※ちょっと重い話


生まれた時からわたしは忌み子として身に余るような罰を与えられていた。物心付いたときにはすでに親もいなく、吐き出すような暴力と蔑んだ目を向けられる毎日だった。
血が通っていないのではないかと思うような酷く白く、冷たいわたしの肌にはところどころ蛇のような鱗があった。だからか「忌み子」、「妖混じり」と村の人々はわたしの事をそう呼んだ。誰もわたしの名前を呼んでくれなかった。いや、そもそもわたしには名前など無かったかもしれない。だからといってべつに悲しいことではなかったけれど。


ああ、今日は毒を盛られたようだ。毒を盛られたのは初めてではない。だけど毒を盛られてもわたしが死ぬことはなかった。毒の苦しみに喘いでも三、四日たつと嘘のように消えてしまうのだ。ちらりと聞こえた話だと、わたしが蛇の妖混じりだから少しの毒なら効かないのではないのか、ということだった。本当かどうかは定かではないけれど。だけど今日のそれは今までと毒の強さが違うらしい。さっきから強烈な眩暈と体の痺れが襲い掛かってきて気持ち悪い。
今日わたしは死ぬのだろうか、遠ざかる意識のなかそんなことをぼんやりと考えた。


目を開けると見覚えのない場所だった。鬱蒼と覆い茂る木々からするとどこかの森らしい。どうしてこんな所にいるんだろう、とは考えなかった。おおかたやはり今回も毒で死ななかったわたしをいよいよ捨てたのだろう。森に捨てれば獣に喰われるか、妖に襲われて死ぬだろうと考えたとこだろうか。立ち上がろうと木にもたれかかっていた痣だらけの体に力を入れるが、ピクリとも動かなかった。眩暈さえ無かったが、まだ毒が抜けきっていないようだ。このままなら獣や妖に襲われるのも時間の問題か、そう頭の端で思った途端、前の茂みの方からガサリ、と音がした。ああ、もうか。思ったよりも随分はやいな。
じっと前の茂みを見つめていると、やがて巨大な蛇が姿を現した。白っぽいかなり大きい蛇だ。喰われるかもしれないというのに不思議と恐怖は湧いてこない。じっと蛇を見つめていると、蛇はするするとこちらに近づいてきた。喰われるな、と思って静かに目を閉じる。

「おやおや、こんなところに子供なんてめずらしい」

刹那、突然人の声がした。不思議に思って目蓋を持ち上げると、先ほどの白い蛇ではなく、肌が少し浅黒い淡い緑色の長い髪の男の人が目の前に立っていた。
視線を動かして当たりを見回し、蛇を探していると、男の人は微笑んで問いかけた。

「少し前に何人か人間がこの森に来ていたようだが…お前はどうしてここにいる?」

「捨て…られた」

「ほう、何故だ?」

「わたしが妖混じりで、忌み子だ…から」

妖混じり、その男の人は小さく言葉を反復すると、前にしゃがみこんでわたしの手を取り、鱗のある腕を見つめた。

「お前は蛇の子かい?」

「みんな…は、そういっ、てた」

男の人の問いに答えると彼はそうか、と言ってわたしの痣だらけの腕をそっと撫でた。

「可哀想に、痛かっただろう」

男の人の発言にわたしは目を見開いた。今までそんな言葉をかけてもらった事が無かったからだ。男の人は眉を少し下げながらくしゃりとわたしの髪のなでた。その大きな手に、何故か酷く安心する。

「私は白緑。お前の名は?」

名前。なま、え。…わたしの、名前…?

「わから、ない…」

俯いてそう告げると、白緑はきょとんとした顔になり、わたしの頭を撫でる手とは反対の手を顎に持っていき、思案するようにふむ、と唸った。

「名前」

「…名前?」

「そう、お前の名だ」

与えられた名前と言う名を確認するように呟くと、気に入ったかい?と訊ねられた。こくりと頷くと、それはよかった、と白緑はまたわたしの頭を優しく撫でた。

「名前、お前を私の庇護下に置こう」

言われた言葉の意味がわからずに白緑を見上げると、彼は穏やかに笑ってわたしに手を差し伸べた。

「私のもとにおいで、名前。私はお前を傷つけたりはしないよ」

差し伸べられた手をとろうと手に力を入れると、さっきまで動かなかった手がゆっくりと持ち上がった。そのまま白緑の手のひらに自分のそれを置くと、優しく握りしめられる。

「一緒に帰ろうか、名前」

立ち上がり、白緑に手を引かれながらゆっくり歩き出す。
白緑とわたしの二つの姿は夕陽が差し込む森の中に吸い込まれて消えていった。


―――
な が い !
そしてかなり難産だった作品
白緑の口調わからん…!
120422







*


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -