※自傷行為表現あり




ざくり、

「あ、」

やってしまった。裂け目から流れる赤を見てぼんやりとそんな事を考えた。今まで考えごとしていたのに、いつの間にか握りしめていたカッターによってできた傷口はじくじくと痛む。とりあえずどうしようか。星月先生にバレないようにしなければ。まあでも星月先生は珍しく机に向かっていて書類に集中しているから此方に気付くことは無いだろう。そう思い、絆創膏を貰おうと立ち上がった瞬間、

「どうした?…!」

星月先生が此方を振り返った。そして突然のことに隠し損ねた私の手首を見て表情を強ばらせる。ああ、なんてタイミングが悪いのだろうか。この位置からでは星月先生に手首がはっきりと見えてしまうじゃないか。星月先生は硬い表情のまま私をソファに座らせると、消毒液とガーゼと包帯を持ってきて手際よく手当てを施した。

「嫌いになりますか」

丁寧に巻かれていく包帯を眺めながらポツリと呟くと、何をだ?と問われた。

「こんな事をしている私を、嫌いになりますか」

「名前、」

「私、時々わからなくなるんです」

何か言いかけた星月先生の言葉を遮って私は続けた。

「突然どうしようもない虚無感に襲われて、どうして自分が生きているのかわからなくなるんです。苦しくて苦しくて、そして気がつくといつも手首を切っていて。でも不思議と痛いのは傷だらけになる手首じゃなくて心臓なんです。心臓がいたくなって、息ができなくなって、漸く生きているような気がして、でも苦しくて。苦しい、苦しいんです。ねぇ、星月先生、」

自分自身何を言っているのか全くわからなかった。それでも溢れ出る言葉が口をついて出てくる。

「私は、生きてますか」

そう問いかけた途端、痛いくらいに抱きしめられた。

「星月せんせ、」

「すまん、名前」

星月先生の謝罪の意味が解らなくて内心戸惑った。やっぱり、こんな私の事が嫌いになったのだろうか。

「気づいてやれなくて、ごめんな」

「え、?」

ぎゅう、と私を抱きしめる腕の力が強くなった。

「私を、嫌いにならないんですか」

「嫌いになるわけないだろう」

その言葉を聞いてひどく安心して、星月先生の白衣をぎゅっと抱きしめる。

「ねぇ、星月先生」

「何だ?」

「私は今、生きてますか」

「…ああ、名前は今、ちゃんと生きているよ」

その言葉に、星月先生の腕の中で、少しだけ泣いた。



―――
病んでる子を書いてみたかったけど玉砕←
120617







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