短編 | ナノ
ミス・アンダースタンド [1/1]














恥なら、いくらだってかき捨てる。

肌も心も、容赦なくさらけ出す。






……だけどまだ、アタシはあなたを諦めてない。
























ミス・アンダースタンド












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ガラン、としたA組のベランダにいる女、name。

そのベランダと繋がる教室側にいるオレ。






『好きだよ、サスケ。』






ベランダの柵に肘をつくnameは、背後のオレを見てもいない。



視線を交えていないことを幸いに……オレはバツが悪そうに、首後ろに手をやって視線を落とした。






「……悪ぃ………好きな奴、いるんだ。」

『うん、知ってる。』






だが意外にもサラッと答えてみせれば、nameは柵を掴んで後方に身をのけぞらせる。






前髪も何もかもダラリと重力で垂れる髪。

好きな男相手だからといって、特別可愛くあろうとか、そういうことはしないらしい。



むしろ彼女は、ふざけたように背後のオレをとらえた。






『知ってるよ。伊達にサスケのこと、見てきてないから。』

「……?じゃあ何で、」

『それでも。』






ぐりん、勢いをつけて身を起こせば、その目が遥か遠くを見る。






『アタシがこれから先、別の誰かと付き合ってもキスしてもセックスしても結婚しようと……あなたのこと、好きでいるから。』

「…………。」

『好きだよ、サスケ……忘れないで、あなたが好きなアタシのこと。』






……正直意味がわからなかったが。

この日はそれだけ言って、nameは颯爽とカバンを手に駆けていった。
























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それから数日も経たないうちに、オレは晴れて好きだった女と付き合い始めた。






向こうも前から好きだったようで、両想いだったことに少しうかれた。



それからは典型的なカップル。

登下校は手を繋いで、甘い言葉を囁きあって、キスの味も覚えた。






自然とnameのことも、nameに告白されたことすらも忘れていた。



同じクラスではない上、特別話をする間柄でもない。

当然といえば当然だった。






……だがそんなある日、変革とも言うべき事件が訪れる。

オレはその日も、好きな彼女に腕を絡められていたのだが。
























―――廊下の曲がり角正面から、nameを見たとき、奴も一人じゃなかった。



当たり前のように、nameは違う男の腕を掴み、幸せそうな顔をしていた。

オレが驚きと混乱でガン見するも、彼女はオレに気づいてもいないように、横の男を見るばかり。






スッ…



そうしてこの日、お互い付き合う相手と腕を絡めたまま。

何を言うでもなく、すれ違った。
























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それからオレは、今まで忘れていた期間を埋め合わせるように、nameのことばかり考えるようになった。






別に今の彼女に不満があるわけじゃない。

なのに、無性にnameのことが頭をよぎって離れない。






―『アタシがこれから先、別の誰かと付き合ってもキスしてもセックスしても結婚しようと……あなたのこと、好きでいるから。』―






……所詮女心は秋の空、とは言うものの。

オレの脳内で一度引っ掛かってしまった疑問は、日増しに膨れ上がっていくばかり。






―『好きだよ、サスケ……忘れないで、あなたが好きなアタシのこと。』―――…
























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「彼女とは、別れた。」

『……そう…。』






数ヵ月後、今度はオレがコンタクトを取れば。

A組教室にいるオレと、ベランダにいるname、その境にある開口部は開いたまま。






前回と唯一違うのは、nameがオレと向かい合うようにしていること。






『どうして?突然そんな…仲、悪かったっけ?』

「いや……オレが他の女に気がある以上、彼女とダラダラ付き合うわけにもいかなかったからな。」

『ふーん……で、その気のある子って?』

「察してるだろ、この状況……お前だよ、name。」






オレが真っ直ぐ見つめれば、別段喜びも、驚きもしないname。






『アタシかぁ…そっかぁ……。』

「……なぁ。あのとき言ったこと、まだ本当に、」

『気があるとは言っても、まだ好きになった訳じゃないんだ?』

「……!いや、まぁ…、」

『あはは、隠さなくてもいいよ。でも好きな確証もないのに彼女さんと別れるなんて……後ろめたかったんでしょ?一人の女の子に集中できない自分が。ホントそういうとこ真面目だねぇ。』






だがそう言うname本人、至極真面目な女だ。



何故なら他クラスに友達がいようと、用事を頼まれやむを得ないときでも。

彼女は、自分のクラス以外に軽率に足を踏み入れようとはしない。






“廊下は走るな”くらい、つい忘れがちにされてしまう……そういった些細なモラルすらも守る女だった。






『アタシも、最近別れちゃったんだぁ。ただの偶然だけど。』

「!」

『サスケが今アタシを好きじゃなくても、関係ないよ。今こうしてアタシに会いに来てるってことが、アタシの全て。』






するとnameは、その境界線をあまりにもあっさり跨いだ。



オレが意表を突かれてる間にも、彼女はA組の教室の床を踏み、オレの前まで歩み寄る。






『ファーストキスも、処女も、無くしちゃったけど…………
























アタシが誰かと結婚しちゃう前に、サスケが来てくれて、良かったよ。』






―――このときオレは悟った。



つまりはオレに意味深なセリフを吐いたり、急に別の男と付き合いだしたりしたのも……不可解な行動でオレの注意を引き。

オレの意識がnameに向くよう、仕向けるため。



何て計算尽くしな悪女だろう、そう思ったのもつかの間。
























―――その片目から、流れ星のように、一筋。



それを見て、彼女も不安だったことを知った。






オレがnameに気を持つ保証なんかない。

見よう見まねで違う男と付き合って、その身を低してまでも彼女が手に入れようとしたオレという男の存在。






―「……悪ぃ………好きな奴、いるんだ。」―

―『知ってるよ。伊達にサスケのこと、見てきてないから。』―






何より好きな女がいるオレの気持ちを優先した、nameという女のソレは。



オレの彼女を蹴落としてでもオレと付き合おうとする貪欲な女たちより、よっぽど純粋で、澄みきった愛だった。






『好きだよ、サスケ……忘れないでいてくれて、ありがとう。』






今にも崩れそうな笑顔を向けたnameに、吸い込まれるようにキスすれば。






……自分が覚えたキスよりも、遥かに甘い味がした。






2014/01/02
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参考資料:『ミス・アンダースタンド』/椿屋四重奏

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