思いついたとき紫赤
紫赤ちゃんのほわほわな日常。TOP文収録


ショコラ2
「じゃあ、まずは基本から…チョコを溶かすところから始めましょうか?」
「…」
「征ちゃん、チョコの溶かし方は知ってる?」
「湯煎にかける…」
「正解!…と言いたいところだけれど、少し足りないわね〜」
「?」
玲央はきれいだ。対面で向き合うと赤司はいつも思ってしまう。時には静かに微笑むその横顔にさえ思うこともあるのだから手に負えない。
男性だけれど内面はたおやかで、それでいて時に強く凛々しく流れゆく。しなやかな強靭さを保った外面もそうだけれど、外面はただ美しいと素直に思う。もしかしたら、生来の内に秘めた魅力が滲み出ているのかもしれない。
そして、いつだって優雅に玲央は笑う。
口角をきれいに持ち上げて、優美に笑う仕草が好きだ。とても好きだ。
きっと…見る度、彼のものではないあの笑顔を思い出すからだろうと思う。

美しさとはまた違う。けれど、笑顔というものに触れる度、心の内に広がっていくのはいつであってもあの紫陽花色の下に咲く笑みだ。
きれいだとは思う、重たそうに下げられた瞼、だがはっきりと二重の表れる切れ長の目、普段は気怠げに見えるけれど、試合の時には一転してきりりと引き締まる表情。どこで覚えてきたというのか、時折妖しげに艶を帯びるのだってごく自然で、艶やかさなど滲み出ることすらないように思われる赤司自身とはおよそかけ離れて見える、どこかエキゾチックな顔かたちとパーツの作り。とにかくに、群を抜いてきれいではある。少なくとも、赤司の目にはそう映る。
だが、それは玲央のもつ美しさとはまた違う。紫原も玲央も等しく造形は端正だけれど、玲央の場合は次元が違う。色事にも、人の顔かたちの好みすら定かに意識したことのない赤司でもそう思う。何もかも、全てに美しくバランスが保たれた面立ちには、どこか人間離れした幽玄さが漂うのだ。
紫原の笑みはかっこいい、きれいだ。けれど、玲央のそれと比べれば若干角度は不均等だし、何より平素の彼の癖か、のんのんにまりと笑う仕草がどうしたって気を抜けさせる。
だから本来、今赤司の目の前に立つチームメイトを見て彼を思い出すのは少々説明のつかないことかもしれないのだが。何故と思うその疑問に精緻に答えてくれるほど赤司の心は器用に出来てはいなかった。
しかし、徐々に気付き始めてはいる。
「チョコを溶かすにはね、最適な温度があるのよ。テンパリングって言うの。それ以下の温度でもダメだし、それより高すぎてもいけないのよ…高温にすれば溶けるっていうわけではないのよね。確かに湯煎で溶けることは溶けるし、それを型に流して手作りチョコ〜って私もやったことはあるわよ?小さい頃…一番最初に、バレンタインを、…誰かに贈ったときね。でも、美味しいチョコにするには、まずこの温度管理をしなくちゃ。」

「相談に来るってことは、…そのくらい、美味しいものを、作ってあげたいんでしょ?」

こくり。赤司は頷いた。頷いたが、止まらず呟いた。
「…それは、玲央の好きになった人?」
「…ええ、そうよ。最後まで、片思いだったけれど。」
「…」
「…ごめんなさいね、しんみりさせちゃった?」
「ううん、そんなこと、ないよ。…嬉しい。」
「?」
「だって、玲央のこれまで抱いてきた想いを、玲央の大事にしている気持ちや思い出を…色々籠ったものを教えてもらえるのだから…。そう、思うと…」
…すまない、口にしようとした桜色の唇に、人差し指。
彼はもう一度笑った。優美に、穏やかに、柔らかく。
「ええ、私もよ。お役に立てて嬉しいわ。…征ちゃんの、想いをいっぱい、込めてあげなきゃね。」
精一杯、協力させてね。

僕は、好きだ。
好きだ、という感覚が好きだ。
甘美でじんと痺れるような感情が奥底から呼び起こされる度に、そうやって、好きだって、好きだって、君を好きだって、思い出すから。


20140113 加筆20140115



2014/01/17 23:44 (0)


ショコラ
「…玲央、すまない、一つ頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか?」
「あら、もちろんよ。征ちゃんの頼みならなんだって聞いちゃうんだから。…でも、征ちゃんから頼みごとなんて珍しいわね。しかもそんな改まって畏まっちゃって…」
もしかして、深刻なお悩み相談?
「…いや、ああ…うん、…いや、何ていうのか、その、くだらないことなんだ…。そう、本当に…」
「?良いわよ良いわよ、何でも言いなさいな(^-^人)例え人から見てくだらないことだとしても、今の征ちゃんを心穏やかじゃなくさせてしまうものなんでしょう?何だって、遠慮なく言ってほしいわ?」
私で、力になれるのなら嬉しいわよ。

温かな、玲央の言葉に救われる。
「チョコレート菓子の作り方、を、教えてくれないか…?」
「…」
「…」
(…あら…ふふふ、^^)
「お安い御用よ!任せなさい!」
「!…あ、ありがとう…!」
(ぱぁってなったわこの子…可愛いんだから…)




そんな、季節ですね。

20140111 加筆20140113



2014/01/13 09:01 (0)


初夢

「赤ち〜ん」

「…何だ?」

「赤ち〜ん」

「…何だ?」

「赤ち〜ん」

「…何だ?」

「赤ち〜ん」

「…何だ?」

「赤ち〜ん」

「…だから、何なんだ!!??さっきから僕の名を呼んでばかり…」

「えへー。だって〜、」



『俺は赤ちんの初夢だもん。』



「…」



だから、たくさん呼んで、赤ちんを振り向かせるんだし。

…振り向いてくれたら、…赤ちんも俺の夢に来てくれるでしょ?



「…」

「赤ち〜ん」

「敦、…僕は、お前の夢になんか出てやらない。」

「…赤…ちん…」



『会いに行くよ…絶対』



はかないゆめなどただのまぼろし、そうだろう?

おまえでないものに、きょうみなんてない。



「…でも、…夢でも、出てきてくれて、嬉しかった。…ありがとう、おやすみ。」

「うん///…おやすみ…」



ことしも、いつでも、ふたりで、在りたい。






2014/01/03 23:49 (0)


サンタクロースと共に

25日の朝、文字通り陽射しが差し込んでから目を覚す。
…とはいっても、自分の横、眠い目を開いているのか閉じているのかを何度か繰り返している愛猫は未だ微睡みの中から覚醒する気配はなく、ただ瞼を照らす陽の光に眩しそうに呻き身動ぐばかりだ。

その身に今も残っているだろう、自分には恐らく一生分からないことだと思うがひりひりした痛み(と、彼は言った)と甘い疼きとを気にかけながら、至極優しく腰を引き寄せる。
それがどちらからのものかは分からないが、それでも走る微量の刺激に赤司は一度小さく声を上げた。
眠っている間に動いてしまった体勢を動かしちょうどいい位置に戻すと、紫原よりは小柄な抱き込んで頭に顔を寄せる。
自分と同じシャンプーの香りと、それにも勝る項からの石鹸の香り。その中にほんの少しだけ芳しく薫る赤司の匂いを思いのまま吸い込んで、紫原は我が身の幸せを甘受した。

「あ、あー…赤ちん…」

突然、残念だと言わんばかりの声を上げる紫原に、赤司は少しだけ重たい瞼を持ち上げた。
視界は相変わらず彼の大きな胸元、その上を覆うパジャマだけなのだが、それが余計に赤司の嗅覚を鋭敏にする。広い胸いっぱいからの愛し紫原の匂い、普段お菓子の匂いで“甘い”と頭で認識しているせいか、石鹸と柔軟剤のフローラルの香りだけのはずのそこから砂糖菓子のようなふんわりした甘さが淡く滲んでいるようだ。
赤司は「んぅ、ん、…」ともう一度だけ呻いて、再び瞼を閉じる。

紫原は、それに構わず続けた。

「俺が早起きじゃないから〜〜〜…赤ちん、サンタさん来ないね〜…」

ごめんね、

「…」

いつか、彼は言った。
自分の元にはサンタクロースがやって来たことはない。

(朝起きて、枕元にプレゼントが置いてあった経験は、ない、な。)

(…)

紫原はその言葉を覚えていたが。
…何分、彼と過ごす初めてのイヴである。交換するプレゼントの、あるいはディナーやケーキの内容(共に紫原の手製だ)を考えるだけで心逸り、サプライズのサンタクロースのプレゼントにまで頭が回らなかった。
朝早く起きれたのならまだ簡単な焼き菓子でも用意出来たのだろうが、…、…、…生憎、前夜に十分な仕込みをすることも、当日早く目覚めることも可能ではなかった(それは、今現在の状況から察していただきたい)。
繰り返すが、今年が初めての2人で一緒に暮らすイヴなのである。重ねて恋人同士が二人きり、一つ屋根の下にいるのなら、行き着く先は一つしかない。
それは起承転、結にいたるまで必然の流れである。

太陽の南中高度の低い冬の朝、いよいよ眩しくなり紫原の胸元とベッドの隙間に顔を埋めながら、赤司はもごもごと口にした。

「サンタクロース…?」

「あ、赤ちん起きたー?…そ、サンタクロース…俺がやってあげよーって、思ってたんだけど…」

(来年まで、お預けだね〜…)

(絶対、いつか、赤ちんのサンタさんになるからね〜…)

「…」

「まだ寝てていーし。俺、朝ごはん作ってくんね。」

言ってベッドから起き上がろうとする紫原を、赤司は腕を掴んで引き戻す。彼は一瞬怪訝な顔をしたけれど、すぐに元の体勢に戻った。
愛おしそうにその体を抱きしめ、甘えん坊〜と楽しげだ。つられて赤司も笑顔になる…

「サンタクロースは、慌てん坊だな…」

「…?」

「もう、もらったよ、プレゼント…随分と前に…」

そう言ったきり、赤司は再び微睡みの世界に潜り込む。
紫原の「え、ちょっと、何それ???」という声も既に届かず、数秒後にはすやすやと幸せそうな寝顔を見せる赤司に紫原もそれ以上追求の手を伸ばせない。

「…」

何だか釈然としない気持ちだが赤司を抱き直し、紫原ももう一度、彼と共に静かな微睡みの世界にふわふわと浮かぶことにした。





「赤ちん、」

慌てん坊のサンタクロースは、早春の頃早くも赤司の元へ訪れていた。

「高校卒業したら、一緒に暮らそう…俺、頑張るから。赤ちんを、絶対に、幸せにするから…」

そうして彼がくれたこの暮らしを、

朝目が覚めて、隣に彼が在る幸せを、

今、全身全霊で感じている。



20131225 加筆20121227



2013/12/27 13:10 (0)


Happy Birthday 赤ちん!!!

受信ボックス フォルダ1(敦)
from 紫原敦
sub Happy Birthday!!!赤ちん!!!

赤ちん、誕生日おめでとー!!!

ずっと、ずーっと、大好き、大好きだよ。
生まれてきてくれて本当にありがとう。
赤ちんはさ、いっぱいいっぱい無理しちゃう人だけど…今日だけはせめて、
俺に甘えていてください。



2013/12/25 13:36 (3)


遊郭パロ完結
驚くほどの静寂が支配した部屋に、灯に照らしだされた影が二つ。
大きさも小ささも、ぐにゃり揺蕩い溶け合ってゆく影が羨ましかった。
一人のときにこの不可解な陰影は見えない。
隣を埋めるこの温もりがなければ、ぼんやりと灯る燈台の灯すら虚しいものに思えた。

「言ったら、…良いって、言ってくれた。俺ほんと無精者だからさ〜、…でも、こんな俺が真剣に商売に取り組むほど…好いた人なら、そうするといいって…。
むしろ、そんな人がいるなら、連れてきてほしいって…」

礼を言いたいからと。

…その言葉から、この紫がこれまでどれほどの放蕩息子であったかは想像だに難くない。




「…でも、一年、この一年は赤ちんとこ行くのも自制して、商いに精を出しなさいって。
…それが出来たら、俺の覚悟、認めてくれるって…。」

そうして月に一度に減った逢瀬。赤の前でも、精一杯の矜持と見栄で乗りきった。

「そんな…、で、も、そん、な…」

こんな身分の、それも男だ。許されるわけが。
未だぽつりぽつりと反論を繰り返す小さな体に、少しの間だけ接吻し半ば強制的に喧しい唇を塞いだ。

「…うち、元々真ん中の兄上と姉上は妾腹なんだよ、赤ちん。
父上がこの界隈の廓の娘を囲ってね、…病弱で、結局身請けはしたけど長くは生きられなかったんだ。
その人が生んだ二人は養子っていう扱いにしたけど、皆仲良かったしー、うちなら全然大丈夫、…大丈夫だし。」

