NOVEL | ナノ

 そんな島に

紫赤は部内公認。
黒子がすごく俗人。青峰と黄瀬のせいで紳士じゃない(笑)。






「無人島に一つだけ持っていけるとしたら何が良いかって、質問ありますよね。」

「んー、そーだねー。」

「それと同じ感じで、無人島に一人だけ連れて行くなら誰?っていう質問もありますよね。」

「んー(…そーだっけ?)」

「僕アレ、嫌いなんですよね。何だかんだ言って、カップルの惚気じゃないですか。」



そんな島に行くつもりはないから安心して。



清々しい春の風を感じる屋上。
今日は再登校で部活、というのを良いように解釈し、黒子と紫原は2人で屋上に忍び込んでいた。
忍び込んだと言ったって、別に何をするわけじゃない。
ただ部活が始まるまでの、昼下がりのこの気怠い時間を有効に使おうとしているだけのこと。
他の面々は一旦家に戻っていったが、この日2人は学校に残った。
たまたま2人とも親が不在の日と知り、冗談半分で進めた話だったが、いつしか本格的な“計画”になった。
1人で昼食を取りに家に戻るより、この方がずっと楽しそうで、わくわくしたのだ。
数日前からチェックしていた、天気は予報通り晴れ。あらかじめ持ってきていた弁当を、ピクニック気分で味わい、あとは部活が開始される15:30を待つまで。
そう言えばなぜ今日は再登校なのか?そのことについて、説明があったのかなかったのかも紫原は覚えていなかったが、学校にもいろいろ都合があるのだろう。
何にしても、その都合のおかげでこうして清爽な午後を迎えられているのである。
良しとしよう。大いに。大歓迎。

晴れやかな陽気に澄んでいく心の隅っこで、感じる若干の背徳感。良心のチクリという痛み。
普段悪いことを滅多にしない黒子にも、ちょっと芽生えた好奇心。
それを後押しするのに、青峰の才は大層役に立った。
彼は校内のあらゆる休憩スポット(つまり、そこでサボっていても滅多に見つからない場所)を熟知していて、抜け道から鍵の開け方までその知識は幅広い。
当然彼のお気に入りの場所の一つである屋上に、どこの階段から行けば目につかないか、見つかったときの言い訳はこう、だとか。
恐らく実践済みなのだろう、使い慣れた口ぶりに、黒子は初めて青峰をバスケ以外の面で尊敬した。
…と、言ったら紫原に「黒ちんってさ、意外と酷い?」と疑問符をつけて返されてしまった。
黒子自身には酷いことを言ったつもりはなかったので、え?と誤魔化したのだが。

(…本心だったんですけどね?ニコニコ)

ワルイコト伝授の最後。んじゃー当日鍵は開けとくからよ、と言っていた青峰に、2人は一瞬“どうやって?”とつっこみたくなったが、互いの顔を窺い見、そこは思いとどまった。
そこまでどっぷり青峰ワールドに浸かるつもりはなく、今日はほんの好奇心を満たそうというだけなのだ。
彼がどこでどう鍵を得てくるのかだとか、あるいは彼がどうやってピッキングをするのかだとか…。
本当に、世間は知らぬが仏のことばかりである。

そして、前段の内容に戻る。

「だって、答えなんて見えてますよ。目の前の、可愛らしい、かっこいい誰かさんを連れて行くってなるんですよね。100%そうじゃないですか。」

黒子はいつものように穏やかな目をして、淡々と語るのだが。
…しかしその内容は、通常の彼から想像するのには少々難のあるものに変わっていく。

「大体この質問の趣旨って何ですか?アンケートでも心理テストでもなくて、結局惚気させたいだけなんですよね?揚句そのあと恥ずかしそうに照れ隠しなんかして。聞かれてるの20代とかですよ?良い大人がみっともないですよ。結局、無人島で誰にも邪魔されずにイチャイチャしたいって言ってるんですよね?青姦って言うんでしたっけ。そんな無人島プレイ、勝手に妄想ですれば良、」

「すとーっぷ!すとっぷ黒ちん。…ねえねえ黒ちん、峰ちんにすっごいAVとか変な深夜のバラエティとか見せられてない?その知識大丈夫?」

それまでん、ん?ん???と疑問符を浮かべつつも、早口でまくし立てる黒子に圧倒されていた紫原がようやく制止することに成功した。
この議論が、どこに落ち着くのかは分からない。
が、雲一つない青空とは対照的に、黒子の発言内容には黒い雲がもくもく湧いてくる感じがする。
相手も中2、そういうことに興味を持つお年頃、というのは分からなくもないが、相手は黒子だ。
穏やかで優しいあの面立ちから、18禁単語をすらすら聞くなんて展開は避けたい。ものすごく避けたい。

