」
そんな俺の気持ち、まるでわかっとるみたいに白石は微笑んで。
ゆったり、俺より大きな手が頭を撫でる。
優しさがじわじわじわじわと、染み込んできて、気持ちが涙が止まらへんかった。
「…すまん」
「気にしてへんで」
「……おおきに」
「ん」
散々泣いて、冷静になってみると恥ずかしくてたまらん。
「…ユウジ」
「………なんや」
「部活は休んだ方がえぇわ」
「、は？」
「スポーツはメンタルが大事や、今のユウジにテニスできるような強い心、ないわ。…まぁ、もう俺は部長やないしどっちにしろ今月で引退やけどな」
あぁ、なんでこんなに俺の周りには優しい奴ばっかりなんや。
小春やって、俺のこと心配して、わざと気付かせようとして。
白石はもっともらしい理由つけて原因から遠ざける手段をくれて。
「………、」
十分やないか、そんだけで。
十分やって、思ってたから、気付けへんだって。
十分やって、思い込みやったから、恋してもうたんやって。
「また考えとる、ユウジの悪い癖やで自分には何の権利もないみたいな考えしてまうの」
「そこまで、」
「開き直れるくらい元気になったら来たらえぇやん、別に強制やないねんから」
「…白石」
「なんや言うたら余計考えてまうみたいやしな、そろそろ帰ろか」
それ以上、何も言わず、言えず。
西日で赤く染まった道は、酷く静かやった。
そして灼熱は静寂の闇に呑まれて、今日を終わらせていく。
穏やかに始まった俺の、でこか欠落したまんまの生活は、正直いつまで続くんかわからへん。
まだまだ、痛い。砕けた心も刺さった気持ちもそれらを踏み躙らんとする自制心も。
なんもかんもが痛い日々は目の前に漠然と広がったまんま。
地に落ちた心を拾うこともできずに。
前略、失恋いたしました。
傷心休暇を、いただきました。
復帰は未定ですので、追ってご連絡差し上げます。 匆々
+++*
ぐあっ！めちゃくちゃ書きたい設定でした。
恋という自覚のないまま財前くんを応援していたので、後になってそれを知ってしまったがためにあれは下心だったんじゃないかとか色々傷ついてしまったり。そしてまだまだ傷ついていくんじゃないかと。
小春は最初から気付いてたけど、言えなかったみたいな。言っておかなかったのを後悔するんじゃないかなーとか。
白石はまさかユウジが財前くんに恋してたとは思ってなかったけど、なんとなくすんなり受け入れられたというか。
失恋は切ない、とかではなく、どす黒い罪悪感の形になってしまうようなユウジが、可愛いんではないかなって←
あとユウジはわりかし自分を大事にできなかったり傷ついてぼろぼろになってる自分に気付けない子だといい。
うちのコハユウはガチラブじゃなくナチュラル親友プッシュです。