「…」

そうはいっても。それでも。大丈夫なんてはずはない。

異質を受け入れられるところなど、地獄の果てにもあるのかどうか。

「何も心配ないよ。…ううん、心配、は、しちゃうと思うけど…不安にも、なっちゃうと思うけど…」

「紫、」

「今まで赤ちんが抱えてきたの、悲しい思いも辛い思いも。もう絶対、これからはさせない。俺が、全力で守るから、」

最期の日までと言わず、叶うことならあの世でも来世でも。

ぶつかることはあるのだろう。だが飽きることはない。

(俺は、この人の傍にいたい)

「赤ちん、」





「お待たせ。」





「待たせ過ぎだ、馬鹿…、…っ」

一時にも一刻にも感じた長い沈黙の末、そう言った赤を紫は優しく抱き込んだ。

二人幾度となく共に迎えた朝の、だが今日はいつもより輝いて見えた。


end.(お付き合いいただきありがとうございました!!!)

20131215  加筆 20131217



2013/12/17 18:55 (0)


遊郭パロ12→次回完結

何も言えないままの赤を置いて先に進んでしまう紫に赤は慌てて二言三言覆い被せるが、それにはすべて答えを用意されていた。

呆然とする赤の頬に涙筋が一本、すつつと…伝い流れゆく。

それを拭う紫の大きな手の温もりが、これは現実だと教えてくれる。

「そんなこと言ったって…お前…俺はここに借金のかたでいるんだぞ、身請けにいくらかかると思って…、」

「もう払ってきた。」

「、は、?」

「…だーかーらー、用立てたって、言ってんでしょ。」

はあとため息をつきながら、紫は気まずそうに頭を掻いた。

「赤ちんとこ行くの我慢してー…俺…商い頑張ってさ…」

そしてもう満足に仕事もできる、この醤油屋を任せられる、とお墨付きをもらった上で。

(遊郭の人を身請けしたい。添い遂げるつもりでいる)

前から考えていたことを、今年の初め親に伝えた。
親と言えどもひとたび商い事となれば商才に長けた旦那とその奥方だ。不安はあった。
仲を引き裂かれたりやしないか、赤にも迷惑がかかったらどうしよう。
緊張は正に天井知らずで、伝えきった頃には握りしめた拳の内から全身から吹き出すように汗が出ていた。


20131214 加筆20131215



2013/12/15 11:32 (0)


遊郭パロ11

他の、どんな男にだってやりたくない。
赤を自分だけの存在に。

それは、遊女にとっては不可能とも言えることだ。
赤は思わず笑いそうになった。
それだけの資金があるはずもない。
ここで一番の稼ぎ頭とはいえ、この身に抱えた借金は一生を以っても返せない。
…けれどそんな世迷言を、紫は真剣な顔で伝えてくる。普段の彼とは全く違う雰囲気に、何事か揶揄を口にしようとした赤も口を噤む。
しばし静寂の後、紫の方が口を開いた。



「身請けされてほしい。」



咄嗟に、理解した。呆然とはしながらも高速で回転した頭が導き出した答えに理性が悲鳴を上げる。
その言葉に、どれほどの歓喜を抱けばいいのか。
その言葉に、どれほどの恐怖を叫べばいいのか。
分からないまま口を噤んだままの赤に、紫もまたは無言で力強く頷いた。
いつもの彼からは到底信じられないほどの真剣な顔つきにそれが冗談でないと悟る。
恐怖が募る。歓喜が、追う。

「何を、」

ようやく紡がれた赤の声は震えていた。
おかしい、ここに初めて連れて来られたときだって、もっと落ち着いていられたのに。

(世迷言を、)

だが自分のそれとは対照的に、先だっての、そして続いた紫の声は落ち着き払っていた。
全てを理解し全てを受け入れた、覚悟の上の表情を見る。

「赤ちん、俺と、夫婦(めおと)になって。」

これまで酷いこともいっぱいしてきた。
頬を叩いた、髪を掴んで引きずったこともある。
そうして嫉妬心から酷く抱いて、出禁をくらったこともある。
付随してか独立してか、たくさん、泣かせたりもした。笑顔だけを見ていたいと願ったが、一方でその思いを打ち壊したのは自分だ。

赤はよく自分を「酷い男だ」と称したが(曰く「酷い男に惚れたもの」だと)。
けれど、見捨てないでいてくれた、ずっとずっと、好いたままでいてくれた。
とうに愛想など尽かし、自分などに囲われずとも客は絶やさなかったのであろうに。