「すっごい…というか、AVって僕に言わせればみんなすごいですよ。…あ、でもこの前の」

「おっけ分かった、もう言わないで。黒ちんの声でそんなん聞くのとかムリ俺なんか悲しい。ていうかそこは否定してほしかった(峰ちんひねり潰す)。」

紫原は両の手を顔の横に上げ、お手上げのポーズを作った。
友人から、黒子から、彼とは全く結びつかない話題が次々と語られる感覚が何とも言い難く、複雑な気持ちになるのだ。

「あ。鑑賞会と銘打ったのは青峰君ですが、DVD自体は黄瀬君のです。」

「うん、そっかー、分かった、じゃあ黄瀬ちんも、」

「同罪だね(ひねり潰そうか)。」

「!!??あ、あか」

「ぁ赤司君!」

そこで、突如として2人の頭上から聞こえた凛とした響き。
彼らが王様、赤司の予期せぬ登場に、紫原も黒子もしばし言葉を失っていた。



「いつからいたのー?赤ちん、もーびっくりしたよー(心臓かえして)。」

「大体この話の最初から。無人島が何とかって(取ってないよ)。」

「そもそもどうしてここにいるって分かったんですか?(その会話アリですか?グロいです)」

「家に帰る途中で黄瀬と青峰に誘われてね、一緒にお昼を食べてたんだ。」

そうしたら2人の話になって。
屋上に忍び込むなんて…気になって来てみたもののあんまり信じてなかったけど…本当にいて俺の方がびっくりだよ。

言って赤司は一度ため息を吐いた。
赤ちん、ため息を一つ吐くと…と紫原は言いかけたが、その言葉は飲み込む(恐らく今はそういう状況じゃなくて、多分そんなこと言うと怒られる)。
いや、それ以前にこの行為自体で怒られること確定では?とどこかうなだれた様子の紫原とは対照的に、黒子は淡々と、いっそ爽やかすぎる笑顔で赤司に聞いた。

「赤司君、無人島に一人だけ連れて行くとしたら、誰を連れていきますか?」

爽やかというか、これはもう悪の笑顔か。
黒子の(表向き人畜無害な)癒しスマイル。
それに対する赤司の表情は、何も変わっていないように見えて少し頬がひきつっている。

(あー…、何かめんどーな感じになってきたかもー…。)

紫原は2人の間に生じ始めたブラックホールに少々引きかけたが、それはそれ、彼にとって大事な2人同士の会話である(内容に少々難はあるが)。
去るべきか加わるべきか迷っている間に、赤司はもう一回ため息を吐いた。

「黒子、その質問、無意味だろ。だって俺はそのあとの2人の話を聞いてるんだぜ?惚気るのが嫌だとか、その…何だとか。」

「赤司君、逃げましたね?」

そう言って、黒子は後ろに立つ赤司ではなく、左横に座る紫原を仰ぎ見た。
座高では立った時ほど身長差は目立たないが、それでも少し見上げる形となる。
黒子が紫原に対し自然と上目使いになるのを、後ろで赤司はいかんともしがたい、といった表情で苦々しく眺めていた(この天然系人工甘味料め。あざとい!)。

「紫原君も、いっそ惚気てもらった方が良かったですよね。」

「うーん…ゃ、良いよ別に。」

「興味ないんですか?青か」

「「黒子(黒ちん)、とりあえずそこから離れようか?」」

(キセコロ…)
(黄瀬ちんひねり潰す)

赤司はいよいよ呆れかえった表情になり、本日三度目のため息が漏れた。
そのため息とともに、彼の両手が軽快に風を切る。
将棋や囲碁をを指すような軽やかな動きで黒子と紫原の頭を叩くと、ぱすっとこれもまた軽い音がした。

「った!ぇー!何で俺まで、」

軽く、とはいっても運動部男子の平手の一撃。地味に痛い。

「2人ともいつまでそんなくだらない話をしてるんだ?そろそろ開始時刻だ。行くぞ。」

「はい…。」

「はーい…。」

釈然としない黒子と、もっと釈然としない紫原が後に続く。
先頭を歩く赤司の背中に、紫原はうーん、と歩調は変えず考え込んだ。

(無人島…。)

の、イメージは中々ないが、テレビでたまにやっているあの食材から住むところから自分で用意するアレだろうか?
持っていけるものは何だっけ?テント?懐中電灯?
そもそも黒子の質問は、長期滞在の設定なのか?たった一晩の話なのか?
その無人島は十分人が住めるに値する場所なのだろうか?

