短編 | ナノ
とても痛い痛がりたい [1/1]














ずっと痛い、何で痛い。

胸のこの辺がすげー痛い。
























とても痛い痛がりたい












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もー痛い、すげー痛い。

スーパー激痛だコノヤロウ。






『どしたの飛段?浮かない顔して。』

「……はっ、別にぃ。」

『何よそれ、短絡的なあんたが一丁前に隠し事なんかして。』

「はぁ?んなことしてねーしぃ。」

『なになに、悩み事?うわーアンタに悩みなんてあんの?』

「あーうぜーこのアマまじで呪い殺してー。」

『あんたに殺されるくらいならカラスの餌にされる方がまだマシよ。』






そんな憎まれ口を叩くのは、オレの前の席に居座るnameっつー女。

お互いが並んだ窓際の特等席で、何かあればすぐオレの方に絡んできやがる。






『それでも慣れないことするの、良くないよ。飛段らしくない。』

「……!」

『アタシにくらい相談してよね、ばか。』






そんなセリフを言い終えて、奴は早々にクルリと正面に向き直る。

奴の背中を見つめながら、今の言葉がグルグル頭を廻り始めた。






「……しねーよ、あほ。」






それにポツリと返事をすれば。

オレは今日も、その何も語らない奴の背中と会話する。






―――お前はほんと知らねーだろうがよ、ほんとはオレだって伝えてーんだ。






お前を見るとすげーツラいってこと。

お前が近くにいると、胸のこの辺りが苦しくなっちまうってこと。






―『アタシにくらい相談してよね、ばか。』―






何でかって?んなもん知るか。

ただこの痛みの原因はnameだっつーことだ。






『ねー飛段、どうせ教科書ないんでしょ?ほら見したげる。』






そう言って授業中には、そのマーカーで色付けされた教科書を無料レンタルしてくる。誰も頼んじゃいねーっつーのに。



だがそうやって一方的に教科書を押しつければ、あいつは平然と隣の男子と席を繋げた。






『ねぇ二ノ宮くん、教科書みして?』

「はぁ?またかよ、お前もあんな奴ほっときゃいいだろ。忘れる方が馬鹿なんだからよ。」

『まぁまぁそうカッカしないの。いいじゃん減るもんじゃないし。』

「ったく……今回きりだぞ。」

『とか言って次も見してくれる二ノ宮くん優しー。』

「優し……ってお前なぁ、」






そんな掛け合いを繰り広げる奴が、隣の男子と楽しそうに喋るnameが視界に入ろうものなら。

あの痛みは更に強烈な痛みとなってオレを襲ってくるんだ。






音にするなら「ヒリヒリ」「ズキズキ」「キリキリ」「ビキビキ」。






あー痛い、すんげーツラい。

最近のオレはどうかしてる。
























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その数日後だったか、放課後nameに呼び出された。

場所は定番中の定番、屋上だ。






「さみー、いま何月だと思ってんだよ。」

『ん?11月だけど?』

「んなもうすぐ冬到来ってときに屋上来る奴があるかよ、頭イカレてんのかお前?」

『夏にかまくら作ろうって言ってビーチの砂山に埋もれたあんたよりは正常よ。』






またお得意の揚げ足とりを披露すれば、nameの奴はフェンスの網目に両指をかけ遠くを見た。

そのスカートが秋風を受け、ヒラヒラと動いてはまた落ち着いてを繰り返している。






「で、何なんだよこの状況はよぉ?オレだって暇じゃねーんだっての……ってあー言わせねーぞ!どうせまたゲーセン行って帰りの電車賃なくす羽目になるとか言うんだろお前、」

『飛段はアタシと話すの、好き?』






また例の揚げ足とりに備え防衛本能が剥き出しになるオレに対し、nameの言葉は唐突だった。






……はぁ?






『アタシと一緒にいるの、楽しい……?』






その言葉を発するために、こちらを振り返っては真っ直ぐオレを捉える瞳。






「……何わかりきったこと聞いてんだよお前。」






オレは迷わず歩み寄った。



次第に近まる距離、ビクつくnameを逃がさんばかりに追い込めば、オレはガシャアンと両手で強く網目を掴み込んだ。






するとどうだろう。

オレとフェンスに挟まれたnameが、力んだ様子で近距離に迫ったオレを見上げている。






―『あんたに殺されるくらいならカラスの餌にされる方がまだマシよ。』―






いつもオレを小馬鹿にしてくるnameが、このとき何故か小さく見えた。

このときばかりは、オレはこの女を制圧できた気がした、けど。






―――ズキズキ、ビキビキッ……






また、あの痛みが胸を襲う。もう、耐える気力も起きなかった。






「好き、なわけねぇだろ。」

『……え…、』

「お前が近くにいるだけでこっちは迷惑してるっつーのに、」

『…………。』

「ふざけんなよ、オレはお前のせいで毎日ひでー思いしてんだよ、あ"あ!?」






ヒリヒリズキズキビリビリギリギリ






「お前なんか居なくなりゃいーんだ!!そうすりゃオレのこの苦痛は収まんだからよぉ!!」






ビュウッと、ひときわ強い秋風がオレの言葉を拐っていった。



学校中に響いた気がした。少なくとも校庭にいる奴らには聞こえただろう。






『……そう、なんだ……そうだったんだ。ごめん。』

「…………。」

『もう、きっと迷惑かけないから、』

「あーそうしろ。」

『もう絶対、名前だって気安く呼ばないから……。』






すっかり萎びた声で屋上の扉に向かうnameが、その重い扉に手をかける。






『じゃあね、飛段……ありがとう。』






何に対する礼なのか。

nameは焼き付けんばかりにオレを見て、それから向こうに消えていった。






「……気安く名前、呼んでんじゃねーかよ。」






という言葉を一人ぼやき。

だがオレは少なからず、これであの痛みが良くなるんじゃないかと期待を込めてこの場を後にした。
























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もう無い、どこにも無い。

あの痛みは和らぐどころか、もうすっかりどこにも無くなっていた。






―「今日でnameは転校する。みんなで気持ちよく見送ってやろう。」―






nameが消えて、会うこともなくなって。

あの痛みの原因が居なくなり、文字通り平穏な日々がしばらくオレを歓迎した。






―――だが再び、その痛みが再発した。






「痛ぇ……まじで痛え、つーか前より酷くなってんじゃねーかよコレ……ッ!」






この痛みの原因でしかなかった女がようやく消えて、これで心置きない生活が送れると思っていた矢先にだ。






オレはnameに呪われちまったのか、なんて馬鹿なことも考えてみた。

けどどうしてか、この痛みからはそんな毒々しい感情はくみ取れなかった。






―『もう、きっと迷惑かけないから、』―






痛みはどこにも無いはずなのに。

ツラいことなんかないはずなのに。






―『もう絶対、名前だって気安く呼ばないから……。』―






痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…………
























何が痛い、何で痛い。






―『じゃあね、飛段……ありがとう。』―






どうしてこんなに痛がりたい……?






2017/01/15
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参考資料:『とても痛い痛がりたい』/窓付き

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