短編 | ナノ
コンプレックス・ラバー [1/2]














あぁ神様、あなたは何でこんな不平等な世界をおつくりになってしまったのでしょう……。
























コンプレックス・ラバー













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『男の人ってホンッット勝手!!!』






ダンッとグラスを降り下ろし、乾杯早々啖呵を切ったアタシ。

仕事帰りのお客たちで、週末の居酒屋は大いに賑わっていた。






『職場じゃ“残業してでも働く責任感ある女性がいい”なんて語るくせ、終業直後に退勤する美人OLの連絡先ばっかり知りたがる!!』

「はぁ。」

『加えてすれ違う子が可愛ければ親切にするわ、飲みの席じゃ美人にしか話しかけないわ、結局ブスには興味ないんじゃない!!』

「そーだな。」

『むしろはじめから“美人しか受け付けられません”ってハッキリ言えばいいものを、口ではいっっくらでも綺麗事並べちゃって!!この前のバレンタインもさ、手作りケーキ渡して告白したら何て言われたと思う!?“そういうの重すぎるから無理です”だって!!可愛い女の子がそういうことしたら二つ返事で承諾するくせに!!』

「あぁ。」

『いくら料理が出来ようが性格がよろしかろうが、外見ひとつで奴らはそれに向き合おうともしない!!結局は顔なんでしょ、顔!!ほんっと分かりやすいんだから、馬っ鹿みたい!!!』






そんな苛立ちを沈めようと、またアタシはグイッとアルコールを傾けては、流し入れる。



だがそんなアタシの目の前で、退屈そうに頬杖をつく人物が。余計アタシの勘に触って仕方がない。






『ッ…あんたもそういう奴らと同類なのよ!!このスケコマシ!!』

「そーだな。」

『いーわよねぇあんたは!中身がダメでも外見でいくらでもやりくり出来るんだから!!』

「まぁな。」

『っていうかさっきからアンタの返しが適当過ぎるんですけど!?他人事だと思って……!!』

「毎度のことだしな。んで、今回で何回目だよフラれんの。」

『聞いて驚け!!中学校時代から続くアタシのバレンタイン告白率100%!フラれ率100%の通算13回目だコラァ!!』

「フッ……見事なもんだな。」

『褒めるなアンタ!!嬉しくないから!!』






必要以上に食って掛かるアタシの手前、含み笑いを浮かべながら軟骨唐揚げにレモンをかけるこの男……名はサソリ。

中学の頃からの腐れ縁で、今では大切な飲み仲間だ。



だが如何せん容姿が整っているもんだから、大抵は話題となる愚痴の批判対象側になってしまう。






「お前もガッツキすぎなんじゃねぇの?ハナから狙いに行くから野郎共が退いてくんだよ。」

『そんなこと言ったって……ねぇ?だって婚活目的の合コンなんか、みーんなギラギラしてるのが当たり前でしょう?』

「んなもんケースバイケースだろ、つーかお前婚活なんかしてたのかよ。」

『いーじゃん!どうせアタシに声なんてかかんないんだし!だから周りの女の子見ていろんな手口探って、今から勉強してんのアタシ!』

「やめとけお前、んな場所に来る輩にいい粒なんざ揃っちゃいねぇよ。」

『はぁ?じゃあアタシはどこに行きゃあいいのよどこに!?』

「どこにも行くな。」

『無茶ぶり言うな!!つーかそんなに言うんならせめてアドバイスくらいないわけぇ!?あんたソッチ系のプロでしょプロ!内容によっては妥協してやらなくもないけどぉ!?』






もはや投げやりにそう振ってから、アタシはお箸で唐揚げ皿を引き寄せ、パクリ。

え?意地汚いって?いーのいーの!チャラヘッチャラ!






「アドバイスか、そうだな……。」






すると以外や以外、奴はその姿勢を腕組みに切り換え、後ろの背もたれいっぱいまで寄りかかり思考している。



そんなちょっとした挙動も絵になるんだから、ホント素がいい人間はいいわよね、まったく……。






「まぁアレだな。もっと自分に自信を持て。」

『…………。』






と、そんなことを無関心に放つサソリ。

言われたアタシはといえば、ズコーッと音が出んばかりにテーブル上に突っ伏してしまう。






「おい大丈夫か。もう腹くだしたのかよ。」

『〜〜…!!大丈夫か、じゃないわよ!!何その子供騙しなアドバイス!?アタシは進路に悩む受験生じゃないのよ!?』

「そうじゃねぇって、どれか一つに自信持てっつーことだ。」

『はいぃ?』

「そりゃあ外見にコンプレックスがあんのは結構。けどよく言うだろ、体のパーツのどっか一つだけ人並み以上に自信持てるとこがありゃいいって。胸とか足とか腰とか、指とか鼻とか唇とか。」

『はぁ……』

「その中のどれかに自信なくても“ここだけは”っつう譲れないとこを武器にすりゃあいい。まぁ体の部位に限った話でもねぇが。」






そんなもっともらしいことを言ってから瞳を閉じ、ようやくビールを一口含んだサソリ。

だけどそんなこと急に言われたって、今のアタシにそんな特別なものが備わっているとは到底思われない。






(それに比べてこいつは……)






アタシが再び息を漏らし見上げた先で、サソリがその口の端についた泡をチロリと舐める。






……何気ない動作でさえ、人の目を惹き付ける。いちいち綺麗で、ほんとイラつく。






『あーもう……!いくら凡人が努力したってねぇ、生まれ持ち端正な人種には届きっこないんですよバーカ!!』

「案外そうでもねぇよ。」

『いーや!そんなことあるね!どっちにしろズルいと思わない!?何の努力もなしに始めから良いもの備わっちゃってさ!』

「無い物ねだりしても仕方ねぇだろ。」

『っ……!!あーのーねぇ、そう言うあんただって外見に苦労しなかったわけだし!?毎回美人な彼女さん引き連れて、イチャイチャして、さぞかし下の息子さんは毎日びんびんリフレッシュしてることでしょーよ、あー羨ましい!!』

「お前そういうの恥じらい持ったほういいぞ。」

『恥じらいもクソもあるか、こんちきしょう!!サソリ注文ボタン押して!生ビール追加!!』

「そこはせめてチューハイにしろよ、おっさんかテメーは。」

『飲まなきゃやってらんないわよ!こんな人生!!』






もはや投げやりにグビグビとグラスを空にしてから、アタシだけが追加のオーダーを済ませる。

そうして酒が来るまでの暇(いとま)を繋ごうとするが、早くも眠気に見舞われるアタシ。






(は〜あ……またこのパターン、何番煎じだろう……。)






せっかく目の前で、奴が席を共にしてくれてるのに。

しかもいつだってアタシが八つ当たり気味に、サソリを責めてばっかりで。



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