5階につながる階段まであと数m。赤司は後4歩で入口に達する。
紫原は赤司の背中を見据え、そのまま目線を動かさず、呟くようにして言った。
独り言のようにも聞こえたが、黒子は視線を紫原に向け、赤司は立ち止まり振り返りこそしなかったがその言葉に耳を澄ます。
少しでも気になる、という素振りを見せてしまえば黒子にまた何と言われるか。
慎重に、無関心を装いながら。

「…黒ちんはさ。この質問、2人っきりになってナンとかって、惚気るからヤだって言ったけどさ、」

皆が皆好きな相手を無人島に連れて行きたい、なんてことはない。と、思う。
上手く言えないが、これだけは言える、何より確かなことがある。

「はい。」

「俺―、…多分赤ちん無人島には連れてかない。」

はっきり言い切った紫原に、黒子が立ち止まり、5歩前を行く赤司もピタリと足を止め、振り返る。
今度こそ時間の止まった黒子と赤司。2人の視線を感じながら、紫原もまた立ち止まった。
これが正解なのかは分からないが、自分の中でこれ以外の解答は、ない。

「…うん、まあ、そうだろうね。一緒に行くならもっと役に立つやつの方が良いだろう。例えば青峰とか…、」

「うーんと、赤ちんそうじゃなくてね、」

「…どうせ2人きりしかいないからって、普段手を出せない人を手籠めにするんですか?」

「「とりあえず黙って?黒子(黒ちん)。」」

(…キセコロキセコロ)
(峰ちん泣かす)

「えー?(黄瀬君青峰君はどうでもいいですけど)」

違くて。

「だって無人島って、何にもないじゃん。」

電気もガスも水道も、食べ物もとれるか分かんないし(お菓子ないし)。

住むとこも着る服も、雨風凌げるとこもあるか分かんないし、病院ないし。

遊ぶとこないしバスケ出来ないし将棋盤ないし虫も出そうだし。

真水は?飢えたらどうすんの。
病気になったらどうすんの。
ケガしたら?台風来たら?
雪降ったら?熱中症になったら?
お風呂入りたくなったら?石鹸は?

そんなとこに俺、赤ちん連れて行けない。

自分も行きたくないけど、何かこう、赤ちんだけは絶対に行かせられない。

「…紫原君…。」

「…って…思った、んだけど…。」

黒子も赤司も黙り込んでしまい、紫原は目を泳がせ“あれー?なんか違ったかなー?”と頬を掻く。
自分としては当然のことを言ったまでなのだけれど。

「黒ちんの言うような解答じゃないから。やっぱこんな答えじゃダメなのかなー?」

一瞬の空白。

刹那、ボンッと音を立て、赤司の顔が耳まで真っ赤になるのを黒子は見た。
その血が顔に集まってくる様子を見た。
そして、その音を、確かに、聞いた。

「///っ、っっっ///、///っぁ、…///」

そして数語、意味をなさない空気音だけを発し続ける我らが主将さま。
だがそんな様子の赤司に気付いたのは黒子だけのようで、普通の人間であれば5歩分の赤司との距離を2歩で進んだ紫原は、真っ赤になり俯いてしまった彼の顔を覗き込むように上体を傾ける。
今はそういうシーンじゃない、黒子は咄嗟に思ったが動けずに終わり、結果紫原は赤司の表情を真下からストレートに見上げることになる。
この妖精め、空気を読まないのもいい加減にしやがれと、黒子の頬がひきつる。
恐らく赤司はそれ以上に戸惑い、もう頭の中がごちゃごちゃして訳の分からない状況になっていることだろう。
赤面しているときの自分の顔などまじまじと見られて、気分が良い人間がいるはずもない。

「赤ちーん?(やっぱ不正解だったかなー?俺ヘンでごめんねー?)」

「っ紫原君、」

ようやく黒子が紫原の袖を引っ張り彼の視線を赤司から強制的に逸らすと、それではっと我に返った赤司はまた数語空気音を発しただけで、ついには足早に屋上を後にしてしまった。

その様子を少し驚いた表情で紫原は見ていたが、やがていつもと同じ口調で呟く。

「…やっぱ2人きりで無人島行きたいって思わなきゃ正解じゃないのかなー…?」

(赤ちん怒らせちゃったかもー…。謝んなきゃ…。)

(…いや、もう少し、そう今は少し、そっとしておいてあげるといいと思います。
それに、多分赤司君怒ってないです。あれは、)



(赤ちん赤ちん、ごめんねー?俺、こんなデキテナイやつで…)

(ぇと、…だな、紫原、さっきはその、)

(あのねそれでねー赤ちん聞いてー。俺もそんな無人島とか行かないし。色々ヤだし。)

でも他のとこだったら、何処だって赤ちんと行くのだいかんげーだよ。

赤ちんと一緒にいるの、俺、すげー幸せだもん!

(〜っっっ///…うん。…俺も///)



君からの愛をこれ以上ないくらい感じられて、すごく、幸せ。



そんな島に行くつもりはないから安心して。



(…って…。結局、何だかんだ言って、カップルの惚気だったじゃないですか…。あー腹立つ。)

部活後、2人の様子を眺めていた黒子は一瞬小さく舌打ちし。

青峰と黄瀬はそれから一週間、通常メニューの2倍量の基礎練だけを黙々とさせられた。

end.

危険な(?)無人島に、大事な赤ちんは絶対連れていけないむっくん。
自分としては、むっくんの解答は満点超えてる。

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