前略、失恋いたしました。(光謙←ユウ)






「…ユウジ先輩」
「うわっ、なんやどないしたんや光」

多分、こいつを最初に名前で呼び始めたんは俺やと思う。
「一氏先輩って呼びにくいっすわ」なんてほぼ初対面で言い放ったこいつに苛立ちつつも名前でえぇと言ったんは、光が入部してすぐくらいやったと思う。
そしたらこいつ、「ほんなら俺のことも名前でえぇっすわ、ユウジ先輩」とか言うてきたんや。
せやから多分、俺が財前光を一番に名前で呼んだはず。

そんでもってまぁまぁ仲はえぇ方やと思う。光は口数が少ないだけでわりかし付き合いはえぇ奴や。
ボケとかツッコミわからん、っちゅーわりにやっぱり大阪の人間やなぁっていうとこもあるし。
どんなときでも笑いをとる、ていう観念がないだけや。ほんまそこだけは理解しがたいわ。


「謙也さんが…」
「また謙也の話かい」
「せやかてユウジ先輩以外誰に聞いてもろたらえぇんすか」

まぁそんな話は置いといて、俺と光は帰り道、いつものたこ焼き屋でうだうだ話をしてるんやけど。

「毎度言うとるけどな、謙也にはビシッとズバッと一直線がいっちゃんえぇで」
「んん〜…」
「いやまぁ光の思とることもわからんでもないねんけどな」
「ここまで鈍感やとは、さすがに…」
「アイツは行動全般のスピード速うしすぎたさかいに感情がのろまやねん」
「ユウジ先輩ってわりに毒舌っすよね」
「お前に言われたないわ」

光は謙也に片思いしとる。俺がこうやって話を聞くようになったんは去年の終わり頃からや。
俺は別に同性やなんやとかはどうでもえぇと思っとる。という以前に、実は恋愛なんてものに興味関心がなかったりする。
ただまぁ、普段は飄々としていて生意気で恋愛事にもクールそうなこいつが、健気に片思いしとるのを知って放っておけるほど俺は薄情な人間やない。
それに謙也との付き合いなら俺の方が長いしな。白石には適わへんけど、俺の特技はモノマネと共に培った人間観察でもあるんや。ある程度の行動パターンや思考回路なら把握できとる。

「にしても、や。えぇ加減決めろや、男やろ」
「ユウジ先輩にはわからへんのやぁ〜謙也さんなんか何べん好きや言うたかて、告白やなくて好意としか取らへんのですよ?さすがに心折れますわ」
「…うわぁ」
「引くなや」
「タメ口きくなや」
「なんやユウジ先輩と話しとったらつい普通に喋ってまうんすわ」
「もうちょい敬えや」
「はぁーとにかく、謙也さんに俺の気持ちは恋愛としての好きなんやって認識させるにはどないしたらえぇねん…」
「ん〜……」

ほんまもんの鈍感やからなぁ謙也は。
LikeとLoveが冷静と情熱くらいかけ離れとるからなかなかLoveまで思考が届かへんねやろな。
ずーっとLikeのまんまや。
そうなったらもうLikeとLoveの区別を無理矢理はっきりつけるしか…、

「それや!」
「は?何がっすか」
「謙也、英語得意やろ?」
「はぁ」
「LikeやなくてLoveなんっすわ、て言うたったらえぇねん」
「…なるほど、っちゅーかモノマネで言わんとってください」
「これがいっちゃんストレートやろ」
「ごっつ阿呆っぽいすけどね」
「しゃーない。相手が阿呆なんやから」
「そっすね」

おい、さっき俺に毒舌言うたけど、お前も好きな奴を阿呆呼ばわりしとるやんけ。どないやねん。
あぁまぁいつものことか。

「まぁ、あんじょういくよう祈ってるわ」
「おおきにっすわ」
「前祝いってことで今日は俺が奢ったるわ」
「ほんますか、ユウジ先輩めっちゃかっこえぇっすわー」
「棒読みすんなや」


なんとなくすっきりしたような表情をした光を見て、俺も心がじんわりあったかくなった気がした。
























「ユウくん最近えらい光くんと仲良うやっとるやん?」
「そうかぁ?」
「妬けるわぁ!放課後デートやなんて!」
「別にデートちゃうわ!それに光には好きな奴が居んねんっ」
「ふぅん?」

