自分の影響力は思ったよりも大きかったらしい。モデルを始めたばかりの頃、世間体を気にして明るく、誰にでも優しいモデルの黄瀬涼太を演じた。これはまあ仕方のなかったことだと言える。本意ではないにせよ、“モデルの黄瀬涼太”を演じていれば色々と楽なことが多かった。周りの話に合わせ、少し抜けたところを見せたりすれば、明るくて優しい黄瀬涼太とイメージはあっという間に広がっていった。

自分の名前が少し売れてきた頃から、女の子に告白されることが増えてきた。もともと告白されることは少なくはなかったけれど、一日に呼び出される回数がうんと増えた。女の子にちやほやされるのは嫌いではなかったし、自分に好意を寄せてくれることは純粋に嬉しいことでもあったから、何度か告白してきた女の子と付き合ったこともある。それでも自分の恋愛が長く続くことはなかった。理由は簡単だ。告白してきた女が揃いも揃って皆同じことを口にしたのだ。「思っていた黄瀬君と全然違った」と。
そりゃそうだ。だってそれはオレじゃなくて、オレが演じていた“モデルの黄瀬涼太”なのだから。告白してきた奴らが見ていたのは、欲していたのは、明るく、誰にでも優しい“モデルの黄瀬涼太”であり、その“モデルの黄瀬涼太”と付き合っている、という自分のステータスだったのだ。それに気づいた時、オレは愕然とした。世間では黄瀬涼太オレ自身ではなく、“モデルの黄瀬涼太”が黄瀬涼太として独り歩きを始めていたのだ。
世間から黄瀬涼太だと認識された“モデルの黄瀬涼太”を演じるのをやめ、素の黄瀬涼太を表に出したこともあった。しかしそれを見た周りの反応は冷ややかなものだった。やれ今日は機嫌が悪かっただの、やれあんなの黄瀬君じゃないなどと、言いたい放題言われた。挙句にはマネージャーからも世間体を気にし、オレに“モデルの黄瀬涼太”を演じ続けることを薦められた。
オレはこの時、過去の自分を殴りたくなった。あの時、明るく誰にでも優しい黄瀬涼太を演じさえしなければこんなことにはならなかったのに。素の黄瀬涼太を黄瀬涼太だと認識してもらえたのに。女の子からも、“モデルの黄瀬涼太”ではなく、オレ自身である黄瀬涼太を好きになってもらえたかもしれないのに。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。


そうして今日もオレは滑稽だと自分を嗤いながら“モデルの黄瀬涼太”を演じ続ける。いつか“モデルの黄瀬涼太”ではなく、黄瀬涼太自身を見つけてくれる人が現れることを夢見ながら。







僕になれなかった僕は深海を漂う
140821







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