短編 | ナノ
嘘つきメーカー [1/1]














それは多分。君だけに送る、本音のサイン。
























嘘つきメーカー












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『ねぇ。どうして嘘つくの。』






学校の屋上。今日はさほど寒くもない。

そんな秋の風にさらされて、アタシは横にいる人物に問いかける。



いつもの笑顔で、清々しい返答が返ってきた。






「うん、ごめん。」

『ごめんじゃなくて。どうして嘘つくのか聞いてるの。』

「だから、ごめんってば。」

『……知ってるわよサイ。あんた、みんなの前ではえらく正直者みたいじゃない。なのに何で、アタシだけ除け者にするわけ?理由は?』

「じゃあ……」






フェンスに肘をつくアタシの横で、彼も器用に頬杖をつく。



そのまま顔をアタシの方に向ければ、首をコテンと傾けた。






「嘘ついて、ごめん。」

『……っもういいわよ、馬鹿……。』






彼はいつも言葉足らずというか、何というか。

頭は悪くないんだろう。現に彼は進学クラスでもトップの成績だ。






……でもそれは、あくまで“知識”だけで成し得たとでもいうか。

彼の頭に記憶されているものが、必ずしも彼自身の頭で理解されているものとは到底思われなかった。






『じゃあこれからはアタシに嘘つくのもやめて。それなら守れるでしょ?』






加えて彼の思考は、決まっていつも予測不能。






「ううん、悪いけどそれも無理。」






アタシがフェンスをグッと握り込めば、そのまま重心を後ろへと移動させる。






『はぁ?何でよ、馬鹿なこと言わないで。』

「無理なものは無理だよ。どうしようもない。」

『どうしようもないわけないじゃないの。あんたねぇ、アタシに嘘ついて悪いって自覚、あるんでしょ?』

「そりゃあもう。」

『だったら簡単じゃない。やめない理由こそないでしょ?』






斜めな角度から、アタシは彼の表情を探る。

正面から見たって何考えてるのかわからないのだから、こんな横顔がすれすれに見える位置から見たところで同じこと。






―――むしろこの角度からのほうが、彼らしい。

そう思って目を凝らし、思考を凝らすけど……やっぱりアタシには、その難解な彼の中身なんてちっともわからなかった。






『……また、“ごめん”?』

「うん、そう。ごめんね。」

『……あんたねぇ。そうやって逃げてばっかりじゃ、言いたいことなんか一生伝わんないわよ?』






諦め半分で首を振っていれば、意外なことに。

彼がこちらをパッと振り返った。






「……伝わらない?」

『っ……そうでしょ?』

「僕の言いたいこと、本当にわからない?」

『当たり前でしょ?わかる気がしないわよ、テレパシーじゃないんだから。』






そこまで言って気が済んだのか、彼は大人しく口を閉じる。

でもこうして人の……特にアタシの意見に聞く耳を持つのは、彼にとって珍しい。






「……それもそうだったね。ごめん。」

『はぁ……もうごめんはいいんだって、』

「だって常日頃から嘘ついてないと。いざってときに、君に本当のこと言っちゃいそうだもの。」






は……?

まともな返事をしたと思ったら、更に不可思議な言葉が飛び出す。






アタシは腕を引き戻した。

がしょん、とフェンスが音をたてれば、こちらに向いていた顔をフイッと校庭側に反らされてしまう。






『本当の、ことって……?』






アタシはそれを問いただそうと口を開いた、が。



そこでひとつ、今までの彼の言動行動で思い当たる節があった。






『……サイ。アタシの誕生日いつか知ってる?』

「17月3日。」

『アタシの性格は?』

「鈍感で極度の怖がり屋。ついでに言えば顔もひどく不細工。」

『好きな食べ物は?』

「キノコ。毒に当たってから大好きになったんでしょ?」






……アタシの誕生日は、3月17日。

人によく言われるのは、観察眼が鋭くて怖いもの知らず。



キノコは毒已然に、アレルギーで今は一口も食べれない。






『……サイ。アタシのこと、好き?』






アタシの鼓膜から、雑音が消える。

サイはゆっくりと、こちらを向いた。





「ううん、嫌い。」

『…………。』






それを聞き終えて、雑音が戻る。

校庭で騒ぐ在校生、町中を走り回る車の列、秋風……。






それらの現実を取り戻し、アタシはくしゃりと笑っていた。






『アタシもあんたのこと、大っ嫌い…っ……!』






少しうわずった声が出た。目に涙がにじんだ半泣きだった。

そんな泣き笑いをするアタシに、彼はどことなく満足そうに、頷いてた。






「そう。それはよかった。」






そんな言葉とともに、ぎゅっと……フェンスに据え置かれたアタシの手に、重ねられた手が温かい。






言葉はどんなに背中合わせでも。

握り込まれた手からは、互いの本音が伝っていた。






2015/2/1
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