短編 | ナノ
瞬歩 [1/2]














『私好きだよ、その持論。』






オイラたち以外空っぽになった、大学の外れた講堂内で。

ちょうどお互いが教壇の端と端、くらいの位置から声をかけてきたそいつ。






「……お前さっき、オイラが発表してたときには何とも言わなかったじゃねぇか。うん。」

『でも内心はずっと頷いてた。私にとって、君の弁論は正しいよ。』






それを語る奴の目は、まだオイラが消しかけのホワイトボードに向けられている。






今回与えられた発表のテーマは……芸術について。

もちろんオイラは“一瞬の美”についてだ。






『全てに終わりがあるからこそ。今あるものを、余計大切にしたくなるんだよね。』






ようやく向けられた人懐っこそうな笑みに、その言葉に。このときのオイラは、直感的に思ったんだ。






―――あぁ……お前とはこの先、長くは続かない気がするって。
























瞬歩(しゅんぽ)












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その日はじめて言葉を交わしたnameだが、奴は決してオイラの発表に感化されたわけではない。

元からnameにも“一瞬の美”への理解があって、今回はその同種が互いに引き合わされたという感じだ。






『私と付き合ってほしいな、夏の終わりまで。』






……けど、だからこそ。一瞬を好く奴の気持ちなんか、オイラはとっくに知り尽くしてる。



こいつは男女の関係すらも、短く儚いものでいいと思ってるんだ。






「別にいいけどよ、うん……いやにリアルだな、その期間。夏までに何かあるのか?うん。」

『ちょっとやっておきたいことがあって。いいでしょ?そのほうが後腐れなく、綺麗な関係のまま終われるから。』






はたから見ればおかしな会話だよな。続けないって決めつけた恋に何の意味があるのかって。






それでもオイラは承諾した。何故かって、お互いが一瞬の儚さに魅了されているから。

普通に付き合っていたかと思えば、ある日事切れるみたいにパッと離れる……このときのオイラも、ただそれでいいと思ってたんだ。






『今が5月の下旬だから……8月末まであと3ヶ月だね。』

「あぁ、まぁ……」

『3ヶ月間よろしくね、デイダラ。』






そこで場面が横に流れた。

次に立っていたのは、大学の図書館。






この日オイラたちは、次なる発表に向けて課題を見つけるべく、資料集めに没頭していた。






「瞬歩……?」

『そう。一般では忍者みたいな瞬間移動のこととして捉えられてるみたいだけど。』

「それが何だよ。」

『私は違うと思うんだ。瞬歩はそんな超人的な能力じゃなく、誰にでもできる。誰にでも起こり得ることなんじゃないかって。』

「……どういうことだよ、うん。」






高々と積み上がった本棚に挟まれたその場所で、突然それを語り出すname。



奴は開いていた本を、パタンと閉じた。






『よく人にはさ、記憶に残ってるシーンってのがあるでしょ?それがある日何らかのキッカケで、フラッシュバックするみたいにパッパッパッと脳裏をよぎる、あれ。』

「あぁ、走馬灯ってやつだな。うん。」

『でもあれはきっと、頭の中での出来事なんじゃなくて、からだ全体そのものが時空を移動するすべなのかなって。』






オイラたちの感受性は、基本的にはよく似ている。

それでもこのときに放たれた“一瞬”に対するnameなりの考え方……それはこのオイラでも今まで意識しなかったようなこと。






『瞬間的に時を駆ける……時空を移動する。それが本当の瞬歩って言うんじゃないかな。』

「……そっちのほうが超人的だと思うぞ、うん。」

『あはは、そう?でもわりと起こる気がするけどなぁ、ふふっ。』






―――世界が、広がる。己の凝り固まった“一瞬”への見方が、また拡がる。

ただそれだけで、お互いがより深く繋がっていられて。



オイラは小さく笑った。nameもずっと、笑ってたんだ。
























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場面が矢のような早さで入れ替わる。季節は夏だ。

オイラたちはその日、祭りに行ったんだ。






浴衣に袖を通すお前は、本当に可憐で、可愛くて、目にも色良く写ったけど。



一通り屋台を楽しんでから……立ち止まっては、ふとこぼした。






『本当はね。お祭りなんてどうだっていいの。』






その指につけた、水風船のゴムがたゆんでいる。

オイラも合わせて立ち止まり、不信がっていれば顔が上げられた。






『本当は、私……デイダラと花火が見たかっただけだから。』






それ以上のことは言われなかった、けど。

オイラの思考は、今日まで忘れていたことを確かに思い出し、硬直した。






―「夏までに何かあるのか?うん。」―

―『ちょっとやっておきたいことがあって。』―






あのとき言ってた、nameの“やりたいこと”。






(それって、もしかして……オイラとこの花火を見ることなのか……?)






そして次にはヒヤッとした。頭から冷水を被ったみたいに冷やされ、自覚する。



オイラたちのタイムリミットが、もうすぐそこまで迫っているということ。






―『本当は、私……デイダラと花火が見たかっただけだから。』―






だから、この直前の一言が。






“私たちの終わりが、見たかっただけだから……。”






まるで、そう言われた気がしたんだ。


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