「…どうしよう、これ」
私は自分の目の前にあるチョコレートを見てため息を吐いた。
今日、2月14日は言わずと知れたバレンタインデーで、女の子が好きな男の人にチョコレートをあげるという、チョコレート会社の思う壷、としか言いようの無い日。まあ、かく言うわたしもそのチョコレート会社の思い通りになっているんだけれども。
私は元々料理が得意ではない。と言うかできないと言っていい。そんな私は一応お菓子屋さんに売っているチョコを用意しようと思ったんだけど、溶かして固めるだけなら私にだってできるだろうと思って手作りを作ることにした。が、その考えが甘かったようだ。溶かして固めるだけだったチョコレートは、何故か本来の甘さはなく、とてつもなく苦くなっていて、改めて自分の料理の腕前の無さを思い知らされた。
そんなことはさておき、とりあえずこの私の目の前にある物体をどうにかしなくては。
「とりあえず、冷蔵庫に入れておこう」
冷蔵庫にチョコレートを入れて時計を見ると、針は14時を指していた。幸いまだグリーンはジムだし、帰ってくるまで時間があるから、そこら辺のお菓子屋さんでチョコレートを買ってこよう。そう思ってお財布を取りに行こうとした時、ふいにドアが開いて、
「ただいま」
「ぐ、グリーン!?」
なんというタイミングだろうか、グリーンが帰ってきた。
「ジ、ジムはどうしたの?」
「あー、挑戦者もいねーし閉めてきた」
「そ、そう…」
「それよか、なんかチョコの匂いしねぇ?」
そう言いながらグリーンはキッチンの方へと歩いていく。まずい。これはまずい。このままいけばあの失敗したチョコとグリーンが対面してしまう。それだけは何としてでも避けなければ!私はさっと冷蔵庫の前に移動して、冷蔵庫のドアを背中で押さえ込んだ。
「何だ?どうしたんだよ名前?」
「いや、えっと、その…」
グリーンはきょとんと私を見て、やがて意地悪く口角を上げた。
「チョコといえば、そういや今日はバレンタインだな。名前からはねぇの?」
「こ、これから用意しようと思って!」
「ふーん?じゃあ何で必死に冷蔵庫のドア押さえ込んでんだ?」
ニヤニヤと笑うグリーンのその顔を見て、私は墓穴を掘ったのだと悟った。これではここにチョコがあると言っているようなものだ。
「あっ、」
私が言い訳を探している隙を見て、グリーンは冷蔵庫からあっさりと私を引き剥がした。そして私が止める間もなく冷蔵庫を開け、チョコを見つけてしまう。
「あるじゃん、チョコ」
「そ、それは失敗したやつだから!今から買ってくるから食べちゃだめ!」
私が必死に説明しているのに、何を思ったのかグリーンはそのチョコを一つ摘んで食べてしまった!
「ああああっ!」
「苦っ…」
「だから失敗したって言ったじゃん、ばかぁ!」
ばしばしとグリーンを叩くとグリーンは痛ぇ、と全く痛そうでは無い声で言った。その間にも、グリーンはチョコを摘んで食べている。
「やっぱ苦ぇな」
眉間にちょっと皺を寄せて呟いたグリーンの言葉にじわりと視界が歪んだ。
「む、無理して食べなくていいよ!」
チョコが乗ったお皿を取ろうとすると、その前にグリーンがお皿を奪うように取った。
「いや、食う」
「だ、だって苦いんでしょ!いいよ、ちゃんとチョコ買ってくるから!」
「バーカ、料理苦手な名前がわざわざオレのために作ったんだ、食べないわけにはいかないだろ」
そう言ってグリーンは私の作ったチョコを全部食べてくれた。
「ごちそーさん」
ぎゅっと私を抱きしめてきたグリーンの背中に、腕を回して抱きつく。
「ねぇ、グリーン」
「ん?」
「今度はもっと頑張るから…、また来年も貰ってくれる…?」
「たりめーだろ」
私の大好きな笑顔でキスを落としてきたグリーンの唇はちょっと苦かったけど、キスの甘さと混ざって丁度良かったかも、なんてね!
―――
ハッピーバレンタイン!
120214
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