NOVEL | ナノ

 

WJを見て(2013.03.12)。
ほぼ捏造+見ようによっては二次設定ですが、ちょっとだけネタバレ?を含みますので注意。






赤司は、下駄箱の前でため息を吐いた。

今日は部活もない。それをどういう訳か家の者が知っていて、そしてどういう訳か今日は雨だ。
雨だとそう、必ず車で迎えが来る。
傘など征十郎さまには持たせられません、とでも言うように。
それに何度煩わされたか。
からかわれるのは何の気にもならなかったが、赤司自身が気に食わなかった。

籠の中の自分。
地面に跳ね返った雨に、風によって吹き込んでくる雨に、気持ちのいい霧雨に。
裾を肩を全身を、濡れることさえも許されない自分。

否応なしに意識させられる、赤司は雨が嫌いだった。



いつしか、雨は止んでいた。



ため息をもう一つ吐いたところでふと、そこに一人の影があることに赤司は気付いた。
部活はないのだし(そもそも成績会議をするため、今日は完全下校なのだ。赤司も見つかったら叱られてしまうのは分かっているのだが)、もう誰も残っていないと思っていたのに。

(誰だろう、)

ぼんやりと考えた赤司は、ふとそこで気が付いた。
その影は、標準の中学生の身長をはるかに超えている。
…どころではない、教職員として見てもあれほど大きい教師には入学して以来出会ったことがない。

(紫原…)

自分と同じく、一年にして一軍にカテゴリ化された長身の彼。
彼も赤司と同じように、恨めしそうに雨降り注ぐはるか上空を眺めていた。



「紫原、」

赤司が声をかけると、彼は驚くでもなく「赤ちんー、まだいたんだ〜。」と、いつものように返す。
その様子は普段と変わりないように見え、赤司をちらりと見たその視線も柔らかで、一瞬前まで雨降る空を見上げていた時の苦々しさは全く感じられない。

「お前こそ。今日は完全下校のはずだろ?」

「うん〜。」

ていうかそれ、赤ちんもじゃん。
予想した答えはだが返ってこなくて、いつも以上に気怠げに呟いた彼は再び雨空を仰ぎ見る。
見たところで止むはずはないのに、と赤司は思ったけれど、つられてその水源を仰いだ。

生徒はもう校舎には残っていないため、消灯され薄暗くなった校舎の中に、さぁぁという雨の音が響く。
さぁぁ、に混じって聞こえる、しとしとという響きは、一度校舎の屋根や木々に降り注いだ雨が一定のリズムで地面に届いた時の音だろう。
遠くに聞こえるその音は、意外にもぽちゃん、ぴちゃんという高い音は立てない。

「俺ねー…、」

すると、それまで無言だった紫原がぽつりと言う。

「雨って、嫌いなんだよねー。」

あめがふると、せかいにひとりぼっちなの。

赤司の前。弱々しく揺れる最小の明かりの下で、紫原は呟いた。

その様子は校舎の電灯以上に寂しげで、儚げで、いつでも飄々としている紫原でもこんな表情をするのだと、赤司は少し驚いていた。
いつだって、何が楽しいのか赤ちん、赤ちんと言ってはにっこり笑う最長身。
見つかると校則違反だと注意されるが、それでもお菓子をいつでも持ち歩いていて、気付くとその棒状のスナック菓子(まいう棒というのだそうだ。赤司は先週それを初めて食べた。赤ちんにはねぇ、コレ、と差し出されたクリーム色のパッケージ。コーンポタージュ味、と銘打ったそれは、塩気がやや強かったが、確かに甘いコーンスープの味がした)を口にしている。
幼稚か個性かと言われれば、100人中100人が幼稚だと判断する程度の精神の持ち主である紫原は、その実とても頭が良かった。
それなのに、その素振りを全く見せないでゆるゆると日々を送る、送ろうとするその姿が、赤司には新鮮だった。

「誰もいれてくんないんだよね、傘。俺デカいから、当たり前なんだけどさー。」

「…」


最近伸びつつあるとはいえ、まだまだ平均的な身長の赤司にはその気持ちは推しはかるしかない。
だが確かに、紫原の身長に合わせて傘を持つことは事実上子供には不可能に思えるし、かといって紫原が傘を持つと、傘の側面から伝い落ちた雨が足元で跳ね返るのが、通常より強い(他の生徒が傘を持った場合に比べ地面までの距離が長いからだ)。
足の長い紫原にとってはその跳ね返りは制服の裾を濡らす湿気程度の扱いで済むが、相合傘をした相手は、ひざ下いっぱいくらいは雨に濡らしてしまうことだろう。

それに、子供というものは時に残酷に出来ている。
相手への配慮も何もなく、言われたのだろう。拒絶されたのだろう。

あつし、大きいから、イヤ。
走って帰れよ、速いんだしすぐじゃん。
おれがぬれちゃう。
前いっしょにかえったときいっぱいぬれちゃったじゃん、おかあさんがあつしと同じ傘じゃぼくがぬれるからダメだってー。

普段何を考えているのかよく読み取れない、気怠そうなその瞳に、柔らかな印象を与えるその双眸に、どれだけ残酷な現実を映してきたのか。
赤司は気付くと紫原の目を食い入るように見つめていた。

「赤ちん、」

呼びかけられて、そこではっと赤司は我に返った。
目を凝視していたことに気付かれたかとドキドキしたが、彼は校門に向かって指差す。
その先には家の車が待機していて(アイドリング・ストップなどという芸当は身についていないらしい。このご時世、校門の前にエンジンをかけたままとあっては、見ようによっては不審な車だというのに)、赤司は頬をひきつらせた。
紫原を拒絶する、相合傘。
赤司を待つ車。
紫原の苦しさを考えていてしばらく忘れていた、赤司の苦々しさ。
赤司の現実。

「あれ、赤ちん待ってんじゃないの?さっきから、中の人こっち見てる。」

「…ああ。来なくていいと言っているのにな。」

そう言う赤司の左手には、オーソドックスなビニール傘。
赤司のクラスの生徒が話していた赤司や彼の家のイメージとは違うそれ。
いつだったか、骨組みが16本の和傘でも使っていそう、とクラスメートが言えば赤司は笑顔を作った。
赤司についての噂の9割方は憶測で、そのうち6割方が正解である。
対外的に54%は精確に把握されている赤司のそれとは、およそ合致しないそれ。
学校へ来る途中夕立に降られた時に、コンビニでわざと選んだ一番安っぽかったそれ。
もし今後家族に知られそれを批判でもされれば、傘など雨が防げる大きさとそこそこの強度があればいい、と言うつもりだ。

紫原の視線が傘に移ったことを感じ、赤司はいつものように作り笑いを浮かべた。

「似合わないか?」

「…ううん、すごい赤ちんぽい。すごい、」

刹那的で、辛そう。

紫原の発言に、その洞察力に、赤司はその後何度も驚かされ何度も救われることになる。

そしてそれは入学して以来、初めて赤司が紫原の視点をすごいと思った時だった。

「傘、持っているの分かっているんだけどな。」

「持ってても、濡れちゃうからでしょ?ありがたいじゃん。」

車に乗っているのが、母親か、父親か、その他家族なのか?と紫原は聞かなかった。
運転手つきかよ、と囃すこともしなかった。
実際運転手ではなく、そういうときの送迎は父の秘書が行う。説明するのが面倒なのだが、紫原にとってそれは特に問題ではないらしい。

「俺は、さ、」

もう一度空を仰ぎ見て、そのまま視線を右にずらすと同じ角度で紫原と視線が合う。
やはり高い身長、羨ましい、と赤司は思った。それは、ただ身長の高さについてという訳ではない。
バスケをするにはこれ以上ないほど恵まれた体躯ながら、これまで、背が高すぎるゆえ不便な目にもあっただろう、辛いこともあっただろう。
穏やかな彼が、だがすぐにカッとなる一面を持っているのは、恐らく自己防衛として自然と身についたものだろうと赤司は思っていた。
大きいから誤解もされる、大人の庇護下になくとも大丈夫だと判断される。
良いことばかりではなかったはずだ。
だが紫原は、それを持て余さない強さを秘めている。

