短編 | ナノ
Masked bitcH [1/1]














オレは



私は






打ち明けられない恋をした。
























Masked bitcH












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はじまりが、セフレだったから。

お互いがそれ以上を求めない。






『んぅ……!、はあ、……あぁ…』






お互いが何人も梯子してるのをわかってる、だから引かれた一線以上を踏み越えるような馬鹿な真似はしない。



オレたちは似た者同士だった。






『……ねぇ、サソリ……?』






行為が終わり、ベッドに脱力した体を横たえた、奴を見る。

眠そうにした瞼を持ち上げて……グシャグシャのシーツを握り込み、また息を抜く。






『私ね。あなたが額に汗かいてるとこ、好き。』

「…………。」






……きっと行為中の、さっきのオレに対して言ってることなんだろう。

オレの反応をよく見ようと、うつ伏せた体で奴はこちらを窺ってくる。






―――また、そうやって。情事の色香が嘘みたいに、素に返る。

お前のそういうところに、オレは惹かれたんだよ。






「オレのベストショットは、テメーが股開いたままおあずけ喰らってるとこだろうな。」

『……もう、いじわる。』






けどオレたちは、セフレだから。

本当に想ってる“心の奥底”ってやつは、一向に伝えられやしないんだ。






……と。奴は、力無いはずの体を起こして伸びをする。






『ん〜、よいしょっと……じゃあ後は私に任せて。』

「……寝ろよ、疲れてんだろ。今日も無理な体位させたから。」

『ううん……いつも私が先に潰れちゃうから、今日は特別……触っていい?』






そう言ってオレの前に跪けば、遠慮がちに下から覗き込んでくる視線。

オレが何の反応もしないでいれば、奴はゆっくりとそれを扱いだした。






『サソリの気持ちいいとこ、未だによくわかんなくて……ここ、は…?』

「イマイチ。」

『そう……でも私、頑張るから。』






どうやら他の奴を相手にするより、オレのは数段扱いづらいらしい。

それでも奴は、懸命に指先を駆使し……そのうちまた、上目遣いにオレを捉えた。






『……ねぇ、その……舌、使ってみてもいい…?』

「…………。」






……いつもそう、奴はいちいち何をするにも許可を取る。






「……やってみな。」






快楽の奴隷のくせに、丁寧で、礼儀正しくて。

さっきもそう。媚を売るでもなく、自然体に行為に乱れるお前を見て。
























―――……本当に。綺麗な奴だと、思ったんだ。






『ここ、どう……?』






……違う、そこじゃない。

本当に触れて欲しい場所は、もっと別にあるはずなのに。






「っ……どけ、」

『え……』

「いいから口寄越せ。」






奴の口からそれを引き抜き、代わりに己の舌を突っ込んだ。

次第にそれを奴が受け入れれば、本日二度目の行為が続く。






……だがそんな快楽も、正直今となってはどうだって良かったんだ。






『ん、はぁ……!サソリ…お、おかしくなるっ……!』






カラダじゃない、秘部じゃない……繋ぎたいのはお前の中の、もっと奥の先にある。






「おかしくなれよ……。」






カラダでなく、その心と……一つになることが出来たなら。

オレたちはきっと、他の誰よりも深い絆を築けていたはずなのに。






……そう。他の誰よりも、お前を……―――






『今日も楽しかったよ、サソリ。』

「…………。」

『じゃあ、また誘ってね。バイバイ。』






……そんなことを、夢見ては。

また今日も、カラダだけの繋がりに終わっていく。
























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私たちは、このままでいい。






「っく……はぁ…、」






性という欲求だけで成り立った、この関係。

一度カラダの関係でいることを容認しておいて、後からぬけぬけと相手に情が湧くなんて、虫が良すぎる話。



そうでなくても、あなたがこの想いを受け入れてはくれないことくらい、わかってる。

だって束縛を嫌うあなたは、そんな私を面倒な女に感じて、すぐにどこか遠くへ行ってしまうんでしょう?






だから、言わない。私はビッチを続けてる。






「……前。」

『……え…?』

「勝手に居なくなっただろ、お前。」






行為を終えて、一緒に汗を流した後。

赤い艶のある髪から水滴の粒を滴らせて、化粧台の鏡に映ったあなたは言う。






『あ……うん。あの日は一回家に帰らないといけなくて、』

「行くな。」

『ごめんなさい、でもあの後はどうしても外せない用事で……』

「黙って出ていくなっつってんだよ。見送りくらいさせろ。」

『で…でもサソリ、気持ち良さそうだったし、』

「起こせバーカ。」






……ほら、また始まった。

たまに執着した素振りを見せて、子供みたいに駄々をこねる。






……私ね。あなたのそういうとこ、弱いのよ。






「そいつ貸せ。」

『え、あ……!』

「髪。乾かしてやる。」






背後からするりと入り込んできた手に、ドライヤーを拐われて。

行為のときとは比べ物にならないくらい、驚くくらいに優しい手つきで頭皮に触れる。






そんな彼に身を委ねるのは、どんなときだって気持ちいい。

セックス以外でもそう……お風呂上がりなのに、私はもうあなたの匂いに侵されていた。






(はぁ……もっと自分が真っ当なことをしていれば良かったのに……。)






私が彼に思うことは、いつもそんなどうしようもないこと。

職場、街中、ちょっとしたカフェのラウンジ……そんな中で出会うあなたには、どれほど積極的になれるだろう。
























―――でもきっと、その真っ当な世界に、決してあなたは居ないから。






「……足んねぇ。」

『…えぇ?さ、さっき散々したでしょう?』

「足んねぇモンは足んねぇんだよ。」

『……もう、しょうもない人。』






贅沢は言ってられないの。今こうしてあなたに巡り会えたのも、性と欲のツールがあったおかげ。

あなたに出会えた。それで満足。






(それでもオレは……)



(だから、私は……)






お互いを相手に、一生叶わない恋をする。






2014/10/18
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参考資料:『Masked bitcH』/GUMI

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