別に俺ら二人、いつもうるさいわけやない。普通に話できるわボケ。って誰にキレてんねん俺。
でもまぁ、確かに最近はよう光と居ったかもしらん。

「光くんの好きな子ってぇ〜謙也くんやろ」
「ぅぶっ、なんっ」
「やっぱそうなんやね」
「…小春には適わへんわ」
「そ?見てたらわかるで?多分蔵りんなんかも気付いてるんちゃうかなぁ」

まぁ、白石は気付いてるやろ。光の気持ちにもやし、謙也の鈍感に隠れた感情にも。

「あの二人やったらちかいうちに上手いこといくんとちゃうかなぁ、なんやかんや言うて両思いやん?謙也くん気付いてへんけど」
「せやなぁ、ま、昨日謙也の鈍感を打ち破る最終奥義習得したからなぁ光は」
「最終奥義?」
「近々結果としてわかるんとちゃうかぁ」
「んもー!二人の秘密ってことぉ?!ユウくんの方が浮気者やないの!!」
「んなわけあるかい!!!」

せや、光は、ちょっと生意気やけど可愛い後輩なだけや。








全国大会が終わり、夏休みがやってきた。
3年は一応9月いっぱいで引退やから、夏休みの練習の参加は任意やけど、もちろん俺ら3年全員出とる。

さすがにLikeやらLoveやら言いだすんは恥ずかしいらしく、光と謙也には進展がなかった。



そして、夏休みが半分ほど過ぎたある日の部活終わり。
暑いしはよ帰ろ、と珍しく早めに部室を出て帰路へ着いた時、


「ユウジ先輩!」
「お?なんや光」
「あの俺、そのっ」
「うまくいったん?」
「っ!」

なんとなく、そうなんやろうと思った。
光が息切らすほど走ることなんて滅多とない、大声で人を呼び止めるなんてことも。
何かあった、ということをありありと示しとる。
そしてその何か、なんて思い当たることは一つだけや。

「なんや、ようやっとくっついたんかいな」
「お陰様で」
「それをわざわざ俺に報告しに来てくれたんか?」
「…まぁ、ユウジ先輩にはいつも助言してもろたし、たこ焼き奢ってもろたし」
「おん」
「ほんまに感謝しとりますよって、一言言うときたかったんで」
「さよか」
「ほな、謙也さん待たせてるんで」
「アイツ待つんあかんやろ、はよ行ったれや」

そして光は俺な背を向けて走りだした。
見送っていると、ふとこちらへ振り返って、

「ユウジ先輩!ほんま、ほんまおおきに!!」


なんちゅう幸せそうな顔すんねん。俺におおきに言うとる場合ちゃうやろ。
そんなん謙也にだけ向けといたらえぇねん。

「ようやっと面倒ごとが一個片付いた、ってとこか?」

弟の面倒みる兄貴っちゅーもんはこんな感覚なんやろか。



なんて、そのときの俺は思とった。



















「なんやユウジ、元気ないやないか」

ふと、謙也に言われた。そんな自覚はまったくなかった。

「悩みあるんやったら聞くで!」
「別になんもないで〜」
「ほんまか?」
「んー」
「なんかあったらいつでも言うてな!聞いたんで!」
「なんや謙也のくせに」
「どういう意味や!」
「そういう意味や」
「なんやねん人がせっかく…」
「まぁなんや、心配してくれたんはおおきに」
「おん!」

謙也の笑顔には適わんな。一瞬で馬鹿にされたん帳消しにできるとこにも適わんわ。

「光の相談とか聞いてくれてたんやろ?その、なんちゅーか、ユウジのおかげってとこもあるからな」

少し照れたように笑う謙也の表情と、その言葉に乗っかっとる感情は友愛なんかやないのは一目瞭然やった。
ちゅーか、光って呼ぶようになったんやな。まぁ、どうでもえぇか。

そう思うのと同時に、何か苛立ちにも似た感情が広がったのを、俺は見ないフリした。








あいつらが付き合い始めて、俺はめっきり光と帰ったりすることはなくなった。
当然のことなんやけど。
それをこんなにも考えてしまう自分が不思議で、悲しいような腹立たしいような気持ちになるのもわけがわからへんかった。
じきに消化されるはずと、揉み消し続けて。

夏休みが明けた。
















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