「雨が嫌い。」

紫原はしばらく赤司の方をじっと見ていたが、やがてもう一度空に視線を戻した。
その時点で、彼の頭の中から校門の車が完全に消されたことを悟った。
赤司との会話において、不必要だと判断したのか。
それとも、赤司が無意識にそれを排除しようとするのを感じ取ってか。
だから赤司も送って行こうか?とは言わなかった(もし紫原を乗せて帰るのなら、迎えの車も悪くない、と思った。赤司にとっては何の役にも立たない父のエゴも、誰かの役に立つのなら)し、彼も早く帰れば?とは言わなかった。

雨が嫌いな理由も、紫原は尋ねなかった。

「じゃあさ、赤ちん、」

「ん?」

「少し、このまま少し雨宿りしよっかー。」

「…そうだな。」

とりあえず、会議が終わるまでかな。

終わったら、どうしよー。

どうするって…帰るだろ。

そうじゃなくて、校門、職員室から丸見えでしょ。だから、
1.隠れてこそこそ抜け道探して帰る!
2.ダッシュで正面突破して帰る!
3.いっそ見つかるまで校舎でかくれんぼ!
どのみち俺がいたんじゃすぐばれるけどねー。

「ふ…確かに。じゃあ…2。ただし、裏門からこっそり出よう。」

雨が止んでなかったら、一緒に使おう。

差し出されたビニール傘を、少し戸惑いの表情を浮かべて、紫原が受け取る。
雨を防ぐのには十分、と思っていたのだけれど、彼に持たれたそれはあまりにも頼りなさげに映った。

「赤ちん、濡れちゃうよ?」

せっかく迎えが来ているのに、とはやはり紫原は言わなかった。

彼は普段、基本的にあらゆることに無遠慮で、何事にも配慮に欠ける。
そう先輩からも同級生からも陰口を叩かれることもあるのだが、実はそうではないと赤司はそのとき思った。
彼なりの配慮、気遣いというものは存在するらしい。
ただそれが目立たず誤解されることも多いので、中々気付かれないのだろう。
この場合普通は、迎えはどうする、という気遣いがないと批判されるところなのかもしれない。
だが赤司には、紫原の受け答えが一番心に優しかった。
春の雨で気温が下がっていく中、胸がじんわりと温かくなる。

「良いよ。雨って、濡れるもんだろ?」

「…だねー。」



共に湿気でくるくる巻いた髪を笑った。

しりとりをしていたら、赤司が何度も止めた。

(お前が変な解答ばっかりしてくるからだろ?修飾語ついてたり、あとはちみつ味、とかチョコレート味、とかそれじゃ全部おれが“じ”で始めなきゃダメじゃないか。)

(めんごめんごー。でもハンデちょーだい、赤ちん強いんだもん。)

(ダメ。)

(赤ちんのけちー。)

それから、紫原の非常食のお菓子を2人で分けて食べた。

(今日はね、まいう棒のピザ味もあるよ。)

差し出されたそれは、雨のにおいをかき消すほどの香辛料と、酸味の強いトマトの香りがした。



いつしか、雨は止んでいた。



君といれば、嫌いな雨が大好きな思い出に変わっていく。

(もう、飴が降ってきたら良いのになーとか、思わない。)

(もう、雨なんて降らなければ良いのに、何て思わない。)



end.

WJを見て。SSに入れるつもりだったのが、こんなにも長くなっていたので…。

赤ちん送迎されてる…!
でも、へーすごいねー、っていつもの調子のむっくんにきゅんてなる赤ちんを妄想。
むっくんに限らず、基本キセキはそういうところ無頓着そう。
黄瀬だけはあれやこれや聞いてきそう(マジっスか!!??赤司っち、めちゃくちゃお坊ちゃんじゃないっスか!!!じゃああの人が赤司っちの運転手さんっスか?え、秘書?かっこい〜さすがっス赤司っち!笑)。
↑で、あんまりしつこくて赤司が疲れてくるから、黄瀬ちんひねりつぶす…ってなる。
紫赤かわいすぎる。
中学生の赤ちんの破壊力は、ちょっとすごいどころじゃない。


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