「…」

無言でこちらを見つめる赤を、その忌みの眼を紫は覗き返した。
強くいつも同じ輝きを放っている瞳の奥、だが今はその表面が、心許なげに揺れている。
現れた涙膜、急に幼くなったかのような印象に、彼がまだ若く幼いのだということを痛感した。
紫と同じ、ただの子供だ。ただしその背に負った荷は辛く重く、その身に不要な強がりを強いた。
これから二人、背負った重荷の荷解きをしよう。
これから先、何があっても辛い思いなどさせない。

「ずっと一緒に、一緒に暮らそう…」

これより先は一本道。
時に立ち止まり、時に引き返すこともあるだろう。
だが枝分かれはもうしない。



我が全てを以ってあなたを愛そう。



20131212 加筆20131213



2013/12/13 23:25 (0)


遊郭パロ10

自分を見つめたまま固まってしまったように黙ってしまう赤の前髪を撫で梳く。
今度は払われることなく赤は心地よさげに目を細めただけだ。いつか、反射なのだと彼は言った。
お前に触れられているから、こうなるのだと。
そしてそれは決して嫌悪の仕草ではないことを自分は知っている。

いつかその身のすべてを手に入れたいと思った。
赤い髪、忌まれる眼、白い肌、凛と通る声、しなやかな肢体。
いつかは出会った頃を指し、強い執着を抱いたのは彼の美しい居姿だった。
その体を自分以外のどの男にも晒したくなく、独占欲故暴力に訴え出ることも度々あった。
…いくら自分が上客と言え、赤がその気になればいつでも切り捨てることが出来ただろう。
それなのにそうしなかった。そこに彼の想いと覚悟を見た気がした。
口では金子が用立てられればななどと呟きながら、その実行く末を定めている。
恐らく彼の希う人生の終焉には、傍に自分がいることだろう。行き着く先が大往生か心中か、それには全く頓着せずにひたすら紫を恋い慕う。

心はとうに決まっていた。
後はそれに、いと恋しい相手の覚悟が加われば。



…本当に、強い人だと紫は思う。
紫の気持ちが向かなければ、きっと赤は陰ながら一生を紫に捧げただろう。
彼にそうとは気付かれぬように。
いつの頃からだったか、それとも実は初めからなのか。
今ではそんな内面に至るまで、紫は誰よりも赤を愛している。
この二年、強い面も弱い面も少ないながら垣間見た。
頼りないながら自信だけはある、想いだけはある。
自分の持て得るすべてを懸け、この人を愛そう。この人だけを慈しもう。

(俺がこの先、この人を支えていく…。)

「赤ちん、」

呼べば、虚ろな瞳に光が戻る。
これまでも、紫が全く気付いていない訳ではなかった。
赤は紫を好いている。誰より愛してくれている。
誰より一番好いていて、とうに紫の執着など追い越していて、



「俺だけの赤ちんになってよ、」



20131211 加筆20131212



2013/12/12 18:27 (0)


遊郭パロ9

今日もまた一回の交わりだけに収まった彼の情欲。
それでも赤の方には負担は大きい。うつらうつら凭れかかる赤の頭を自身の胸に引き寄せ、体全体を包み抱く。
そのまま寝付かせようとしているようなその手つき髪を優しく梳いてくれている仕草に赤は首を振った。

寝たくない、眠りたくない。

すっかり短くなってしまったし機会の減ってしまった彼との逢瀬である。
一刻一時一瞬足りとも、例えまたたきのその瞬間でさえ無駄にはしたくない。
この行為自体に何の意味がなくとも、赤にとっては大事なことだ。大事なものだ。
我が身の存在、この世の存在より重きを置くべき大切な時なのだから。



例え、ここから何も生まれなかったとて。



つい瞼の下がってしまいそうな空気を打ち払うように頭を振り、紫から体一つ分身を空ける。
何事かと訝る紫の目をす…と見据え、普段は気怠げに下げられた目尻のその奥に隠された鋭い眼光を覗き込む。
燈台の灯りだけの灯る薄暗い室内で瞳の中心が僅かに開いているのが分かる。
その瞳の奥に自分は今どう映り込んでいるだろう、どれほど物欲しげに、浅ましく映っていることだろう。
心は苦しさに打ち震え、気持ちだけはふわふわと浮かぶ。
心許ない不安な心持ちはそのままについ反射で愛しいと思ってしまう。



相当性質の悪い恋煩いをもう二年抱え込んでいる。



(※次回からむっくん視点です)


20131208  加筆20131211



2013/12/11 21:39 (0)


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